「率直に言えば、めちゃくちゃ悔しい。でも、最後(の18番)はシビアな状況からパーで上がれた。あの終わり方をしたのはよかった。(序盤に)3パットを連続でして、そのあとにイーグルがあったり、ダボもあったり、いろいろやった一日でしたけど、最近の自分のゴルフの内容を考えたりすると、よく頑張ったなと(自分に)言いたい」

 2019年のAIG全英女子オープンを制した渋野日向子が3年の時を経て、再び同メジャーで躍動した。舞台は世界最古のゴルフクラブ、ミュアフィールド(スコットランド/パー71)。初めて女子大会が開催される歴史的な一戦で、トップと1打差の通算9アンダー、3位でフィニッシュした。


AIG全英女子オープンで3位と奮闘した渋野日向子。photo by Kyodo News

「優勝した3年前? 子どもだったなぁ〜と。やっていることが幼稚。な〜んにも知らんかったなぁ〜と。お菓子食べすぎだし、カメラに向かって食べてるし......あんなん、あり得ない(苦笑)。恥ずかしいです......。

(今も)あの頃の初心に戻って(ゴルフを)楽しみたいという気持ちはあるけど、そこにはきれいに戻ることはできない。やっぱり、(これまでに)やってきたことをしっかり発揮したいというのもあるし。そうしたなかで、心の底から楽しめるようにしたい。

 ただ(今回の舞台は)風もすごいし、む・ず・い(笑)。もうすべて、どのコースも難しい印象。目標? 自分との戦いでもあるし、風との戦いでもある。まあ、割りきってできるかなと思うので、風とまたお友だちになれるようにしたい。調子はいい状態とは言えないけど、歴代の優勝者としていいプレーができればいいと思います」

 2週前のエビアン選手権、前週のスコットランド女子オープンと、欧州に来てからも2週連続で予選落ちを喫していた渋野。かつての女王とはいえ、そういった自らの現状と、屈指の難コースを前にして慎重な姿勢を崩すことはなかった。

 ところが初日、3年前と同じく最高のスタートをきった。8バーディー、2ボギーの「65」という好スコアをマークして、首位発進を決めた。

「8バーディーなんて『いつぶり?』みたいな(笑)。こんなにパターが入るのは久しぶりだったので、(自分でも)ちょっと怖かったです。名キャディーさんが(パットが)入らなくなった時に重心がちょっと下にいっちゃっているのを第三者目線で言ってくれて、それを意識してやっているといい感じでした。

 最初は雨? もうやめようかと思った(笑)。それぐらい寒かったですよね? カイロ3つ貼って、お腹にも貼って、肩甲骨らへんにも貼って......。(そんななか、出だしから3連続バーディーで)自分らしくないっていうか、3番とかドライバーも芯が食いまくりで、よう飛んでた。2打目も自分の落としたいところにつけられて、(ふだん)あんないい当たりすることなんてないんですよ!

 だから、(序盤は)『気持ちわりぃ〜な』と思いながら出ていきました。でも、4番で3パット(のボギー)がきて、少し安心感が出ましたけど(笑)。自分らしいと思って。とにかく、今日は風を楽しんでいたかな。あまりに強すぎるので、スイングのこととか考える暇もなくて。それで、すごくボールと風に向き合えたのかな、と」

 2日目はややショットが乱れて、1バーディー、3ボギーの「73」。2つスコアを落として、順位は7位タイに後退した。

「昨日、一番上にいたとて、予選落ちを考えてしまう自分がおったんで......。だって、『80』打ったら落ちる。こんだけ風があったら、打つ可能性はあるんで。ゴルフは日替わりだから。選手みんなが思っているかもしれないけど、(そのことは今)自分が一番感じている。

 ほんと(初日に)これだけいいスコアが出ても、その前の試合までは70台後半ばっかり出ていたんで。その時のことは、忘れたくても忘れられない。だから、トップにいようと、気を引き締めてやらないと、と思っていた。

 とりあえず(今は予選を通過して)4日間できるのがうれしすぎるというか(笑)。本当に今日はよく耐えたラウンドだった。結構、落としてもおかしくないホールはたくさんあったんで。キレずに堪えたなというのは自分でも思うし、(ここ最近の不調からは)少しは変われたかなと思う」

 久しぶりに予選ラウンドを突破した渋野。おかげで、彼女らしい思いきりのよさが戻ってきたのか、3日目には再び爆発した。6バーディー、1ボギーの「66」で回って、通算9アンダーとして首位に5打差の2位タイに浮上した。

「今日はスタートから縦の距離が合っていたし、しちゃいけんところに外す回数が少なかった。ショットが安定していて、(距離の)計算も合っていた。パッティングも全体的に安定していた。

 昨日スコアを落としたことに対してマイナスイメージはなくて、(気持ちの)切り替えがしっかりできていた。昨日もよかったところがあったし、(今日になって)何を変えたというのもない。

 本当に今日は、ゴルフに集中して楽しめていた。(優勝した時から)3年経って、いろいろと変えたり、覚えたりして、それを発揮できたというショットが多かった。その分、すごく喜びを感じる。ほんと、ゴルフ自体を楽しめている。久しぶりの感覚」

 迎えた最終日、渋野は1イーグル、3バーディー、3ボギー、1ダブルボギーの「71」とイーブンのラウンド。トップと1打差まで迫ったが、惜しくも3位に終わった。

 とはいえ、メジャーの大舞台で、またもアグレッシブなプレーを披露した渋野。その姿に、多くのファンが魅了されたことは間違いない。

「(ここ最近とは)何が違ったんだろう......。心の底からゴルフを楽しめた、というのはあった。ちょっと怒ってしまう場面もあったんですけど、ああやって自分のミスに怒って、それを次のホールのティーショットで生かすっていうことが最近はなかった。というか、なんかもうあきらめてやっていた。

 でも今回は、怒りを力に変えられた。それは久しぶりの感覚で、そこはすごく変わったかなと思います。だからといって、ミスを引きずるようなこともなく、気持ちの切り替えもかなり早くできていたと感じています。

 予選落ちが続いているなか、『自分は何をしているのかな?』『どうしたいのかな?』って思いながら、ゴルフをしている時間が長くて......。本当に振れないし、『マネジメントってどうしたらいいだっけ?』みたいな、わけがわからなくなりながらやっていて。とりあえず試合をこなす日々が続いていた感じでした。

 でも、先週の1日目にやっとアンダーで回れて、いい流れで2日目もきていて。結果的には自分のミスを引きずって、スコアを落としてしまったんですけど、その前のエビアン選手権の時とは違う落ち方で、そこをいいように捉えて、その後の練習ではすごく熱を入れてやることができた。それで、まさか3位に入るとは思わなかったですけど」

 今大会を終えたあとも、「まだ、試合になれば(予選落ちへの)多少の怖さはあると思う」と語った渋野だが、そういった苦悩を抱えながら、こうしてメジャーの舞台で優勝争いを演じて、3位という好成績を残した事実は大きい。今後の戦いへ向けての糧となり、プラスに働くことは間違いない。

「子どもだった」3年前から、渋野は着実に成長を重ねている。メジャー2勝目の期待が、また少し膨らんだ。