角田裕毅、怒りの接触リタイアは避けられた事故だったのか。「あんな小さいコーナーで入ってくるとは…」
角田裕毅(アルファタウリ)は71周のレースを50周目でリタイアすると、苛立ちを抑えようとしても抑えきれなかった。
「あそこまではすごくうまくいっていたので、すごく残念ですし、あそこであんな不可能なかたちで飛び込んで来るなんてショックです。彼のマシンにダメージがあったかどうかはわかりませんけど、すごく残念です」
ソフトタイヤからミディアムタイヤに履き替えて20周が経過し、これからレース終盤に差しかかろうかという矢先、ソフトタイヤに履き替えたばかりで勢いのあるダニエル・リカルド(マクラーレン)に追突された。
角田裕毅の2戦連続入賞は一瞬にして潰えた
低速のターン6にもかかわらず、右リアタイヤがリカルドの左フロントタイヤに乗り上げた角田のマシンは跳ね上げられ、フロアとサイドポッドにダメージを負ってしまった。
「見てのとおり。クレイジーな飛び込みでオーバーテイクを仕掛けてきたと思いますし、Tボーンでぶつかられて僕のレースは終わってしまいました。しかも彼は履き替えたばかりのソフトタイヤなので、あそこで抜く必要はないですし」
リカルドには「全面的に事故の責任がある」として、10秒加算ペナルティという通常よりも重い罰が科された。リカルド自身もそのペナルティを受け入れたものの、追い抜きを仕掛けたわけではなく、もう少しスペースを残してくれれば並んでクリアできたはずだと感じている。
「僕のほうにより大きな責任があったのは確かだ。でも10:0で僕のミスだとは思わない。僕はロックアップはしていなかったし、あのコーナーでオーバーテイクしようとしていたわけでもないし、エイペックス(コーナーの頂点)に留まっていたんだ。
あと20〜30cm、お互いにスペースを与え合っていれば避けられた事故だった。起きてしまったことには申し訳ないと思うけど、10秒ペナルティというのは重すぎると思う」
リカルドの主張はいかに?F1のスチュワードは、2台の位置関係をアプローチの瞬間、そしてエイペックスで見て判断を下す。アプローチからエイペックスの時点で、フロントウイングが前走車のフロントタイヤよりも前にいなければ、"勝負権"はなく引かなければならない。逆にそこまで並んでいれば、お互いに相手に1台分のスペースを残す必要がある。それができていなければ、ペナルティが科される。
今回のリカルドの場合は、この基準に照らし合わせれば勝負権がなく、事故の責任が全面的にあるというスチュワードの判断は前例に従った妥当なものだ。たとえば昨年のサンパウロGPでランス・ストロール(アストンマーティン)にやや遅れて飛び込んで追突した角田にも、同じように10秒加算ペナルティが科されている。
角田はターン6へ向けてアプローチする瞬間、まだリアウイングの後方にいたリカルドがインに飛び込んでこないと思った。すでにその前のターン4で攻防を繰り広げており、彼にソフトタイヤの威力があることもわかっていたが、それだけにこんなところで無理にオーバーテイクを仕掛ける必要もなかったからだ。
「彼のフロントウイングが本当に軽くリアウイングの横に並んでいるくらいでしかなかったので、あんなに小さいコーナーで入ってくるとはという感じですね」
ルール上は角田の言うとおりで、角田にはまったく非はなかった。
ただし、リカルドは追い抜きを仕掛けたのではなく、イン側で2台並んでコーナーを抜けようとしていた。
「あまり知られていないと思うけど、あそこはとてもダスティでイン側のほうがグリップが高く、アウト側の汚れた路面に彼を留めておけるんじゃないかと思ったんだ。そうすれば、次の立ち上がりは僕のほうが有利になるからね」
ターン4でブロックラインを取ってターン5の立ち上がりが苦しくなった角田に対し、リカルドはレーシングライン上から立ち上がり重視の切り返しでターン5を抜けてきていた。
10位以内が狙える位置だったそれに対して、角田は通常のライン取りでアウト側からターン6にアプローチしており、インには大きなスペースが空いていた。そこに付け入る隙を与えてしまい、リカルドとしても想定外の角田の動きで接触に至ってしまった。
あの場面では、リカルドに対して明確な「ブロックの意思」を示しておくべきだったかもしれない。そうすれば避けられた事故だった。
これまでルイス・ハミルトンやバルテリ・ボッタスらに対して、コース幅をいっぱいに使った巧みなブロックを見せてきた角田だけに、その技術がないわけではない。全面的な相手のミスとはいえ、ほんのわずかな気の緩みがこのような結果を呼ぶことは、角田にとってもいい学びにしなければならないだろう。
ガスリー離脱後に角田の役割はどう変わる?
それでも、ミディアムに履き替えて40周を走らなければならない"プランC"の戦略で、角田は巧みなタイヤマネジメントを見せていた。ちょうど時を同じくしてハードタイヤに履き替えた中団勢が大きくペースを落とし、そこからポジションアップが見えていた。
「戦略としてはかなりうまくいっていたと思いますし、あそこまでタイヤマネジメントをしていたのも今までで一番うまくできていたので、10位以内が狙える位置だったと思います」
結果にはつながらなかったが、成長も多く見えたレース週末だった。
予選では、前戦のアメリカGPに続いてQ3進出が見える位置にいた。今もまだこのポテンシャルを発揮できているのは、シーズン後半戦に入ってもライバル陣営がアップデートを継続しているなかではポジティブな要素だ。
ただし、Q2最後のアタックでコースインするタイミングが遅く、トラフィックに巻き込まれてタイヤをうまく温めることができず、Q3進出は逃してしまった。チームが幾度となく繰り返してきたこうした凡ミスを避けるためにも、ドライバーからチームへのコミュニケーションの見直しは重要だ。
ピエール・ガスリーがアルファタウリを抜ける来季に向けて、先輩ドライバーとして角田の役割はさらに重要になる。
ガスリーが抜けて来季は先輩アメリカGPでもふたりのポジションを入れ換えず大幅にタイムロスを喫した判断ミスがあったが、それはエンジニアやストラテジストの判断ではなく、フランツ・トスト代表の指示だったようだ。チームとして、それを翻せる状況ではなかったという。
ただし、角田自身も「次に同じようなシチュエーションになったら、もっと強く言います」と、改善の必要性は実感している。
なかなかクリーンな週末を過ごすことができないが、それでも着実に成長は遂げている。クリーンでないミスの部分は、そこから学び成長するための伸びしろ。それを忘れることなく、より優れたドライバーへの飛躍へとつなげていかなければならない。