※この記事は2021年08月17日にBLOGOSで公開されたものです

各業界にくせのある人はいますが、その中でも強烈なくせ者が揃っているのがテレビ業界ではないでしょうか。今回のコラムでは私自身がくせ者と接触した実例をご紹介いたします。

放送作家の深田憲作です。今回は「テレビ業界のくせのある人たち」について書いてみたいと思います。

テレビ制作に従事する人たちが社会においてそれほど変わった存在だとは思いませんが、ただやはり、変な人が多いのは事実なのではないでしょうか。

少なくとも今の30代以上は幼少期からテレビに触れて育ち、テレビ画面の向こう側にいる芸能人や、華やかな世界に皆1度は憧れたことがあるはずです。しかし、高校・大学と人生の歩を進めるうちにその憧れは忘却の彼方へ。ほとんどの人は芸能の世界とは全く違う業界へ就職を決めていきます。

そんな中、子どもの頃からの憧れそのままにテレビの世界に飛び込んでしまったテレビマンという人種はやはり変わり者なのかもしれません。僕も自分ではマトモで、常識感覚を持った人間だと思っているのですが、地元の友人にしてみたら「十分変わり者だ」とのことですから、テレビマンは変わり者の集まりと言っていいのでしょう。

そんな変わり者集団のテレビの世界には当然のごとく“くせ者”が存在します。その“くせ”は実に多様性があり、観察のしがいがあるものばかりです。喜劇王・チャップリンが残した言葉で「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」という名言がありますが、まさにその“くせ者”たちは実際に自分が接すると面倒で厄介な輩なのです。しかし、客観的に見るととてもユニークに富んだ生き物であるとも思います。

いわば、妖怪です。

自分が夜道で妖怪に遭遇するのは嫌だけど、妖怪辞典を見るのは楽しいですよね?

そこで今回は、テレビ業界に巣くう“くせ者”を妖怪に例えて紹介していきます。彼らは僕がテレビ業界で出会った人たちですが、きっと読者の皆様も職場で出会ったことがある妖怪だと思いますので、共感とともにお読みいただければ幸いです。

ではテレビ妖怪を1匹ずつ紹介していきましょう。(余談ですが、妖怪を数える時の単位は「匹」だそうです)

テレビ妖怪辞典①「ショタイメンカマシ」

初対面でかましてくる。これは今風の言葉で言うと「マウントを取ってくる」というやつですね。この妖怪には若手時代によく遭遇しました。ある程度、年齢を重ねてくると遭遇率が減ってくるので少し寂しいと感じています(笑)。

テレビの世界では新番組が立ち上がる際に知り合うスタッフがたくさんいるわけですが、全体会議の場でこの妖怪はおとなしくしているものです。それがいざ「分科会」と呼ばれる少人数の会議になると突如として現れます。

当然ですが、この妖怪は番組のトップの人間ではありません。トップであれば“かます”必要はありませんから。そして、若手でもありません。まだ腕に自信のない若手が初対面の仕事相手にかますケースはあまりありません。僕が知る限りではこの妖怪はそれなりに実力をつけた中堅層に多い印象です。腕に自信はある、ただ名前は売れていない。そんな中堅がポジションを取るために初対面でかましてくるケースが多いのではないかと思います。

こちらを見下ろした目つきと威風堂々とした佇まいで「いや、この案はちょい厳しいっすよね~」「それならこうやった方がいいっすよね~」と、相手の意見をことごとく否定し、自分の意見でその場を支配し始める。ただ、お気づきかと思いますが、この妖怪は確固たる実力があるわけではないのでどこかでボロを出すことが多いのです。

これは僕の実体験なのですが、僕が提出して全体会議で通った企画案を、僕との1対1の分科会で内容をことごとく否定し、その企画のいいところを全て取り払った企画に作り替えた中堅ディレクター。そのディレクターとともに番組MCの大物タレントに企画の説明に行くことになりました。そこでタレントから「これって成立してないよね?」と企画の欠点を突かれた妖怪は「な、なるほど…」と小声でつぶやくと、その後は黙りこくってしまいました。

そう、自分より下だと思った相手に強い人間ほど自分より上の人間にはめっぽう弱い。これが真理というやつです。「このままだと打ち合わせが進まない」と見かねた僕は「じゃあこういうのはどうでしょうか?」「こうしてみたらどうでしょう?」と、そのタレントと話を進めてなんとか企画を着地させることができました。

するとその帰り道、妖怪ディレクターが満面の笑みでこんな言葉を。「じゃあ、深田さん(僕)の思うように台本書いちゃってください!僕は全て従います!」とんでもない手のひら返しにズッコケそうになりましたが、悪い人ではないのだなと気づいてホッとしました。

よくよく考えてみると初対面でかましてポジションを取ろうとするということは、小心者なのだと思います。この経験から僕は初対面でかましてくる妖怪を見ても腹が立たなくなりました。みなさんも初対面でマウントを取ってくる人と遭遇したら「内心はビクビクしているんだろうな~」と考えると気持ちが楽かもしれません。そして、自分もこのショタイメンカマシになっていないかという注意も必要です。僕も知らず知らずのうちにこの妖怪化していたことはあるはずですから。

