※この記事は2021年09月17日にBLOGOSで公開されたものです

事実上の首相選びとなる自民党総裁選が17日に告示され、選挙戦が本格化した。立候補したのは河野太郎行政改革担当大臣(58)、岸田文雄前政調会長(64)、高市早苗前総務大臣(60)、野田聖子幹事長代行(61)の4氏。

同日党本部で行われた各候補の所見発表演説会で、高市氏は「日本を守る責任と未来を拓く覚悟を胸に立候補を決意した」と語った。また「国の究極の使命は国民のみなさまの生命と財産を守り抜くこと、領土・領海・領空・資源を守り抜くこと、そして国家の主権と名誉を守り抜くこと」だとし、「使命を果たすために全てをかけて働くことを誓う」と説明した。

総裁選は国会議員1人1票の「国会議員票」383票と、全国の党員・党友らによる投票で配分される「党員票」383票の、合わせて766票で争われる。29日に国会議員による投票が行われたのち即日開票され、新総裁が決定する。

演説全文

感染症などで家族を亡くされたみなさまに思いをいたす

みなさまこんにちは。高市早苗でございます。冒頭に感染症や、重病、また相次ぐ災害、事故や事件によって大切な家族を亡くされたみなさまの深いお悲しみに思いをいたし、心よりお悔やみ申し上げます。

コロナ禍にあって医療提供や、この社会経済活動の維持のために日々、懸命に働き続けてくださっている多くのみなさま方のご貢献に対して、深く感謝を申し上げます。現在、闘病中のみなさまの1日も早いご回復をお祈り申し上げます。また本日は台風14号の接近により非常に危険な状態が予想される地域がございます。どうか備えと注意を十分にしていただきますようにお願いを申し上げます。

これまで菅義偉総裁が命と暮らしを守り抜くという強い決意を持って私たちの先頭に立って、懸命に働き続けてこられた日々を思い、改めて敬意を表し、感謝を申し上げます。

今年の衆議院選挙に勝利することによって、自由民主党総裁は日本の国家経営を担うことになります。このような重要なステージに私を立たせてくださいました同僚議員のみなさま、誠にありがとうございます。そして平素より自民党の政策構築をはじめとする諸活動に大変なご指導を賜っております全国の党員党友のみなさま、そして国民のみなさまに心より感謝を申し上げます。

日本を守る責任と未来を拓く覚悟

私は日本を守る責任と未来を拓く覚悟を胸にこの自民党総裁選挙への立候補を決意いたしました。

私は国の究極の使命は国民のみなさまの生命と財産を守り抜くこと、領土・領海・領空・資源を守り抜くこと、そして国家の主権と名誉を守り抜くことだと考えております。この使命を果たすために私の全てをかけて働くことをお誓い申し上げます。

ちょうど本日9月17日は、19年前に日朝首脳会談が行われ、初めて北朝鮮が日本人の拉致を認めた日でもあります。大切な日本国民を取り戻すために、これからも自由民主党、一体となって力を合わせて懸命に取り組んでまいりましょう。

まずは、現下の困難を乗り切らなくてはなりません。新型コロナウイルス感染症につきましては、特に治療薬の早期投与による重症者と死亡者の数の極小化、そして自宅療養されている方の数を可能な限り減らしていくこと、そして国産ワクチン、国産治療薬の早期開発と生産設備への投資。また、飲食、観光関連のみならずサプライチェーン全体に及ぶ、多くの事業者のみなさまの経営基盤を維持して、雇用を守るための大胆な財政支援。これらの取り組みを重点的に行ってまいります。

アメリカの会計年度というのは昨年の10月から今年の9月までという年度でございますが、アメリカでは2021年度において、コロナ危機対策として約693兆円もの巨額の財政出動を行っています。それでも政府の税収は約395兆円増大しています。私はコロナの収束後も見据えた日本経済の立て直しに向けて急いで対策を講じます。経済政策につきましては後ほどまたご説明を申し上げます。

私は日本を守るために自然災害、感染症や重病、また食料安全保障、テロや凶悪犯罪、サイバー攻撃、また経済安全保障や国防にかかる脅威など、様々なリスクの最小化に向けた危機管理投資と法制度整備に最重点で取り組んでまいります。

経済安全保障と国防力の強化についても申し上げます。機微技術、先端技術、そして重要物資、また個人情報の流出を防ぐために経済安全保障包括法を制定し、秘密特許やまた一定の外国人研究者のスクリーニングを可能とする法整備を行うことを検討いたします。

