プロ初勝利、初完封、球宴初出場…順風満帆から一転、ソフトバンク大関友久がガン疑いの発覚直前に語っていたこと
衝撃的な一報が飛び込んできたのは、8月3日の午後3時半のことだった。午後4時ちょうどの情報解禁つきで球団から「広報連絡」で送付されたメールには以下のような一文が記されていた。
<報道各位 大関友久投手に左精巣がんの疑いがあり、昨日福岡市内の病院にて左睾丸の高位精巣摘除術を受け無事終了しております。競技復帰は未定です>(原文ママ)
目を疑った。いや、「何だこれは......」と頭のなかが一瞬パニックになったという表現のほうが正しい。
その後、球団広報が取材に応じ、経緯などの説明があった。それによると、7月30日の西武戦(PayPayドーム)に先発し2回1/3を6安打4失点で敗戦投手になっていた大関は、先週末に左睾丸のしこりや違和感をチームトレーナーに訴えていた。痛みなどはなく、生活への支障はなかったというが、8月1日に泌尿器科を受診。そこで腫瘍が見つかった。
悪性の可能性もあるというので翌2日にセカンドオピニオンで別の病院で検査を受けたところ、やはり悪性の腫瘍である可能性があるとされ、同日夜に手術を受けた。その時点で、今後は摘出部位の病理検査を行なって腫瘍が良性か悪性かを判断。そのうえで、治療方針などを検討していくことになるということだった。
じつは、大関が最初に病院に行ったという1日午後、この記事のための取材を申し込んでおり、予定どおりに電話にてインタビューを行なっていた。
前半戦の活躍はもちろん、7月26日に行なわれたオールスターゲーム第1戦でパ・リーグの先発投手に大抜擢されていた。普段と変わらぬ誠実な様子で、こちらの質問に真摯かつ誠実に応対してくれた。あの時の大関が受診前だったのか不明だが、次回登板に向けた話題についても興味深いことをたくさん話してくれていた。だからこそ、余計にショックが大きかった。
千賀、甲斐をしのぐスピード出世大関は今季入団3年目の現在24歳。名は体を表すとも言うが、大関の名に恥じない身長185センチ、体重94キロの立派な体躯。ストレートは150キロ前後を常時マークし、スライダーやフォーク、ツーシームなどの変化球を自在に操る。
今シーズン、2度完封勝利を挙げるなど好調だった大関友久だが...
プロ入りは育成ドラフトだった。昨年5月末に支配下入り。昨シーズンはすべてリリーフで12試合に登板して勝敗なしだったが、今季は開幕ローテーション入りを果たすと、3月31日のロッテ戦(ZOZOマリン)で初先発し、7回途中1失点で見事プロ初勝利を飾った。
4月は中継ぎに回ったが、先発復帰すると5月7日のロッテ戦(ZOZOマリン)でプロ初完封を達成。さらに6月25日の日本ハム戦(PayPayドーム)では無四球完封もやってのけた。
現時点で今シーズン2度完封を記録しているのは、パ・リーグでは大関と伊藤大海(日本ハム)のふたりだけである。
前半戦を終えた時点で6勝5敗、防御率2.70の成績。この活躍が認められてオールスターゲームに監督推薦で選ばれていた。
大関との取材は、やはり話題の入り口はオールスターゲームのことだった。
「正直、すごいプレッシャーでした。初めてのオールスターですから、どんな雰囲気なのか想像もできていなかったので。何もわからないまま投げたという感じです」
球宴に初出場すること自体が栄誉なことだが、大関はさらに栄えあるオールスターゲーム第1戦のパ・リーグの先発投手に大抜擢されたのだ。
まだ入団3年目で、昨年春までは育成で、今年プロ初勝利を挙げたばかり。ソフトバンクには数多くの育成出身のスターがいるが、千賀滉大や甲斐拓也をもしのぐスピード出世である。多くの野球ファンが驚いたに違いないが、それは大関自身も同じだった。
