※この記事は2015年03月12日にBLOGOSで公開されたものです

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TPP(環太平洋経済連携協定)の著作権分野の交渉に注目が集まっている。映画などの著作物について著作権侵害があった場合、権利者の訴えがなくても検察が起訴できる「非親告罪化」に向けて、日本を含めた各国が受け入れる方針で調整に入ったと報じられたのだ。これまで、著作権侵害の非親告罪化には慎重な姿勢だった日本だが、その導入が現実味を帯びている。

こうしたなか、東京・永田町の衆議院第2議員会館で3月9日、「TPPと著作権法非親告罪化について考える」と題された集会が開かれ、国際日本文化研究センターの山田奨治教授が、著作権侵害が非親告罪になった場合の問題点などを説明した。(取材・高橋洸佑)

権利者の意思に関わらず、検察が起訴できるようになる

「ある会社の社長が、ビジネスの参考になりそうな情報をネットで見つけては、出処や権利関係を確認せず、プリントアウトしていたとする。そのファイルが何十冊とある。社長とソリの合わない社員が警察に通報すれば、社長は警察に逮捕されるということがあり得る」

山田教授は、著作権侵害の「非親告罪化」が実現した場合に懸念されるケースとして、このような例を紹介した。どういうことか。

現行の著作権法は、仮に警察が著作権を侵害した人を逮捕しても、検察が起訴するには権利者からの「告訴」が必要だ。すなわち、いまの日本の法律では、著作権侵害は「親告罪」とされている。

そして、山田教授によれば「権利侵害が軽微なものであれば、権利者はわざわざ告訴まではしない」。そのため「告訴があまり期待できない以上、警察や検察は動かず、検察や警察が動かないと思うから、発見者もわざわざ通報まではしない」のが実情だという。

しかし非親告罪になると、この「告訴」が必要なくなり、「権利者の意思に関わらず、検察が侵害者を起訴できるようになる」というのだ。

日本のソフトパワーが低下するおそれ

TPP交渉については、原則非公開とされているため、具体的な条文の内容は明らかになっていない。しかし内部告発サイト「ウィキリークス」が昨年10月、すでに草案の内容をリークしている。

山田教授はこのリーク文書をもとに、著作権侵害が、(1)商業的な規模での故意の侵害で、(2)市場において権利者が著作物を利用する能力への影響がある場合、非親告罪として処罰の対象になるのではないかと指摘する。

「商業的規模とは何なのか、権利者が著作物を使用する能力とは何か。この定義が曖昧なので、かなり幅のある解釈が可能になる」と話し、「(軽微な著作権侵害は)誰もがやっているようなことであるから、法文の作り方によっぽど注意しないと、誰もが逮捕される危険性がある。警察・検察にとって、他の犯罪の容疑者をしょっぴくための便利な道具になってしまう」と警鐘を鳴らした。

こうしたことから心配されるのがパロディなど日本特有の「二次創作文化」に対する影響だ。山田教授は「コミケやリミックス音楽のようなものは、もちろん萎縮するだろう。そうするとクールジャパンと言われるものの源泉が枯れ、日本のソフトパワーが低下するおそれがある」と話し、次のように付け加えた。

「文化的なことを言うと、日本には古来から『本歌取り』という文化がある。本歌取りというのは、一種の二次創作だ。法的に言えば著作権侵害になり得るが、創作コミュニティの中の暗黙のルールで認め合った表現技法だった。その良し悪しはコミュニティの中で評価されてきた。非親告罪化は『本歌取り』の善悪の判断を、公権力が下すという下地を作る可能性がある」

非親告罪の対象となる著作物を「登録制」に

こうした懸念があることから、山田教授が対案として示したのが、あらかじめ登録された著作物のみを非親告罪化するという案だ。

「一つの方策として、すべてを非親告罪化するのではなくて、登録されたものだけを非親告罪化するという手は考えられる。どのみち、権利者じゃないと『市場において権利者が著作物を利用する能力』に影響があるのかないのか判定できないのだから、非親告罪で守ってほしいものは、権利者が登録すればいいのではないか」

そのうえで、山田教授は「政治が文化に悪影響を与えるようなことはあってはならない」と訴えていた。

■参考
・Updated Secret Trans-Pacific Partnership Agreement (TPP) - IP Chapter (second publication) - WikiLeaks

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