今年2月に施行された中国海警法に対応できるように、海上保安庁法の改正に取り組みます。また、新たな戦争の形に対応できる国防体制を構築いたします。このゲームチェンジャーは衛星、サイバー、電磁波、無人機、極超音速兵器だと考えております。

敵基地の無力化、なかなか困難な取り組みではありますが、これを可能とするための法制度整備、また訓練と装備の充実。また防衛関連予算の増額を行ってまいります。また海底ケーブル、衛星の防御、しっかりと行ってまいります。

大胆な成長投資と分厚い中間層の再構築に資する税制

私は未来を拓くために雇用と所得の増大につながる大胆な成長投資、また分厚い中間層の再構築に資する税制。人材力の強化、全世代の安心感創出に資する諸政策を力強く実行してまいります。特に税制では育児や介護をしながら働いておられる方、非常に多うございます。ベビーシッターや家政士の国家資格化を前提にして税額控除を行える仕組みを構築したいと存じます。

また麻生内閣で検討されていた給付付き税額控除、また災害損失控除。こういったものの導入を目指しております。コロナ禍にあって、昨年中には就業者の約3分の1がテレワークを経験し、また東京23区内では20代の若い方々の約35%が地方移住への関心を高められました。本社の地方移転を検討しておられる企業も増えてまいりました。また地方にキャンパスを探しておられる大学もあります。地方としては移転を希望してくださる人材や大学や企業を受け入れる環境をしっかりと整えていかなければなりません。

日本全国どこに住んでいても安全に生活することができ、必要な福祉や医療を受けることができ、質の高い教育を受けることができ、そして働く場所がある。こんな地方を増やしていくことによって緊急時のリスク分散にもなりますし、何よりも豊かな地方経済への道を開いていきたいと考えております。

私は有事の経済政策として、日本経済強靭化計画を掲げ、経済を立て直します。第1に金融緩和でございます。第2に緊急時の機動的な財政出動。第3に大胆な危機管理投資、及び成長投資でございます。この三つの政策を総動員してまずは物価安定目標2%の達成を目指します。日本経済が軌道にのるまでには、時限的にいわゆるプライマリーバランスを凍結させていただき、戦略的な財政出動を優先いたします。プライマリーバランスが赤字であっても名目金利を上回る名目成長率を達成したら、財政は改善します。

超低金利の今がまさに大胆な取り組みを行うチャンスのときでもございます。危機管理投資、そして成長投資の恩恵というのは将来の納税者にも及ぶものでございます。そして強い経済というのは、全世代型の社会保障をしっかりと維持すること、また科学技術力や外交力の強化、さらには豊かな教育の実現にも資するものでございます。

産学官の力を結集して着手すべき危機管理投資

私の政策のなかで特に大きな財政出動を伴う政策というのが3番目の大胆な危機管理投資、成長投資でございます。この産学官の力を結集して急いで、着手するべき危機管理投資の例をいくつか挙げさせてください。

自然災害が激甚化しています。水害、土砂災害、そして耐震化対策の促進。また送電網・通信網の強靭化、それからこれからどんどん厳しくなっていくであろう気候に耐えうる、新たな土木建築技術の開発、これを急いでまいります。また、気候変動の中、農業の環境も変わってまいります。この新たな環境にしっかりと耐えうる食料安全保障体制の構築。そしてまた新技術を大いに活用した農林水産業の展開も急いでまいります。

今、海外の送信元から日本に向けたサイバー攻撃の数でございますけれども、私たちの4年前の衆議院議員選挙の頃には、大体1日あたり平均して3億9000万回でございました。ところが昨年の1月1日から12月31日までのパケット数を365で割ってみますと、直近の数字ではなんと1日約13億6600万回、これが海外から日本への攻撃です。私は国民のみなさまの大切な命や財産を守るために、特に医療、航空、鉄道、また電力、ガス、水道、金融、クレジット、こういった様々な分野について、サイバー防御体制の樹立を急いでまいります。

また、情報を安全にやりとりする量子暗号通信技術の研究開発と、社会実装も急ぎます。そして高度セキュリティ人材が何よりも必要でございます。この人材育成についても、懸命に取り組んでまいります。

デジタル化進展で必要になる省電力化と電力安定供給体制

また、デジタル化の進展によりまして消費電力が増えていく。特に2030年に約30倍になる可能性があるという予測が出されております。こうなりますと、省電力化研究の促進と、電力の安定供給体制の確立というものが非常に重要です。早急に着手をしてまいります。

