「投票に行かない層は後回しになる」NPO法人YouthCreate代表・原田謙介さんが語る 投票率向上活動のいま - 村上 隆則
※この記事は2017年04月12日にBLOGOSで公開されたものです
待機児童問題や奨学金など、若者に関わる政治課題が注目されているにもかかわらず、いまだ20代、30代の投票率は低いままとなっている。7月の都議選を前に、若者の投票率を上げるためにはどのような試みが考えられるのだろうか。長年にわたり若年層の投票率向上活動を行う特定非営利活動法人YouthCreate代表・原田謙介さんに話を聞いた。
2009年の政権交代前に比べると、政治に対する関心は下がっている
-- BLOGOSで原田さんを初めて取り上げたのはOneVoiceCampaignを展開されていた5年前ですが、原田さんはそれ以前から若年層の投票率向上や政治参画に向けて活動されていたそうですね
原田謙介氏(以下、原田):最初に若年層の投票率向上を目指す学生団体「ivote」を立ち上げたのが2008年でしたから、かれこれ8年以上この活動を続けていることになります。ただ、ネット選挙運動解禁を訴えるOneVoiceCampaignのようなテーマの分かりやすい企画や、主権者教育や地域の政策を通して継続的に政治参加を呼びかける現在のNPO法人YouthCreateなど、やり方はその都度変えています。昨年の参院選では18歳選挙権の解禁もあり、今までは呼ばれなかったようなイベントや会議でもお話をする機会をいただきました。
-- 2008年といえば、民主党政権が誕生した2009年の前年になります。当時の学生は政治に関してどのような意識を持っていたのでしょうか
原田:当時私は大学3年生で、就活が始まる前に何か面白いことをやりたいという気軽な気持ちでivoteを立ち上げました。でも何をやっていいのか全然分からなくて、色んな資料を探したり、学生が集まるイベントに行って「選挙に行きますか?政治に興味ありますか?」と無理矢理話を振っていました。その頃はどの学生も「まあ、興味はあるかな」くらいの反応は示してくれていましたね。政治に関する報道が多かったのもあって、関心は高かったです。
-- 2008年頃に比べると、現在の状況はどうですか
原田:政治に対する関心はやはり下がってきていると思います。2009年の選挙で政権交代はしたものの、あまりうまくいかなかったのでがっかりしているというか。ただ、そこが日本で初めての本格的な政権交代だったわけですから、それで終わりになってしまうのはもったいない。国民が投票することで政治を動かせるという雰囲気は作っていかなければならないと思います。
選挙時のメディアの取り上げ方は「もったいない」
-- メディアは注目度の高い選挙があると「若者の政治参加」という文脈で様々な活動を取り上げます。原田さんが代表を務めるYouthCreateも幾度となく取材を受けていると思いますが、メディアの取り上げ方についてはどうお考えですか。
原田:メディアの取り上げ方については、もったいないなと思うこともあります。選挙があると沢山のメディアにYouthCreateを取り上げていただけて、それはそれでありがたいのですが、8年前にivoteで取材を受けたときと内容が変わっていないんですよね。
何年経っても最終的なアウトプットは「学生や若者が投票を呼びかけています。新しい取り組みです。」というような内容の記事になることが多い。でも、変わっていることも色々とあるんですよ。以前取材していただいた学校現場での主権者教育や、若者同士での政策論争など、取り組みレベルでも変わっていますし、ivoteを立ち上げた頃に比べれば投票率を上げるための活動をしている団体も増えてきています。
-- 原田さんが代表を務めるNPO法人YouthCreateが行っている若年層向けの投票率向上活動について教えて下さい
原田:YouthCreateでは「Voters Bar」といって、地域に暮らす若者と地域の政治家が直接話し合える場を作っています。これは政治を届けるというよりも、政治家を市民に届けるという意識を持ってやっていますね。気をつけているのは政治家を「偉い人」だと感じさせないようにすること。そのために学生時代の失敗談を議員の方に話してもらったりしています。
-- Vorters Barを続けていく中で感じたことはありますか
原田:一番思うのは、全く政治に関心がないという人にはアプローチできないということです。記事を書いてもイベントをやっても難しい。そのためYouthCreateのイベントでは「街の問題や政治のことはよくわからないけど、ちょっと気になっている」という人を対象にしています。最初は硬い雰囲気になることも多いですが、参加者が打ち解けてくると色々な意見が出てきて面白いですよ。
-- 原田さんは出前授業という形で、高校生と政治について考える主権者教育も行っていますよね。学校では政治に対する興味のあるなしに関わらず生徒が授業に参加することになると思いますが、そのような場ならではの難しさはあるのでしょうか
