※この記事は2015年05月19日にBLOGOSで公開されたものです

ここ数年、新聞や出版社などの大手マスメディアもネット対応を迫られている。各社が、今まで紙で展開していたコンテンツをネット上で展開するだけではない、“ネットならでは”の見せ方を模索している。そうした中でも、注目を集めているのが、朝日新聞が取り組んでいるウェブサイト「withnews」だ。読者からの取材リクエストやネット上で盛り上がっている話題を深堀り取材するなどして、読者からの支持を集めている。サイト運営の中で感じた手応えや今後の方向性についてwithnews編集部の奥山晶二郎氏に話を聞いた。

本気でデジタル対応しようとしているのか、という危機感

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―まず改めて、withnewsを立ち上げた経緯についてお聞かせください。

奥山晶二郎氏(以下、奥山):withnewsは1年程前からスタートしたプロジェクトです。

私は元々、いわゆる普通の新聞記者として入社し、佐賀や山口、福岡といった地域で仕事をしてきました。現在、私が所属しているのはデジタル本部デジタル編集部という部署なのですが、デジタル本部ではデジタル関連の事業全般を扱っていて、編集部はもちろん広告や販売、プロモーションなどの部門もあります。

メディアラボ(新事業開発などを行う朝日新聞社内の研究部署)と似ている部分もあるのですが、ラボが編集とは関係ないことも含めて新しいことをやろうとしているのに対して、デジタル本部では原則朝日新聞デジタルというコンテンツを土台に様々なサービスを考えるというようなイメージです。このデジタル本部の中で、「次世代の読者に対して、どのようにリーチしていくか」という問題意識があり、「ちょっと新しいことをやってみましょう」という話になったのです。

そうした中で、デジタル本部内の各部署から2~3人ずつメンバーを集めて、10人ぐらいのチームを作り議論を行いました。当初は「新しい読者にリーチできるならば、どんな方法でもいい」ということで、TEDみたいなライブイベントをやろうといった案も出ました。ただ、議論の過程で最終的に、「朝日新聞デジタルというものを土台にしていながら、その資産をあまり生かしきれてないのではないか」という部分も見えてきたのです。

ここ数年、情報産業全体がどんどん技術と共に発展していく中で、新しいニュースサービス、コミュニケーションの方法が生まれてきました。新聞社も紙を土台にしつつ、いろいろ手は出していたのですが、本格的に対応はしてなかったのかもしれないと考えたんです。単に「デジタルで発信している」と言っても、新聞の紙の記事をそのままデジタル化しているだけで、SNSの使い方や記事のフォー マット、写真のつけ方といった部分は、本当にデジタル対応にしていたんだろうか、と。

例えばキュレーションみたいなフォーマットを使った記事の見せ方や新聞紙の締切にこだわらないソーシャルメディアの使い方がもっと出来るのではないか、という議論の中で、新しいニュースサイトとして生まれたのがwithnewsです。

―編集部のメンバー構成は、どのようになっているのでしょうか?

奥山:全体で5人くらいです。編集の専従者は、僕ともう一人、経済部出身の記者がいます。もう一人、編集以外の何でもという感じで、システムの方針やバグ出しからアライランスまでまとめてやってもらっている人間が一人いて、専従という意味では3人ですね。さらに、デジタル編集部の記者が平日、日替わりで1人入っています。

他に広告やプロモーションの部分で朝日新聞デジタルと兼務という形で関わっている人間が2人ぐらいいるというイメージです。

―1日に出す記事の本数やPVなどは、立ち上げ当時からどのように変化しているのでしょうか?

奥山:現在では、1 日3~4本記事を出すようにしています。PV は、右肩上がりには来ていて2月が過去最高を記録しました。

―取材リクエスト機能や従来の新聞社らしくないTwitterまとめ記事の作成など、様々な試みをしていますが、現時点までの手応えはいかがでしょうか?

奥山:小さいながらもいくつか手応えを感じているものがあります。

例えば、「ジャポニカ学習帳から昆虫が消えた」という非常にバズった記事がありました。この記事が読まれた要因を突き詰めていくと、「虫が気持ち悪いという人がいる」ということは事実なのですが、それを気にして萎縮してしまう時代の流れというか、意識の変化をとらえたからという部分があると思うんです。そうした消費者や企業の意識の変化、時代の流れといったものを「ジャポニカ」というキャッチーなアイコンを使って記事にしたところが受けた要因じゃないかと。

「ジャポニカ学習帳」だけだと、通常の新聞の現場ではそこまで大きな話じゃないだろうみたいに思われてしまう部分もあると思うんですよね。しかし、ネットであれば、「まず読ませないといけない」ですから「ジャポニカ」というキャッチーなアイコンが大事なんです。その上で、その事象の背景みたいなところまで踏み込んで説得力のある記事が書けるかどうか、というのは従来のメディアならではなのかなと考えています。この記事は最終的に新聞紙面にも載りました。

