夏になると、集中豪雨や台風などの報道が目に付くようになります。近年は大規模な水害になるケースも少なくありません。もし、建物が浸水被害を受けたらどうすればよいのでしょうか。もちろん、まずは命を守る行動や避難が最優先ですが、避難先から帰宅した後も、やるべきことが多々あります。浸水被害にあった際の対処法などについて解説します。

近年、大雨による水害が増えている

日本では毎年のように水害が起きている

近年は大雨による水害が増えています。各地でしばしば観測史上最大の降水量を記録し、河川の氾濫や土砂崩れなどの大規模な災害が発生することも少なくありません。水害は身近に起こり得る災害の一つであり、水害に備えることの重要性はますます高まっています。近年の水害の被害事例を2件紹介します。

2018年(平成30年)7月豪雨
2018年の6月28日から7月8日にかけて、台風7号の影響や梅雨前線にともなう線状降水帯の形成などにより、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨が降りました。とくに各時間降水量について多くの観測地点で観測史上1位を更新し、広域かつ同時多発的に河川の氾濫やがけ崩れ等が発生しています。

さらに、道路が崩壊したことにより集落が孤立したり、水道や電気などのライフラインが寸断されたりして、生活にも多大な影響が生じました。死者223名、行方不明者8名、家屋の全半壊等20,663棟、家屋浸水29,766棟など、被害は極めて甚大なものでした。

出典:気象庁 「平成30年7月豪雨」及び7月中旬以降の記録的な高温の特徴と要因について
       国土交通省 平成30年7月豪雨災害の概要と被害の特徴

2021年8月の記録的大雨
2021年の8月中旬から下旬にかけて、前線の活動が非常に活発となった影響で、西日本から東日本の広い範囲で大雨になりました。8月12日から14日にかけて九州北部地方と中国地方に線状降水帯が発生し、中でも14日は九州北部地方で猛烈な雨が降り続きました。特に佐賀県嬉野市では、24時間降水量555.5ミリを記録し、観測史上1位の値を更新しています。

この大雨により、河川の氾濫による家屋浸水や土砂崩れが発生し、死者13名、負傷者17名、住宅被害は8,209棟に上りました。送水管や排水管の損壊による断水や交通機関のストップ、道路崩壊や通行止めなどが多発し、社会インフラにも甚大な被害をもたらしました。

出典:内閣府 令和3年8月の大雨による被害状況等について

浸水被害にあったときの対処

浸水被害にあった場合、避難先から帰宅した後は何から手を付ければよいのでしょうか。被災地の支援経験の厚い支援団体「震災がつなぐ全国ネットワーク」が、水害にあった被災者の生活再建を手助けする目的でまとめた『水害にあったときに~浸水被害からの生活再建の手引き』があります。これをもとに浸水被害にあった際の対処法を紹介します。

出典:水害にあったときに~浸水被害からの生活再建の手引き

被害状況を写真に撮る
自宅に戻ったら、復旧作業に取りかかる前に、忘れずに被害の様子がわかる写真や動画を撮影しておきましょう。写真は1方向からだけでなく、最低でも4方向から、浸水の深さや状況などがわかるように撮影します。家の外側だけでなく、室内も撮影しておきましょう。その際に、浸水の高さをわかりやすくするためにメジャーを当てたり、人が一緒に映ったりして撮影してください。

車や家電、家具が水に浸かった場合は、それらも撮影しておきましょう。写真や動画の記録は市町村から罹災証明書を取得する際や、保険請求の際に必要です。

水が残っているときは排水をする

水が残っているときは排水を行う

床下に浸水した水が排出しきれていない場合は、できるだけ早く排水させましょう。浸水した水は汚水を含んでいる可能性があります。長時間放置しておくと衛生環境が悪化して、健康を害するおそれもありますし、カビや害虫が発生する原因にもなります。さまざまな悪影響を及ぼしかねないので、早急な対処が必要です。

浸水した水が少量の場合は、バケツで水を汲み出すこともできます。床板や畳を外してスペースを確保してから行うと、作業効率がアップするでしょう。水量が多い場合は排水ポンプがおすすめです。ホームセンターで入手できる工事用の排水ポンプを使うと、一気に排水できます。

施工会社・保険会社に連絡
浸水した家は、畳や床、壁などを取り替えなければなりません。家を施工した会社に早めに連絡し、修理の見積もりと手配を依頼しておきましょう。火災保険や共済に加入している場合は、担当者に連絡しましょう。どの火災保険に加入しているかわからないときは、自然災害損保契約照会センターに問い合わせると、契約の照会に応じてもらえます。

賃貸住宅であれば、管理会社を通じてオーナーに連絡して、大体の被害状況を伝えておきましょう。

罹災証明書の発行を受ける

罹災証明書の発行申請を行う

罹災証明書は浸水被害に限らず、地震や火災にあった際の被害の状況を証明するものです。罹災証明書は、被災者生活再建支援金や義援金などの公的支援、税金等の減免を受けたり、火災保険を受け取ったりする際にも必要になります。

罹災証明書を発行してもらうには、市役所など自治体の役所に発行申請をします。申請受付後、自治体の調査員が被害状況を調査し、一定の基準をもとに被害を認定。「一部損壊」「準半壊」「半壊」「中規模半壊」「大規模半壊」「全壊」のいずれかに判定されます。判定に疑問がある場合は、再調査を申請することも可能です。

大規模災害の場合は申請がなくても全戸調査が行われますが、罹災証明書の発行までに1ヶ月程度かかる場合もあります。

濡れた家具や家電を片付ける
濡れてしまった家具や家電の片付けもしなければなりません。ただし、上下水道や電気、ガスなどが復旧しない状況での作業は、思うようにはかどらないこともあるでしょう。また、ストレスや疲れも溜まっていて思わぬ怪我につながりかねないので、慌てずにゆっくり行いましょう。

水害後は砂やホコリが舞いやすいので、マスクやゴム手袋を着用し、こまめにうがいや消毒を行いましょう。また、足もとがぬかるんでいたり、ガラスや釘などが落ちていたりすることもあるので、底が丈夫な靴や長靴などを履いて怪我をしないように気をつけましょう。

ゴミ捨てのルールはふだんと異なるので注意が必要です。市町村のチラシや災害FMなどで確認しておきましょう。家族だけでは手に負えない場合は、無理をせずに、ボランティアセンターや自治体などに相談することをおすすめします。

床下の掃除、泥の除去・乾燥

床下の泥をかき出し乾燥させる

床下まで排水した後は、とにかく乾燥が重要です。濡れたた状態のままではカビや悪臭が発生してしまいます。まずは、床下の状態を確認しましょう。自分でできない場合は、施工会社やボランティアなどに作業を依頼するとよいでしょう。

床下に泥が残っていたら、かき出して消毒をする必要があります。汚泥は雑菌を大量に含んでいるため衛生環境が悪化するうえ、悪臭の原因にもなります。洗浄や消毒は自分でもできますが、細かい部分に汚れが残ったり、慣れない作業で木材を傷めたりすることもあるので、専門業者に依頼したほうが安心かもしれません。

床下だけでなく、床や壁、天井にも防カビ処理を施したら、送風機などを使ってしっかり乾燥させましょう。

まとめ

水害に際しては、まずは命を守る行動を取りましょう。危険が迫ってきたら速やかに安全な場所へ避難してください。避難先から帰宅してからは、説明した内容をもとに、焦らずに順を追って対処してください。