※この記事は2017年04月06日にBLOGOSで公開されたものです

壱岐市の漁協ではマグロの漁獲が10分の1以下に?


壱岐市マグロ資源を考える会

「マグロ資源の回復と持続可能なマグロ漁の確立」を目指し、2013年10月にスタートした壱岐市マグロ資源を考える会も、設立からはや3年が経過しました。この期間、マグロ資源の現状を伝えるためのSNSを活用した情報発信や資源管理の輪を広げるための各地漁業関係者様との意見交換の実施、また、資源回復のための提言として、特に重要であると考える「日本海の産卵期・産卵場における産卵親魚(産卵群)を対象としたマグロ漁」について、早期の科学的根拠に基づく適正な漁獲制限または禁漁の実施を求めてきましたが、残念ながら実現するまでには至っていません。

壱岐市において、年間を通じて操業が可能だったマグロ漁も、近年ではマグロの姿を見ないことが多くなり、マグロ漁そのものが出来なくなってきました。私がマグロ漁を始めた頃、船の上から海を眺めれば、銀色に輝くマグロの姿を見ることができたものですが、現在では全く見ることができません。

私が所属する勝本町漁協の漁業者では、大半が年間収入の7~8割をマグロに依存し、長年にわたりマグロ(特に30kg未満の未成魚)の恩恵を受けてきましたが、平成17年の358tをピークに平成26年には23tにまで漁獲量が減少し、平成27年・28年とわずかに増えもののマグロ資源が回復した実感はありません。

壱岐市では、資源を無駄にすることなく、漁業者全員が漁業で生計をたてることができるようにと「資源管理型漁業」が提唱されています。また、マグロに限らずほとんどの魚種において「釣り漁法」に特化した資源管理が行われています。さらに、本会では、産卵親魚(産卵群)に十分な産卵をさせることが重要であると考え、対馬市の漁業者や遊漁船など各関係者のご協力のもとに2015年から3年計画で産卵期にあたる6月~7月の2ヶ月間、産卵親魚(産卵群)を対象とした自主禁漁を実施しています。自主禁漁の効果につきましては、今後期待できるものと考えていますが、マグロは回遊魚であるため、私達の取り組みだけでは限界があります。

マグロは既に絶滅危惧種に指定されている


壱岐市マグロ資源を考える会

スーパーの鮮魚売り場やテレビCMなどで、マグロを見ない日はほとんどないでしょう。マグロが絶滅危惧種に指定されていることさえご存知ない方も多いかもしれません。最新の資源評価でマグロ資源の現状を見ると、漁が行われていない状態で海の中にマグロが100匹泳いでいると仮定した場合、現在は2匹と半分(約2.6%)しかいないとされています。一般的に20匹(20%)を下回ると全面的な禁漁が必要であるとされていますので、あまりの低さに驚かれることと思います。

マグロ資源の減少を受けて、2014年、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)は、「産卵親魚を増やすこと。」を目的に、30kg未満の未成魚の漁獲量について、基準年(2002-2004年平均)から「半減」することを決定し、日本としては年間4,007tを超えないことを義務付けました。その決定を受けて、国内では、沖合漁業(まき網漁業:13船団)に2,000t、沿岸漁業(釣り漁業22,000隻、定置網漁業(約4,600ヶ所など)に2,007tを配分し、さらに沿岸漁業を6つのブロックと定置網の共同管理に分けて、それぞれに漁獲上限を設定する制度を2015年1月から導入しています。

この部分だけを聞くと、何ら問題のない制度のように聞こえるかもしれません。しかし、この制度には多くの欠陥があり、全国各地で問題が発生しています。

私は、問題が発生する原因は漁業者にあるのではなく、制度そのものにあると考えています。例えば、なぜ、マグロ資源が減少したのかという原因を特定することなく、沖合漁業も沿岸漁業もみなさん一緒に我慢しましょうという前提に基づいて制度設計がなされています。本来、資源が悪化した場合には、まず、その主たる原因を究明することから始めるわけですが、それすら行われていません。また、沿岸漁業者に対するヒアリングも一切なく、マグロへの依存度や地域性も考慮されないままの制度設計となっていることも、問題が発生する大きな要因だと考えています。

産卵群に対する早急な漁獲制限、禁漁が必要


そこで、問題点を改善するために、以下のような提案をしています。

・現場でマグロ漁を行う沿岸漁業者の意見を聞き制度に反映させる
・過去の漁獲量の歴史や資源に対する影響を踏まえたうえでの沖合漁業と沿岸漁業の配分の見直し
・マグロへの依存度や地域に応じた自由な管理期間の設定
・正確な漁獲量を把握するためのモニタリングシステムの構築
・日本海の産卵期・産卵場における産卵親魚(産卵群)を対象としたマグロ漁の漁獲制限あるいは禁漁の実施

この中で特に、日本海の産卵期・産卵場における産卵親魚(産卵群)を対象としたマグロ漁につきましては、WCPFCが目指す「産卵親魚を増やすこと。」という資源管理に逆行するだけでなく、日本の排他的経済水域(EEZ)内に、十分な産卵ができる環境が整っているにも関わらず、その環境を人間自らが妨げている現状となっていますので、早急な漁獲制限あるいは禁漁の実施が必要と考えています。

将来におけるマグロ資源と沿岸漁業者のビジョンを


壱岐市マグロ資源を考える会

私は、いつでもマグロの将来について考えてきました。マグロがたくさんいた海も知っていますし、マグロがいなくなった海も知っています。どうすれば、以前のようなマグロのいる豊かな海に戻せるのか。どうすれば、持続的なマグロ漁ができるのか。どうすれば、漁業者が積極的な資源管理に取り組みながら、マグロ漁という漁業を通じて幸せに暮らせるのか。考えは尽きません。

現在、マグロ資源は10年というスパンで回復計画が立てられています。正直、10年後の姿が想像できるのかと言えば到底想像することはできません。常々、水産庁には、来年、3年後、5年後、10年後、沿岸漁業者がどうなっているのか。沿岸漁業者のあるべき姿とは何なのか。将来におけるビジョンを示してほしいと要請していますが回答はありません。

最後に、私には、同じ目的を目指すたくさんの仲間がいます。道のりは平坦ではありませんが、「マグロ資源の回復と持続可能なマグロ漁の確立」の両立を目指し、一日でも早く実現できるよう今後とも積極的な活動を続いていきたいと思います。