※この記事は2017年03月13日にBLOGOSで公開されたものです

「水の中でデンキウナギの電撃を受ける」「カミツキガメをから揚げにして食べる」などなど…体当たりな取材で一部の読者からネット上で熱狂的な支持を受けている生物ライター・平坂寛氏。

時に「そこまでしなくても…」と思わされるような生き物への情熱はどこから生まれ、どこに向かうのか。平坂氏に好奇心の源泉や今後の目標について語ってもらった。(取材・文:永田 正行【BLOGOS編集部】)

「もっとこいつを深く知りたいぞ」という時に食べる

―生き物に興味を持ったのは、いつ頃でしょうか。

「いつから」というのが分からないくらい、もう生まれてからずっと好きですね。両親が言うには、それこそ赤ちゃんの時から好きだったらしいんですよ(笑)。物心つく前から、その辺の虫を捕まえてずっと握ってたりして、大変だったらしいです。両親も生き物が好きで、父親は釣りやクワガタとりに連れて行ってくれました。

―大学では生物関係の学部にいたそうですが、具体的にどういう研究をしていたのですか。

琉球大学で沖縄の淡水魚について研究していました。元々、僕は沖縄の自然、虫も魚も鳥も、すべて好きでした。なので、何を研究するかは、すごく悩んだのですが、先輩や仲間と野外に出るうちに、川にたくさんの外来魚がいることに気がついたんです。

それまで外来魚といえば、ブラックバスとかブル―ギルぐらいだと思っていたのに、それが10種類も20種類もいる。そうした実態を見て、もうちょっと勉強して、こうした問題を広く本土の方にも知っていただく必要があると感じて研究をはじめたんです。

―外来魚が入ってきて生態系が壊れてしまうという危機感を伝えたかったということでしょうか?

危機感というよりも外来魚の問題の実態を知ってほしいという思いがありました。外来魚の中には、その魚が元々の生態系に入ってきて、どういう問題が起こるか自体が分かっていないものもいるんです。

「ブラックバスのような外来魚は生態系を破壊する悪いやつなんだ」と聞くと、「駆除すればいい」という話になって、そこで終わってしまう。自分で、「なんで悪いんだろう」「解決するにはどうしたらいいんだろう」ということを、考えてもらわないと根本的な解決につながらない。だから、興味のない人にも考えるきっかけを持ってほしいと思って、筑波大学大学院に進学してからライターの仕事を始めたんです。

―デンキウナギや香港のドブに棲むナマズなど、いろいろなものを釣り上げて食べていますが、「食べること」に対して、こだわりはあるのでしょうか。

できれば全部食べてみたいと思うのですが、さすがに絶滅危惧種や、経験上、味の見当がついているものは食べません。でも、「もっとこいつを深く知りたいぞ」という時は食べます。

僕は魚専門、虫専門というわけではなく、どんな動物のことでも知りたい人なので、どうしても知識が”広く浅く”になってしまうんです。少しでも知識を”広く深く”にするために欲張りたい。多くの人が目で見るだけで終わっている部分を、こねくり回して匂いを嗅いで、食べて知ろうとしているのです。「美味しいものを食べたい」というわけではなく、「その生物のことを勉強したい」という視点で食べる。

「なんでこんな味がするんだろう」「なんでこんな食感なんだろう」といったように身の質などを意識して食べると、いろんなことがわかるんです。

―先日執筆されたデンキウナギの記事が話題になっていましたが、電撃を体験するにしても普通はせいぜい地上だけだと思います。それをわざわざ水の中に入って電撃を体験している。なぜそこまでやるのでしょうか?

好きだからとしか言えないです。陸上と水中では電気ウナギの電流が明らかに違うはずです。であれば、水中で感電するまで「デンキウナギの電気を感じた」とは言えないんじゃないかなと。陸上で触って感電して、食べちゃったら、一生後悔して、もう一回水の中で電流を感じにいくと思ったんですよ。だったら、もうやっちゃおうと。

でも事前に情報収集をして、「死なない」という確信があるところまでしかやりません。当たり前ですが、他の生き物が触れなくなるので、死んだらもったいない。

ニュースなどでは、危険なものは過剰なくらい「危険だ」と言った方が意識付けにもなるので正しい場合もあると思います。「場合によっては死に至る」ということをクローズアップした方がいい場合もあるでしょう。

