かつて野村克也氏は「私が見てきたなかでナンバーワンの外野手は飯田哲也だ」と語った。飯田氏のプレーで思い出されるのが、ヤクルト時代の1993年、西武との日本シリーズでのバックホームだ。強肩はもちろん、捕球するまでのスピード、捕ってからの早さ、正確なコントロール......すべてがパーフェクトだった。そんなゴールデングラブ賞7回の名手・飯田氏に「名外野手」を5人挙げてもらった。

名外野手の条件とは?

 いい外野手の条件は、以下の3つだと思います。

1.捕れる打球を確実に捕球する
2.走者を進塁させない
3.安心感を与える

 1は打者の打球方向の傾向、試合状況における打者の打ち方を観察する力が大事になります。さらに言うなら、飛んでくる打球を予測して守備位置を考える"ポジショニング"。行き当たりばったりのヤマカンではなく、たとえ外れたとしても根拠を持ってポジショニングする判断が必要だと思います。

 たとえば、同一リーグのレギュラー選手なら1試合4打席×25試合で100打席は見るわけですから、打球の傾向はある程度わかってくるはずです。そこに選手の調子を加味してポジショニングをとるわけです。

 2は簡単に言えば、打球まで早く追いつくことができ、捕球体勢に入れば走者は止まるということ。打球へチャージするスピード、捕球技術、正確かつ強い送球が必要になります。

 3は「アイツのところに打球が飛んだら大丈夫だ」と、味方に安心感を与える守備です。うまい外野手が守ると、ピッチャーの心理状況も随分ラクになりますし、配球も変わってきます。

 そうした視点から、現役時代(1987〜2006年)、コーチ時代(2007〜19年)の間で、実際に見た選手を中心に名外野手を選ばせていただきました。


現役時代、ゴールデングラブ賞を7回獲得した高橋由伸氏(写真右)

内野手顔負けの捕球からの素早さ

高橋由伸(巨人/ゴールデングラブ賞7回)

 まず一番に挙げたのが、高橋選手です。高橋選手は「強肩」「安心感がある」「球際に強い」など、名外野手の要素を兼備しています。そして捕ってからの早さは、私と似たタイプだと思います。実際、高橋選手から「飯田さんの外野守備を参考にさせていただいています」と言ってもらったことがあります。

 そして高橋選手と言えば、ファイト溢れるプレーです。何度もダイビングキャッチをする姿を見ましたが、「大丈夫かな......」と思うことが多々ありました。というのも、高橋選手はプロ2年目の1999年に外野フェンスに激突して鎖骨を骨折。それ以外にもダイビングキャッチが原因でケガをすることが何度かありました。原辰徳監督は高橋選手に「ダイビング禁止」と言い渡したとも聞きました。

 ボールに飛び込む気持ちはわかりますが、彼ほどの選手が故障したらチームにとっては痛手ですし、シングルヒットで抑えられる打球を後逸したら三塁打になってしまう可能性もある。いずれにしてもリスクを大きく伴うプレーですので、個人的にオススメはしませんが、高橋選手の守備力の高さは群を抜いていました。

金城龍彦(横浜→巨人/ゴールデングラブ賞2回)

 金城選手は高校時代(近大附属)の2年夏に、投手として藤井彰人捕手とバッテリーを組み、松井稼頭央選手たちがいたPL学園を下して甲子園出場を果たしました。その後、社会人の住友金属を経て1999年に横浜に入団。

 入団後に本格的に野手に転向し、しかもスイッチヒッターにも挑戦して、プロ2年目の2000年に首位打者と新人王に輝きました。ただ、三塁手としては失策が多く、2001年から俊足と強肩を生かして外野手に転向しました。

「投手→三塁→外野」のコンバートは、「捕手→二塁→外野」の私とどこか似ています。そうしたこともあって、金城選手のプレーは注目していました。

 金城選手は「打球判断」「スタート」「球際の強さ」など、身体能力の高さを感じます。打球を落下地点まで一直線に追っていって捕球する。派手さはありませんが、無駄がいっさいなく「これぞプロ」というプレーでした。

 ゴールデングラブ賞は2005年と2007年の2度だけですが、私のなかでは名外野手でした。

ポジショニングの達人

秋山翔吾(西武→フィリーズ→広島/ゴールデングラブ賞6回)

 秋山選手は、私がソフトバンクのコーチ時代に相手チームの選手として見ていましたが、「これはヤバイな」という守備を何度も披露していました。味方の打者が打った瞬間「よし、抜けた」と思った打球も、秋山選手のミットに収まっている。ポジショニングがすばらしく、打球への反応がいいから追いつけるのだと思います。

 球際に強く、ダイビングキャッチやスライディングキャッチといったプレーもありますが、私としては難しい打球を簡単に捕る印象があります。こういう選手が外野を守っていると、ピッチャーとしてはものすごく助かると思います。

 飛球を捕ってアウトにする「刺殺」が、2014年290、2015年341、2016年301と、3年連続リーグ最多でした。つまり、ポジショニングの正確さ、守備範囲の広さを証明する数字です。

福留孝介(中日→カブスなど→阪神→中日/ゴールデングラブ賞5回)

 福留選手はもともと遊撃手だったので、外野手に転向してもすぐうまくなりました。冒頭で話したように、試合状況や相手打者の状態を考えながら守っているのがものすごく伝わってくる外野手でした。ポジショニングに関しては「これぞプロ」の領域でしたね。

 ある左打者に聞いたのですが、ライトを守る福留選手が最初は視界に入っていなかったのに、どんどん目に入ってくることがあったそうなんです。ピッチャーの配球、バッターのスイング軌道を見ながら、1球ごとにポジションを変えていたということです。

 また、外野フェンス直撃の打球を捕球すると見せかけて、走者のスタートを遅らせる「フェイク」もやっていました。守備に自信があるからこそできることで、常に考えながら守っている選手でしたね。

鈴木誠也(広島→カブス/ゴールデングラブ賞5回)

 鈴木誠也選手は、送球で走者をアウトにする「補殺」がシーズン最多というのが3度ありました。それに加え、二塁打コースをシングルヒットにしたり、本塁突入かと思われた走者を三塁で止めたりというシーンを何度も見ました。

 肩の強さはもちろんですが、捕ってからの早さ、送球の正確性を兼ね備えているからランナーを刺せるのです。

 決して「補殺が多い=強肩」ではありません。「塁を狙ってもアウトになる確率が高いので自重しよう」と走者に思わせる。イチロー選手や新庄剛志選手もそうでしたが、ランナーを走らせないのが真の強肩です。