約10年後から、大量廃棄が発生する初期型太陽光パネル、この処分を考えますと、セレンや鉛による土壌汚染や、表向きに置きますとそのまま取り外しても発電は続けてしまいますので感電の危険性というものがございます。安全な処分ルールの策定と、アルミの部分はリサイクルできるのですが、非常にリサイクルが難しい部分もございますので、このリサイクル技術の開発も必要でございます。

まだ様々ございますが、これらのリスクの最小化、これに資する危機管理投資というのはもちろん国内でも雇用を生み出します。富を生み出します。しかしながら、同じ課題に悩む諸外国への製品サービスの展開によって、これはまた成長投資にもなってまいります。

このほか、成長投資といたしましては、日本に強みがあるロボット、マテリアル、電子顕微鏡、量子基盤技術、電磁波、アニメ、ゲームなど、様々な分野はございますけれども、やはりこの技術成果の有効活用、また人材育成、そして国際競争力の強化、こういったことに向けた戦略的な支援を行ってまいりたいと存じます。

産学官におけるAIの活用による生産性の向上、また高付加価値な財、サービスの創出、それから中小企業のデジタル化やロボットの導入への支援の強化。これをしっかりと行います。スーパーコンピューター「富嶽」の開発が終わりました。次期の大型2大国家プロジェクトとして私が提案したいことがございます。

第1に、国産の量子コンピュータの開発でございます。2年くらい前には、量子コンピュータできるのにあと10年くらいかかりますよと専門家の方から伺っていましたが、もうIBMの実機が入ってきてしまっております。やはり経済安全保障上、国産の量子コンピュータ、また、日本のニーズにあった量子コンピュータ、を開発したいと思います。

もう1点です。安定的な電力供給体制の構築ということを申し上げましたけれども、ウランとプルトニウムが不要で、高レベルの放射性廃棄物が出ない、高効率の発電設備である、小型核融合炉の開発を急いでまいります。実現までにはまだ課題がございますので、これはやはり国で大型の支援をしなければ早期の実現は難しいと思いますが、2030年代に向けて今、取り組むべき課題だと考えております。

私は、長年、国会議員は主権者の代表だという、その矜持を胸に私自身も家族の看病や介護に大変苦悩した生活者の1人として、また、各地でお出会いした方々から伺った切実なお声をしっかりと胸に多くの法律案や、政府の施策を自ら発案しまた、実現してまいりました。

この、自民党の強みというのは、第1に若手からシニアまで幅広い年齢層の議員がしっかりと存在していて、年代ごとに直面する多様な課題を、みなさまが経験もし、また同世代の方々からのお声も集めてしっかりと把握しているという、この幅広い年代層の存在でございます。

第2に、やはり自民党は専門人材の宝庫だとつくづく思います。どの分野にあっても、豊かな専門知識を有する国会議員が多く、地方議員もそうです。さまざまな政策構築ができます。党所属議員が全国各地でお出会いした、幅広い年代層、また、様々な境遇の方、そして、非常に多様な業種の方々から伺った多くの声を生かして、全世代の安心感創出にしっかりと資する政策を構築し、また力強く実行することができます。

私たち自民党は国民政党です。この国民政党の底力をしっかりと結集して、国民のみなさまの大切な命と安心、安全をお守り申し上げます。

令和の省庁再編に挑戦

私は、今を生きる日本人と、次世代への責任を果たすために、技術革新や安全保障環境、また、社会生活の変化など、時代の要請に答えうる、新しい日本国憲法の制定について、力を尽くしてまいります。

そして、令和の省庁再編にも挑戦いたします。すでに他の候補者のみなさまからもアイデアが出ておりますけれども、私は例えば環境エネルギー省の創設。これは再編になりますけれども、環境とエネルギーは非常に関係が深い、大事なテーマだと思っております。

また、外局にサイバーセキュリティ庁を有する情報通信省の創設。また経済安全保障という観点から申し上げますと、対日外国投資委員会の創設、さらには通商代表部などについて検討を続けているところでございます。

日本の国は今を生きている私たちだけのものではございません。長い歴史の中で、田畑を耕し、産業を興し、地域社会を守り、伝統文化を育み、ときには尊い命をかけて、美しい国土と家族を守ってくださった、祖先たちの国でもございます。

そして、これから生まれてくる子どもたちのための国でもございます。一時代をお預かりしている私たちには、祖先から受け継いだ精神文化と、優れた価値を守りつつ、新たな挑戦をつづけ、美しく強く成長する国日本を作り、次世代に確かな未来を送る責任があります。私たちなら必ず成し遂げることができます。私は日本と日本人の力を信じております。共に頑張ってまいりましょう。