いままでのメディアのやり方だと、重厚な内容のものを直球勝負で「大事なんだから読んで当たり前だよね」といって、投げ続けていた部分があると思うんです。そこは反省というか、今までとは違った記事の読ませ方もあるんだということを学んでいます。

また、記事の作り方についても日々学ぶものがあります。

例えば、今日は愛川欣也さんの訃報がありましたが、新聞の場合、夕刊のニュースになります。しかし、当然ですが、ネットでは事実がわかった時点で記事にするのが正解です。(※取材実施日は4月17日)

こうしたストレートニュースを、新聞の締切を意識せずに素早く出すということはやっていたのですが、withnewsを運営していく中で、一つの事象に注目が集中した際の読者の情報ニーズにもっと応えられる部分があるのではないかと気づいたんです

どういうことかというと、愛川さんくらいの大物であれば、過去のインタビュー記事や写真といった資産を私たちは持っています。それらを、こうしたタイミングで公開することは、ほとんどなかったのですが、今回は訃報にあわせて以前の重厚な内容のインタビューを一部編集した上で公開しました。

政治にも関心のある方だったので、「当時、愛川さんはこういうことを語っていました」というエピソードをちりばめた記事を公開すると、読者に「アド街の愛川さん」とは違ったイメージをもってもらうことができます。俳優としての活動や報道番組にも出演していたことなど、読者の注目が愛川さんに集まっている時に、様々な側面を届けることが出来たという意味で手応えを感じました。

以前の私たちは、紙の締切にこだわりすぎていましたし、なおかつこうした訃報であれば、とりあえずファクトを伝えればいい、というところで終わっていました。ですが、一つの出来事が発生した時というのは、表現は悪いですが、みんなニュースに飢えているわけです。そうした飢餓感に応えらえる資産を私たちが持っているのであれば、どんどん投入していった方がいいですよね。過去の記事は、記事を書く現場ではコンテンツとして生かされていません。それを生きかえらせる術というかニュースの需要のタイミングについては、非常に学ぶものがありました。

「マネタイズの視点を持たない新聞記者は“甘い” 」

―他メディアですとPVやTweet数などが一般的ですが、サイトの評価基準はどのようになっているのでしょうか?

奥山:ページビューでいえば、当面の目標として月間1千万PVといったようなキリのいい数字があればいいとは思っています。当然、さらなる上積みを目指していきます。

ただ、そこが最終目標ではありません。先程お話ししたような、朝日新聞の本体が取り組みにくいことを積み重ねていければ、withnewsをやった価値はあるんじゃないかと考えています。もちろん、プロジェクト全体が説得力を持つためにも、「これだけ読まれた」という数字は必要だと考えているのですが、より俯瞰的に見て、朝日新聞本体でやれなかったことにチャレンジして形にするといったことが目標といえるでしょう。

ただ現在ネットメディアの世界は、様々なメディアが切磋琢磨しているので、僕らもその中でチャレンジしていきたいという思いもあります。

例えば、マネタイズのことなどを考えると、記事広告のような事例は朝日新聞デジタル本体ですと、できることに限界があると思うんです。であるならば、せっかくwithnewsという飛び地をつくったので、そこで例えばヨッピーさんみたいな方をライターになっていただいてエッジの効いた「こんなのあり?」みたいな企画ができたら面白いですし、ヨッピーさんさえOKならやれるんじゃないかと思っています。

―奥山さんは記者ですが、マネタイズも含めて関わっていくということでしょうか?新聞記者というと、本当に記事だけ書くというイメージがあるのですが。

奥山:本業の人からみれば、まったく甘ちゃんかもしれないのですが、日々わからないなりに考えています。

新聞社がやっているというサイトに対する安心感や過去のコンテンツ資産のポテンシャルを生かして、クライアントのプロモーションに役立ててもらえる市場の可能性もあるのではないかと。

―記者も、記事を書くだけじゃなくてマネタイズも考えていくと。

奥山:すべての記者が考える必要はないかもしれません。ですが、少なくともデスクのような差配する立場のポジションの人間であれば、当然考えるべきだと思います。現場は戦わなければいけない場面もあるでしょうから、そこは従来の形でもいいかもしれません。

しかし、少しでもエディター的な要素の加わったポジションになれば、自分の担当以外の部分、全体として自分のところの情報がどれだけ効率的に広く拡散するか、どれだけ売り上げがあって、次の活動につなげられるかという視点は持つべきだと思います。

今は、なかなか持っていないのが現状ですので、それはちょっと甘いというか、かなり胡坐をかいていた部分があったんじゃないかなというのは反省としてありますね。

―ネットらしい見せ方ということでTwitterの反応をまとめた記事もありますが、一方で、「それを新聞社がやる必要があるの?」という部分もあると思います。新聞社本来の強みというのは、きちんと教育を受けた記者が、一般人がアクセスできない場所にいって記事を書くということだと思うのですが、それをネット上でどう見せていくか、というのは課題なのではないでしょうか?