ただ、僕はちゃんと”知りたい”んです。虫に刺されたにしても、どういう症状が出るのかが、どの媒体も取材が適当すぎてバラバラなんですよ。「刺されたように痛い」とか、「痛みはないけど後々」みたいな表現をみると、「なんだ、それは?」と思います。であれば、僕が代表してちゃんと調べる。一旦経験してみると好奇心は収まりますし、「ちゃんとこの動物のことを知ることが出来たな」と思いますね。

―危険を冒してまで、「生き物を知りたい」という思いの根底にあるのは、純粋な好奇心なのでしょうか。

そうですね。ライフワークです。機会があれば書籍にまとめたりすることもあるかもしれませんが、基本的には好きでやってます。

今の時代、ネットを使えば、なんでもその場で分かってしまう。図書館に行けば図鑑だって、ものすごく充実している。だから、世の中の大抵のことは分かるのですが、僕はその”大抵から外れている部分”を知りたいので、そのためには実体験するしかないんですよね。

この間、オニヒトデという毒を持っている生き物に刺されたのですが、図鑑には「指先を刺されただけで腕がパンパンになる」「膨れ上がって激痛が走る」と書かれているのに、実際には全然毒針が刺さらない。

指先は皮が厚くて刺さらなくて、針が折れてしまう。皮膚が柔らかいところを押し付けても、なかなか刺さないから無理やりねじ込んでも、全然痛くないんですよ。普通の針を刺しているような感覚で。ぐっと押し込んでようやく毒の感じがしたので、抜いたんですけど、蚊に刺されたくらいしか腫れなかったですね。

僕がただ毒に対して強かっただけなのでしょうけれど、そんな風に図鑑に書いていないことを追いかけていくうちに、図鑑や本に書かれていることが、必ずしも正しくはないぞということを身に染みて感じるようになりました。図鑑には「この生き物は○○しか食べない」なんてことが書いてあったりするのですが、実際に捕まえて胃袋を裂くと全然違うものが出てきたなんていうケースはザラです。

ただ、ざっと知識をたくわえて生きている姿を見たいなら、動物園や水族館でいい。美味しいものが食べたいんだったら築地に行けばいい。どこにもない部分をとるには、苦労して体験するしかありません。執筆するためには、実体験がないと絶対いいものが書けないんですよ。

珍生物をハントするのに特別な装備は必要ない

―平坂さんのような活動をしていて苦労するのはどのようなところでしょうか。

単純に収入が不安定というのが一番の苦労です (笑)。あとオオカミウオの記事を書いた時は、思わぬところに飛び火してしまいました(※編集部注:平坂氏がTwitterにアップしたオオカミウオの画像が海外で一時「福島近海で獲れた異様な魚」として拡散。その後、大手メディアによって否定されることで収束した)。

僕はオオカミウオが好きなので、当時は「ふざけんな」と思いましたが、ああした反応があるということは、それだけ信じられないような見た目の魚だということの裏返しでもある。「気持ち悪い」と「かっこいい」は紙一重だと思うので、オオカミウオがやっぱり良い魚なんだということを、読者の反応が証明してくれていたんだと今は思うようにしてますね。

―特にお気に入りの生き物はありますか?

まだ記事にはしていないのですが、ワニガメは好きですね。カミツキガメは食べたことがあるので、ワニガメも食べるつもりで捕まえたのですが、思い入れが強すぎて、結局食べられなかったんです。実際に出会うと、図鑑で見るのと全然違うんですよ。小さい頃から大好きだったので、実物見たらかっこよすぎて、「これを僕一人の好奇心や知識欲で食べちゃったら一生後悔するな、もったいないな」と思ってしまった。

「なんでも殺して食うバーバリアン」みたいに思われているところがありますが、意外と人としての心は持ってるんです (笑) 。自分の気持ちに正直になることを選ぶようにしています。

もちろんワニガメを食べるところを見たい人はいると思いますが、僕が食べたくないと直感で思ってしまったら、それは食べないほうがいい。「生き物を食べて後悔する」というのは、すごいひどいことだと思うんですよ。殺しておいて、「殺さなければよかった」と思っているわけですから。それは取り返しがつかないですし、一生後悔はしたくないので、そこは直感に従うようにしてます。

―フィールドワークの中で一番痛かった思い出は?

