「人生」って…些細なことで変わると思うんです――


金曜ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系、毎週金曜よる10時)先週の第7話。居酒屋シーンでの石子(有村架純)と羽男(中村倫也)の会話は、二人の空気に惹きつけられながら、その言葉を起点にドラマを見たくなるような印象深いものだった。そして、第7話の結末は、石子と羽男に少し希望を与えたように感じた。第8話を前に、このドラマのキーとなりそうな会話をじっくり考える。(以下、第7話ネタバレあり)



階段から落ちて血を流しながら運ばれる少女を見て、石子は両手で顔を覆い座り込んだ。ただ事じゃないと瞬時に察する羽男。

「さっきの…どうした?」

一瞬で視聴者の心を持っていったこのセリフは、言い方としてはちょっと上からのようにも思える。でもそれが、近い距離で石子を包み込んで守っているように感じる愛情深いトーン。「何も」と笑顔をつくってみせる石子には、心配そうな視線を投げかけたものの「そう…」とだけ言ってそれ以上は聞かない。「そう…」の一言にも、石子の抱える何かを慮る温かさと踏み込まない気遣いが入り混じる。“相棒”という関係性の2人の距離がとても近く感じた。


第7話は、キッチンカーを破損させた人物を捜す石子と羽男が、繁華街でたむろする未成年のひな(片岡凜)と美冬(小林星蘭)に出会う。

ひなからのSOSを受けて駆けつけると、美冬が階段から転げ落ち大ケガをしていた。その原因は、長年暴力で支配してきた美冬の父親(野間口徹)にあった。


案件解決の糸口を見出し、まるで悪代官と番頭が悪だくみをするかのように調子づく石子と羽男。羽男は扇子を広げてご満悦、石子も腕を組み、したり顔で同調。ちょっと調子に乗りすぎた羽男が石子の真顔にを見て「ハハ…えっ?」と高笑い中止。コミカルなやりとりに思わず笑顔になったのもつかの間、珍しく石子はその父親に対して感情的になってしまい、父親を怒らせてしまった。


居酒屋。


「思ってた展開と違〜う」とボヤく羽男に謝りながらも、ひなと美冬を助けたいという強い思いを口にする石子。「これをきっかけに人生が変わるかもしれない」と言うと、羽男は「大げさ」だと言った。ここで一気に、石子の思いつめたような表情と空気に引き込まれ、会話の中枢へ。


「「人生」って…些細なことで変わると思うんです」


語られたのは、石子が司法試験に4回落ちている理由。初めての司法試験に向かう途中、たまたま目の前で事故を目撃し、毎回その事故のことを思い出してしまうのだという。耳を傾ける羽男の目にも静かに衝撃が走る。「誰かの人生が変わるのなんて一瞬」で、事故や事件があった場合、当事者や家族だけでなく「ただ目撃してしまった人の人生も 一瞬で変わってしまう」と話す石子。だから逆に、たまたま自分たちと出会って繋がりができた美冬とひなの人生を「少しでも変えられるかも」と願う。まっすぐに羽男を見つめる石子の目には、涙が浮かんでいた。


些細なことが分岐点となって人生が変わる。
ひなが石子たちと出会い、少しずつ心を開くきっかけもきっと些細なことからだろう。

つながりができた以上はそのまま帰すわけにはいかない、と石子はひなを自分の家へ。

石子の父・綿郎(さだまさし)が作ったチャーハンのグリーンピースを避けながら食べるひなを見て、綿郎は大皿のチャーハンのグリーンピースをよけはじめた。丁寧に用意された朝ごはんには、「ひなちゃん よかったら」と綿郎の似顔絵入りのメモ書きが添えてある。自分への愛情のつまった“些細なこと”がひなの心を溶かしていったに違いない。第6話でも同じようなメッセージを感じた。双子の息子を持つ親である高梨さんの妻が「大丈夫?荷物持つよ」とスーパーでかけられた一言が救いになったことや、妻の負担を少しでも減らせるように、子どもを風呂に入れたあと保湿クリームを塗るまでやろうと夫が小さな努力を誓う場面も。思いやりのこもった些細なことが、誰かの人生にとってはとても大事な救いになる。


ずっと友達をつくらなかったひなが美冬と友達になるきっかけは、コンビニのおにぎりを開けるのが下手すぎて意気投合したこと。やはり些細なこと。聞き込み中の石子と羽男に声をかけられ、そこから美冬は父親を訴える決意をし、二人は都民シェルター支援センターの前で石子と羽男に深々とお辞儀をする未来へ。そう思うと、このドラマ自体も、毎回一つの身近なトラブルがきっかけとなって、やがてそこに内包する問題が浮き上がり、それが社会問題へとつながる。些細なトラブルから始まって、石子と羽男が関わって、その人のこれからの生き方や気持ちが少し変わる。「人生」って…些細なことで変わると思うんです――。石子の経験と期待が、このドラマを動かしているように感じる。



「私たちとの遭遇で 彼女達の人生を 少しでも変えられるかもと 思いませんか?」という石子の問いかけに、羽男は「そうだね…」と言ったが、複雑な響きをしていた。「ただ…俺は期待しすぎない」と言った羽男は、石子の思いと現実の厳しさを両方抱えているように見えた。最初に石子に出会った頃の羽男だったら、もしかしたらこんなに複雑な響きにならなかったのかもしれない。きっともっと手前であきらめていただろう。しかし、石子と出会って思いにふれ、相棒としてともに歩んでいく中で、人が前を向いて歩きだす瞬間を見てきた。もともと持っている優しさや愛情深さに覆いかぶさっていたコンプレックスも少しずつ剥がれ、石子のような期待を信じたい気持ちも、石子と一緒にそれを叶える自信もちょっとずつついてきたからこそ、期待しても叶わないことが多かった過去や現実が苦しいのではないだろうか。RADWIMPSの主題歌『人間ごっこ』のサビのフレーズが、羽男の気持ちやドラマ全体の思いを掬いあげているように聞こえた。


父親を訴えるという美冬からは「もう…逃げないで戦います」という言葉。その言葉を病室の外で静かに聞く石子の姿。
「弁護士としてはほめられたことじゃないですがね ただ…大人の一人として どうにかねぇ」と少女たちにお金を貸す綿郎の背中。
石子の強い思いを受けて関わった少女たちを笑顔で見送る石子と羽男。
二人にとっても、そんな事実が、勇気や希望になっていることを願いたくなった第7話だった。


いやいやいや、その名刺何?「代表取締役」?ナカマルじゃないの?…とラストに一瞬で話題を持っていった大庭くん(赤楚衛二)が心配で仕方ないが、さて第8話はどんな展開が待っているのか。

些細な瞬間も見逃さずに、楽しみたい。


文・長谷川裕桃


第8話あらすじ

潮法律事務所に“隠れ家”を売りにしている創作料理店の店主・香山信彦(梶原善)から、店が知らぬ間にグルメサイトに掲載されてしまい、掲載の取り消しを求めてサイトの運営会社を訴えたいと相談があった。

羽男(中村倫也)と石子(有村架純)が運営会社の顧問弁護士を訪ねると、そこには羽男の因縁の相手、丹澤(宮野真守)の姿が! 羽男は掲載の取り消しを求めるが、丹澤はそれを拒否。交渉は決裂する。


示談が成立せず裁判で争うことになったため、石子と羽男は裁判に向け店側に有益な情報を集め始める。


そんな中、信彦には大喧嘩したまま疎遠になっている息子夫婦・洋(堀井新太)と蘭(小池里奈)がいることがわかり……。


■金曜ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』第8話
9月2日(金)よる10:00〜10:54

(C)TBS