日英共同開発での進行が濃厚となっている航空自衛隊のF-2の後継機、いわゆる「次期戦闘機」。ただ、相手国となるイギリスとの共同開発は、同国の過去の事例からしても、穏やかな道のりとは限りません。

当初は米ロッキード・マーチンとタッグ予定が一変

 航空自衛隊がF-2の後継として2035年頃から使おうとしている「次期戦闘機」について、イギリスと共同開発する方向で最終調整に入ったことが相次いで報じられています。日本がアメリカ以外の国と戦闘機を一緒に開発をするのは初めてのことです。

 この次期戦闘機は当初、アメリカの航空機メーカー、ロッキード・マーチンから支援を受ける予定でいました。しかし、アメリカが求める次世代戦闘機の開発と時期がずれることなどから、調整が難航したと推測されています。


航空自衛隊のF-2戦闘機(写真出典:航空自衛隊)。

 そのようななか2022年に入り、5月には日英首脳会談で、イギリスが進める新戦闘機「テンペスト」開発と、年末までに協力態勢の全体像について合意することで一致したと報じられました。その後、最終調整に入ったという情報が流れるのは、この合意が方向性を変えずに進んでいることを示しています。

 更新対象とされるF-2の開発は1980年代、国産かアメリカ製の機体の購入かアメリカ製の機体の改造かをめぐり、日米関係の戦後最大の危機と言われるほど大きな政治問題になり、最終的にF-16を大規模改造することで落ち着きました。

 しかし、今回も道のりは決して平坦ではないといえるでしょう。というのも、日本はアメリカ以外との大型兵器の共同開発は初めてであることに加え、国際共同開発においてイギリスは経験豊富、別の言い方をすれば老練な相手といえ、そのような国と対等に計画を進めなければならないからです。そもそもイギリスは過去に、国際共同開発でパートナーが去る苦労を味わっているのです。

 イギリスは1960年代、フランスと一緒に攻撃機「ジャギュア」を開発後、攻撃機「トーネード」の開発に乗り出します。その合意覚書へ1968年にサインしたのは、イギリスと旧西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、カナダの6か国。しかし、1970年にはイギリス・旧西ドイツ・イタリアの3か国に減っていました。これは、財政上の理由や、全天候運用能力などをめぐる要求が各国で異なっていたためでした。

イギリスの航空史が物語る共同開発の難しさ

 現在、イギリス空軍・ドイツ空軍の主力戦闘機である「タイフーン」も、もともとイギリスと旧西ドイツ、フランスが目指した新戦闘機ECA(European Combat Aircraft)として立ち上がったものの、1981年3月に計画とん挫。その後計画名を幾度か変え、最終的にイギリスはドイツ・イタリア・スペインと共同で「タイフーン」を、フランスは単独で「ラファール」をそれぞれ開発しました。

 共同開発は一般的に技術を持ち合い、開発費も出し合うことで一国あたりの負担は減ります。しかし、運用要求や開発スケジュールがまとまらなかったり、出来上がった機体の性能に満足する否かがあったりして、開発が空中分解する危険性もあります。


イギリス空軍の「タイフーン」戦闘機(画像:ユーロファイター)。

 2022年7月、電子機器メーカーのレオナルドUKと三菱電機は、次期戦闘機と「テンペスト」用の新電子センサー・システムの開発へ向けて、作業分担などで合意し次の段階へ進むと発表しました。同月イギリスは、ベン・ウォーレス国防大臣が5年以内に「テンペスト」の技術立証機を飛ばすと発表しました。日本が2016年、ステルス機開発に向けてX-2を飛ばしたようにです。また、装備品を早く決めてほしいと、日本の商社がイギリス側からせかされているという話も聞きます。

 日英共同開発へ向けて進む次期戦闘機は、イギリスのロールス・ロイスと日本のIHIが共同で開発するという新エンジンを搭載する予定で、この開発が機体自体の開発スケジュールと同時で進むのか、という点もポイントです。また、次期戦闘機は輸出も目指すことになるようですが、日本は海外への兵器セールスの経験はまだ少なく、ノウハウもあるイギリスとどう歩調を合わせるのか、といった点も課題でしょう。日本にとっては初めてとなるイギリスとの次期戦闘機開発、我が国がどう乗り切るかは、これからも注目を集めることになりそうです。