レンタカーでアメリカのルイジアナを旅している時に、車がぬかるみにはまってしまったんです。それを押そうと思って降りたら、車がファイアアントというアリの巣を踏んでしまっていて。

刺されると火で焼かれたみたいに痛くなるからファイアアントと呼ばれているのですが、短パン、サンダル姿だったので両脚を刺されて、あれは泣きそうでしたね。その日にレンタカーを返却しないと「やばい、日本に帰れない」という状況で、必死になっているところを刺されて両脚真っ赤になって…。

ミツバチの群れに両脚群がられる、あるいは硫酸を脚から塗りあげられるみたいな痛みでしたね。結局、レンタカー屋目前でパンクして、飛行機にも乗り遅れてしまいました (笑)。

―珍しい生き物を捕まえるには、専門の装備が必要なのでしょうか。

意外と要らないんですよ。いい道具を揃えているライターさんもいますが、適当でいいんです。僕は手ぶらで行ったりもします。本当になんとかなるんですよ。釣り針だけ財布に入れておいて、100均で麻ヒモ買って、それででかい魚釣ったりもしますし。

いい道具を使わないのは、「その状態が一番動ける」から。僕は気が小さいので、高価なものを持っていると、それをかばってしまう。将来ものすごいお金持ちになったら平気なのかもしれないですが、安いジャケットでもヤブとかに入って、木の枝に擦れて、どんどん防水性能が落ちていくのが嫌なんです。

であれば、ユニクロとかGUのシャカシャカの適当なやつを着て、使い捨てになってもいいくらいの勢いでいきたい。釣竿だって5万も6万もするものを使っている人もいますが、僕は3000円くらいので大丈夫です。釣れるんで、なんでもいいですよ。虫取り網だって5000円くらい、なんなら100均でもいい。

―子どもは基本的に生き物が好きですし、平坂さんの記事のファンも多いと思います。

ライターを始めた理由の一つに、本を書きたかったというのもあるんです。自分が子供の頃に読んでワクワクした生き物の本を、いつか自分が書く側に回りたい。昔から常々そう思っていたので、今は子供の頃の自分が読んだら喜んでくれそうなものを書いています。

実際に、イベントなどで会ったときに慕ってくれるお子さんもいます。もちろん嬉しいですけど、同時に「ちょっとこれじゃいけないな」とも思う。記事の主役は生物であって、僕になったらダメなんですよ。だから、僕を尊敬してくれるお子さんが増えているということは、僕が前に出すぎてしまっているのではないかとも思うんです。

NHKとディスカバリーチャンネルが獲ったものは個人でも獲れる

―今後の目標をお聞かせください。

かなり難しいのですが、コガシラスッポンというスッポンを見てみたい。東南アジアにいる絶滅危惧種なのですが、当然とるわけにはいかないので見るだけでいい。百何十キロとかある、めちゃくちゃでかい、ウルトラ怪獣みたいなスッポンで、それこそ悪ふざけみたいな見た目をしているんですよ。

あとキングコブラも捕まえてみたい。ジャングルや湖のそばに生息しているのですが、すごく分布が広くて、東南アジア全般に広く住んでいるといわれています。群れるわけでもなく「ここに行けば見れる」ということがないので、適当に目星をつけて、適当に毎日を過ごしていたら、そのうち会えるよみたいなところに惹かれますね。

―資金などの制約がなければ、世界中を見て回りたいというわけですね。

生き物を捕まえる上でのハードルを考えていくと、金を積めばとれるものが一番楽なんです。NHKやディスカバリーチャンネルが捕獲出来ているものは個人でも獲れる。少しお金を出して、漁船をチャーターすれば、ダイオウイカが獲れるんですよ!次に楽なのは身体張ったらとれるもの。その次が時間かければとれるもの。一番難しいのは、運が良ければとれるものですね。

―今後もっと深めていきたい生物のジャンルはありますか?

分類ではないですが、とにかく「危ない・強いやつ」ですね。鳥とかまだ全然詳しくないので、生物全般の知識を深めて生きたいとは思うのですが、最近は身体の衰えを感じ始めてしまっているんです。

だから、本格的に腰や膝が悪くなる前に、運動能力を求められることをやっておこうかなと思っていますね。先程いったキングコブラもそうですが、ホオジロザメ、大メジロザメ、イタチザメといった人食いザメは一通り捕まえたいですね。ホオジロは数が少ないんで、見逃してやろうかなと思っているんですけど(笑) 。

―本当に生き物が好きなんですね。

究極の目標は、一生新しい生き物を見続けること。それでいつかショック死するくらい衝撃的な生き物に出会いたい。例えば人魚とか、カッパとか、「ありえない」と自分の脳みそが拒絶するくらい不思議な生き物を見てみたい。たぶんいると思うんですよ、地球には。

プロフィール

平坂 寛 (ひらさか ひろし)1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがいの生物ライター。
個人サイト:Monsters Pro Shop
Twitter:@hirahiroro
Instagram:hiroshi_hirasaka

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平坂 寛
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