テレビ妖怪辞典②「オマエモウカッテンナ」

どんな業界にも“後輩イジリ”というのはあると思いますが、テレビ業界は特にこれが横行していると思います。そんな後輩イジリの中で“放送作家あるある”と言えるのが「お前、最近儲かってんな?」というイジリを受けることです。

テレビ局員や制作会社の社員は給与で働いていますが、放送作家は基本的にほぼ全員がフリーランス。そして、番組のエンドロールに名前がクレジットされますから、その放送作家がどんな仕事をしているのかは会っていない人にも分かってしまいます。

食えていなかった若手時代から自分を知っている先輩にテレビ局の廊下などで久々に会うとかなりの高確率で「お前、最近儲かってるな?」というお言葉をいただきます。このイジリが大好きなオマエモウカッテンナ妖怪が一定数いるのです。

ただ、ここで笑いを欲しがって「そうっすね、儲かってますね!」なんて返そうものなら、その噂が電光石火で伝わり、「あいつは最近仕事が増えて調子に乗っている」というレッテルを貼られてしまうため「いやいや、そんなことないですよ~(苦笑)」といった、なんの面白味もない返答しかできません。

当然、仕事がない頃と比べると服装や持ち物もよくなっていくため、先輩はそんな身なりの変化を見つけては「お前、最近儲かってんな?」というイジリをしてきます。「いい財布持ってんな。お前、最近儲かってんだろ?」「あ、モンクレー着てる。儲かってるねー」「広尾に住んでんの?これは儲かってるわー」など。

これらはイジリ方の文脈として正しいのですが、たまに文脈がおかしい儲かってんなイジリをいただくことがあります。ある時、僕がテレビ局内のフリースペースで作業をしていると、久しぶりに遭遇した先輩が僕を見るなり「白髪増えたねー。これは儲かってんな!」と。そのまま足早に先輩は去っていったので、儲かってたら白髪が増えるという謎のロジックについて追求することはできませんでした。

ただ、この時に思ったのは、後輩とのコミュニケーションを取るうえで儲かっているイジリをするのが楽なのであって、本当に妬んでいるとか嫌味を言いたいわけではないことは間違いありません。ただ、「お前、最近儲かってんな?」の返答には笑いの意味での正解はないと思っているため、自分が後輩と接する時にはやらないように気をつけたいと思います。

テレビ妖怪辞典③「モリモリ」

これもテレビ業界では特に生息率が高い妖怪だと思います。

「話を盛る」という妖怪です。

表舞台で話す芸人さんはほぼ全員がエピソードトークなどで話を盛った経験はあると思いますが、裏方スタッフもほぼ全員がやっているのではないでしょうか。エンタメの世界に生きる人間としては、聞き手を楽しませるためにもそれは当然であり、なんなら話を盛らない人間の方がダメだという感覚すらあります。

0から話を作り上げるのは詐欺だと思いますが、1の話を盛って10の面白さにするのはテクニックだと思っています。ただ、問題はそのさじ加減、いや、盛り加減です。1を10に盛るのをギリギリ許容範囲とすると、1を50に盛る妖怪が稀に存在します。盛られすぎた結果、ありえない話が出回っているケースも珍しくありません。

例えば、若手時代に尖っていた千原ジュニアさんが東京進出する前、関東芸人の間では「関西の千原ジュニアという芸人はスベった人間をナイフで刺すらしい」と噂していたそうです。これは話が伝わっていく中で雪だるま式に話が盛られていった結果なのでしょう。普通に考えてそんなわけはないのですが、この噂を本気で信じていた芸人もいたそうです。

僕が最近聞いた話で「これは盛られてんな~」と思ったのは「ある国民的女優と国民的俳優が4日間連続で舞台に出演。開演前の舞台袖でスタンバイしている時、1日目はその2人が手を取り合ってイチャイチャしていた。2日目はキスをしていた。3日目はペッティングをしていた。4日目に舞台袖で俳優から告白して2人の交際が始まった」。

それを聞いて僕は「いや、そんなわけないだろ!」と思いましたが、これも事実としては舞台袖で手を取り合っていたかもしれないし、舞台後に付き合い始めたというのがあったのかもしれません。でも、1日ごとにこんなうまいこと段階を踏んでいるわけはありません。きっと妖怪の仕業です(笑)。

こんな話を盛る妖怪がいたるところに潜んでいるわけですから、安易に「ええ、儲かってますよ」なんて言えません。だからこそテレビマンが笑いを獲りにいく時は自虐が多くなってしまうのかもしれません。

ある人は嫁の尻に敷かれていることを、ある人は頭髪が薄いことを、ある人は年を取っておしっこが近くなっていることを。自虐話は盛られて伝わってもそれほど人間としてマイナスイメージはつきません。しかし、「儲かってますよ」が盛られた結果、「あいつはタワマンに住んで、バスローブ着て、夜景を見ながらワインを飲んでいるらしい」といった感じに話が伝わってしまう恐ろしい世界です。盛るのも盛られるのも気をつけなくてはいけません。

いかがでしたでしょうか?みなさんの職場にも同じような妖怪はいますでしょうか?

愛すべき妖怪を排除したり、遠ざけるのではなく、うまく共生していけるといいですね。一緒に頑張りましょう(笑)。

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
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