「部材多すぎて大変!」どう対策? 首都高の「ハイテク橋梁点検」 迎え撃つ“大劣化時代”
建設から半世紀近くが経つ、首都高湾岸線の荒川湾岸橋。部材の多いトラス橋であることから点検も大変で、現場では様々な技術で効率化を図ろうとしています。
古い橋梁は点検も大変
開通から半世紀以上を経た首都高。各地で老朽化が顕著になっていますが、荒川河口部にかかる、湾岸線の「荒川湾岸橋」も例外ではありません。
首都高湾岸線の橋桁下部の検査路(乗りものニュース編集部撮影)。
この橋は1975(昭和50)年に桁が架設されてから47年が経過。鋼桁トラス構造と箱桁を組み合わせた構造ですが、海に近く塩分の影響を受けること、大きな交通荷重を受け続けることから、塗装が剥離し錆が進行するなどの損傷があちこちで見られるようになっています。ボルトが脱落していたり、桁部材をつなぐプレートが破断しているのが見つかるなど、応急対応に追われている状況です。
区画によっては腐食の進行を抑えるため再塗装が実施済みですが、多くの鉄骨を組み合わせてつくった華麗なトラス橋ゆえに、構成部材が膨大な数に上ります。このため、まだまだ「どこが傷んできているのか」という全貌の把握すら完全ではない状況です。
こうした現場環境のなかで橋梁の状態をしっかり把握するには、緻密な点検と、こまめな点検の両方を行っていく必要があるものの、それには人的な制約があります。それを克服するために最新の点検技術を導入した現場を見てきました。
「隅から隅まで、より気軽にできる」橋梁点検を実現する「ガジェット」たち
まずは「点検用ロボット」です。これは跨座式モノレールと同じ仕組みで、桁の上を進むものです。頭に360度カメラがついており、桁継ぎ目内部や奥まった部分の全景を撮影することができます。置けば先まで進んでくれるシンプルなすぐれものですが、傾斜がついているとダメという欠点があり、今後の課題だとか。
荒川湾岸橋の点検で活躍する「点検用ロボット」(乗りものニュース編集部撮影)。
2つ目は、道路保全の現場ではもはやお馴染みとなった「点検用ドローン」。点検路からみえづらい、橋の外側の桁側面にもアプローチが可能で、走行路下の空間へも近づくことができます。ドローンを扱える技術者は5人いて、それぞれ国土交通省の技能認定を受けているとのことです。
3つ目は「昇降式全方位カメラ」。といっても実際には、小型カメラを上からワイヤーでぶら下げるだけです。しかし、やはりこのカメラも360度撮影が可能で、人が近づきにくい海面近くの桁の目の前へもアクセスが可能となります。
これまでは、トラス内に渡された点検路を歩くか、ボートや隣の橋などから目視で点検するしか方法がありませんでした。トラス橋ということでとにかく部材が多く、死角も無数にあります。それら死角の点検は、ワイヤーロープで人がぶら下がって、見に行くしかありませんでした。時間も人件費も膨大になるこの作業が、上記の3つを駆使することで「人が行かなくても点検ができる」態勢になり、時間的には20倍にも効率化することができたといいます。
あわせて首都高では、点検体制に徹底的な「DX」(電子化による効率向上)を打ち出しています。点検データは「紙の帳簿」からすべて電子データベース化。それにより過去の状況を瞬時に引き出すことが可能となり、現場での記録もマイクからの音声認識で行えるようになっています。さらにレーザーによる構造物スキャンで、状況を精確にデータベース化し、損傷状況もオフィス内で分析できる形が作り上げられています。
日進月歩の技術で「温故知新」に奮闘
荒川湾岸橋の両側には、国道357号の荒川河口橋が架かっています。こちらはアーチ状の箱桁で、橋脚と橋脚の間隔が長く、何よりもトラス状ではないため部材が少なくシンプルな構造なのが目を引きます。また近年の長大橋の主流は、内部のワイヤーで引張補強した巨大な「PCコンクリート桁」を使用する構造で、とにかく部材が少ないのが特徴です。
一方、首都高の荒川湾岸橋の建設当時はまだ橋梁の建設技術が発達しておらず、広い荒川河口を跨ぐには部材の多いトラス構造を採用するしかありませんでした。そのメンテナンスや点検の大変さが、今になって重くのしかかっているのが実情です。
しかしそれを、今度は最新技術によってカバーしようとしています。構造物の全データベース化などのDXを進め、さらに通信容量が増大し、タブレットなどの端末がより小型・高性能になり、容易に入手しやすくなった現在になって、ようやく夢物語から脱却できたといえます。
古いものを新しいもので守っていく――。人口減少時代にあって、土木の現場では少しずつ、マンパワーで何とかしてきた点検管理の手法が、次の時代へと移行しつつあります。保全・交通部 点検・補修推進課の増井 隆課長は「各方面と連携し、今後もさらなる効果的な点検・補修の技術開発や導入を進めていきたいです」と話しました。
傷んできた荒川湾岸橋などインフラをどう補修していくかについては、首都高は「技術検討委員会」を開いて検討中。2022年内に取りまとめて、方針を決定するとしています。