「オールスターの2日前に球団マネジャーから連絡があったんですけど、第1戦に投げるという部分だけ読んでいて『先発』の文字を見落としていたんです。すると翌日に広報から『明日の第1戦先発の意気込みのコメントをよろしく』と言われて、その時に初めて知りました(笑)。自分が第1戦先発なんて、まさかないだろうと思っていたので......」
球宴出場で芽生えた思い普段とは違う重圧のなかで臨んだ晴れの舞台。舞台はPayPayドームだったから慣れたマウンドのはずなのに、やはりさまざまなことが違っていた。
全セの1番・塩見泰隆(ヤクルト)に初球をレフト前に運ばれた。すぐさま二盗を決められて、2番・近本光司(阪神)は打ちとったはずの打球を内野安打にされた。そして近本にも二盗を決められて無死二、三塁。だが、そこから踏ん張った。牧秀悟(DeNA)はレフトフライ。犠飛となり1点を失ったが、続く現役最強打者・村上宗隆(ヤクルト)は高め150キロ直球でセンターフライ。そして佐藤輝明(阪神)にも直球勝負で同じく中飛に仕留めた。大関の初めてのオールスターは1回13球、2安打、1失点の結果だった。
はたして、大関がオールスターで得た収穫とは何だったのか。
「思いきって勝負することしか考えられなかった。それはできましたけど、まだまだ力で抑え込める力はついてないなと思いました」
ただそれより──と大関は言葉を継ぐ。
「いろんな人と話ができこともよかったですが、見たり感じたりしているなかで、自分のなかに入ってきた雰囲気を肌で感じとれたことがすごく大きかったです。プレーをひとつとってもそうだし、それぞれの選手同士の会話、そしてスタンドのお客さんの歓声や高揚感......そこから受けた刺激がすごく大きかったです」
プロ野球とは何か? スターとは何か? あの2日間で思いを巡らせたという。
「細かなプレーはもちろん大切だけど、スケールや迫力といったフィーリングで感じとれるものだったり、飛び抜けたものや誰の目から見ても光るものだったり、プロ野球にはそれが必要なんだと思いました。それでまでは、たとえば打者を抑えるにしても、その理由(技術や駆け引きなど)は周りにわからなくても自分さえわかっていればそれでいいと思うほうでした。それがひとつのよさと考えていましたけど、それじゃダメなのかなって。周りの選手、そしてファンが納得してくれたうえで結果を出す。そういったことを求めるのがプロでは必要じゃないかと。まだ探り探りですけど、そういう思いが芽生えたのは確かです」
感覚を取り戻した矢先の出来事今年、シーズン序盤から好調を維持し、6月終了時点では防御率1.94だった。しかし7月は、1勝3敗、防御率8.10と大崩れ。シーズントータルの防御率も3点台まで悪化してしまった。
本来ならば、インタビューのあと、8月6日の楽天戦で先発する予定だった。
「そこ(不調の原因)は昨日(7月31日)に解決したんで。たぶん、次は大丈夫です。最近よくなかったのは、自分のなかで変えていた部分があったから。そこからおかしくなったことに気づいたんです。昨日、前の感覚を取り戻せたので大丈夫かなと思います」
先発ローテでいえば1年目の投手だが、大関はクレバーでさらに探究心が強い。まるで何年もローテーションを張っている投手が口にするような言葉をさらりと言えてしまう。
「悔しい思いをしましたけど、僕にとっては必要な過程だったと思います。より強く、より幹が太くなるための7月の1カ月間だったと感じています」
プロ野球人生を勇往邁進していたところだった。まさかこのような形でいったん立ち止まることになるとは......なぜ野球の神様はこんな残酷な選択をしたのだろうか。
先週の土曜日の夜、大関はおそらく心配して連絡をくれた知人や友人に一斉に返事をしたと思われる。筆者のところにも、前向きな言葉が綴られた文面が届いた。
まだ詳細は不明だが、とにかく、今はただただ大関が元気な姿で戻ってきてくれることを願うばかりだ。