原田:主権者教育は強制的に政治のことを考えてもらえる場という意味では貴重ですが、政治的な中立性をどこまで守らなければいけないのかというのが難しいところです。日本では教員が個人的な主義主張を言うことは禁じられています。とはいえ、政治的な話をすることが禁じられているわけではないので、個人的には、もう少し先生の判断を尊重してもいいんじゃないかと思っています。高校生くらいになると判断力も付いてくるので、先生が多様な意見やニュースを提示していくことで考えを深めていくのではないでしょうか。
原田:教育現場の話でいうと、昨年18歳選挙権が認められて、学校は公職選挙法をものすごく気にするようになっています。たとえば高校3年生の18歳と17歳が混在しているクラスで、数班に分け各政党の政策を調べてまとめていく。そして発表の際に17歳の生徒が勢いで「○○党をよろしく」というと公選法違反になるというんですよね。もちろん厳密には有権者ではない人の選挙運動は禁じられているのすが、そこを厳しく見ていくと、何の面白みもない授業になってしまう。せっかく生徒が調べたんだから、それくらい言わせてあげてもいいんじゃないかとは思いますね。
それと、やはり学校というのは生徒しかいない場なので、多様な意見を取り入れていく必要があると思います。高校生が想像できる範囲というのは限られているので、政治家に学校に来てもらったり、外部の人とグループワークをしてもらうというような事例も増やしていきたいですね。
待機児童問題など、身近な課題を通して政治を知って欲しい
-- YouthCreateは岡山県でも投票率向上活動を行っています。東京と地方で若者の意識に違いはありますか
原田:やっぱり地元感というか、愛郷心みたいなものは違うと思います。岡山だと、「あそこのスーパーがなくなるらしいよ」とか、「公園でイベント増えたよね」みたいな共通の話題があるので、年齢関係なく、色んな人が集まっても話はしやすいですね。ただ、人集めは難しい。母数の多い都内だと人数は集まるんですが、岡山で活動を始めた頃は20人を集めるのも大変でした。
都内ならではの悩みでいうと、地域に根差した企画を行う際に、人は集まっても学生や若手の社会人といった層はあまり来てもらえないというものがあります。家賃や職場の都合で今の土地に住んでいるという人がほとんどなので、都内で自分の住んでいる自治体を気にかける人は少ないんだと思います。
-- 都内の若者に政治参加を促すにはどうすればよいとお考えですか
原田:月並みにはなりますが、生活に密着した課題を通じて政治を知ってもらうのが一番だと思います。
例えば待機児童問題ですが、「保育園落ちた日本死ね」で盛り上がって選挙の際の公約に盛り込まれたものの、すぐには待機児童ゼロにはならないわけです。その理由のひとつは、予算が前年度に決まるという議会の仕組みなのですが、それを知らないと市民の側にはただ「行政は仕事をしていない」という不満だけが溜まっていく。自治体も努力は重ねてきているので、こうした状況は双方にとって不幸だと思っています。できれば自治体の取り組みや予算の決まり方を子育て世代にも知って欲しいし、自治体と手を取り合って課題を解決する方法を模索していきたいですね。
その第1弾というわけではないんですが、子育てと政治の変遷を表にしたり、自治体職員の方にインタビューした『子育てと政治をつないだら』という冊子を作って配布しています。それに関連して、この間、お母さんたちと都議会に行ってみたんです。議会の見学をきっかけに「議会ってなに?」「委員会ってなに?」という疑問を持ってもらいたいなと。
子育てが政治課題としてクローズアップされることで、若い世代が地方自治に興味を持つための間口は広がってきています。今年7月には都議選もありますから、それまでに当事者の方達だけでも、政治に関心を持ってもらえるようにしたいですね。
-- 原田さんが若者の政治参加を促す活動を続けている理由は
原田:やっぱり、国内にプレイヤーが少ないからですね。アメリカでもアフリカでもアジアでもヨーロッパでも、投票率向上のための運動をしている人は結構いるんです。でも、ivoteを始めた8年前、日本には全然いなかった。今は増えてきてはいますけど、まだまだ少ないと思います。
もう1つは、自分たちの世代が舐められないためです。政治家も票数の多い上の世代も、投票は「行くべきもの」だと思っているし、口には出しませんが、政治家は投票に行かない層は後回しにします。そういう状況を変えるためにも、20代とか30代もちゃんと投票に行ってるんだぞというのを見せたい。
投票に行かなくても社会のことを考えたり、行動をしている人はたくさんいますが、それが数字として政治の世界に現れるのは選挙のときだけです。自分たちの意見を投票というアクションで見せられるんだから、若い人も投票に行った方がいいよというのはずっと思っていることですね。
-- ありがとうございました
プロフィール原田 謙介(はらだ・けんすけ)
1986年生まれ、岡山県出身。2008年、学生時代に若年層の投票率を向上させるための学生団体「ivote」を結成。2011年まで代表を務める。2012年、発起人としてネット選挙運動解禁を求めるOneVoiceCampaignを展開し、ネット上で多くの賛同を集める。2013年、特定非営利活動法人・YouthCreateを設立。地域の政治家と若者をつなぐイベント「Voters Bar」や高校生向けの主権者教育を継続的に行っている。ブログ、Yahoo!ニュース個人などで執筆活動も行う。