奥山:取材リクエスト機能などにも通じるのですが、コンテンツレベルの事例として、私たちは「検証記事」を結構作っているんです。ある出来事について、「何か起こっているのは みんな知っている。でも、なんかfacebookのタイムラインの中で流れてしまって『あの青白のドレスなんだったんだろう』」といった状態があると思うんです。そういうニーズをうまく拾って記事にしています。

新聞の記事はフローというか、情報がどんどん流れていってしまうので、一から読む人がわかりにくいといった状況があると思うんです。一方で、取材の積み重ねによって得られた最新情報を紙面化しているという部分もあるので、過去の経緯を振り返ろうと思えばいくらでも振り返られるんです。なので、「探偵ナイトスクープ」のようなものから、キーワード、マメ知識みたいなものまで、検証して記事をつくるといったことをやっています

例えば、シリアの人質事件の際に、中田考さんが「自分が交渉役になる」と名乗りを挙げましたが、「あの人だれ?」と思った読者も多いと思うんです。そこでウィキペディアレベルの情報は調べるかもしれませんが、それだけではよくわからない部分を私たちが過去に実施したインタビューなどを使って補うような記事を作る。そうすることで、記者会見の情報に補助線を引くことが出来る。こうした読者のニーズをつかむことは出来ると考えています。

媒体としての“キャラクター”を明確にしたい


―今後の成功イメージはどのようなものでしょうか?

奥山:個人的な思いとしては、withnewsで得たノウハウをどんどん朝日新聞デジタルや本紙にフィードバックしていきたいと思っています。

ただ、この業界というのは日々変化していくので、withnewsのような“飛び地”がないと対応しにくい部分があると思うんですね。まだまだwithnewsもそれほど尖ったことはやれてないと思っているのですが、朝日新聞デジタル本体だと時間がかかることをどんどん試して失敗するための場所という意味での存在意義はなくならないんじゃないかと考えています。

ただ、やはり緊張感をもってやりたいので、単なる開発のお試し部門だけではなく、きちんとマネタイズの方法も模索していきたいと考えています。そうすれば大手を振って失敗できると思うので。

―サイト単体を大きくするというよりは最低限のラインを守りつつ、本体にノウハウを伝えていくということですか?

奥山:現状のコンテンツを集めて整理して配信するといったやり方だと、サービスとして限界があると思います。そこからは、例えば先程少し話したようにTEDみたいな違う事業と組み合わせるといったことをしていけば、将来性はあるかもしれませんが、まだ妄想の域をでません。

なので当面のミッションとしては、コンテンツベースでやれていないことをどんどんチャレンジして、これは向いている・向いていないというのを見極めていきたいと思っています。

―他のメディアの取り組みをどのように見ていますか?例えば産経ニュースなどはネタ選びや見出しのつけ方、会見の全文配信など非常にネットっぽいなと思う部分があるのですが。

奥山:率直に言って、弁護士ドットコムさんみたいなアプローチは非常に巧いなと思いますし、見習いたいと思っています。専門性を発揮しつつも、ちゃんと響くような形で届けているところは見習いたいと思います。

また、産経ニュースさんのようなやり方は私たちにとってはお手本だと思っています。コンテンツの方向性やテイストは、いろいろあるかもしれませんが、とにかく現場がネットに向いている。

私たちは、まだどちらも大事、あるいは紙のものを土台にネットをつくるといった思考になっているように感じています。なので、私たちの当面の目標としては、どんどん情報がフローで流れていくネットの特性を生かして、情報の価値判断をあえてせずに、バンバン流していってリアクションを見て、響いたものは紙のストックとして記事化してというようなことができればと思います。現状マネタイズできる器が紙であるならば、紙とウェブで相乗効果も生み出せば、リソースも効率的に使えるようになりますからね。

今はどうしても紙の仕事をやった後にデジタルやるみたいな感じになってしまっていると思います。その順番が逆じゃないと、デジタル対応に対する意識がより、めんどうくさいこととか余計なことになってしまう。でも実際、若い人との情報の接点というのはスマホしかないわけですから、そこはうまく両立しているという点では、産経さんなんかも巧いなぁと思いますね。

―最後に今後チャレンジしたいことや目標などを教えてください。

奥山:今必死でメンバーと考えているのが、媒体としての方向性というか、キャラといった部分ですね。自分たちのポジションを早く見つけたいと思っています。

私としては、ネット上の“もやっとしたもの”に形を与えるみたいな部分で、存在感を発揮するというか、「あそこにいけばあれがある」みたいなメディアになることができれば、マネタイズもしやすくなると考えています。まだ、ボンヤリしているのですが、誰もやれない部分で、自分たちだけのポジションを早く見つけたいですね。

プロフィール

奥山晶二郎(おくやま・しょうじろう)
2000年入社。佐賀、山口、福岡の地方勤務を経て社内公募で東京本社デジタル部門へ。2011年に現在のデジタル編集部新設に伴い異動。「withnews」立ち上げに携わる。