※この記事は2015年02月25日にBLOGOSで公開されたものです

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25日、外国特派員協会で、「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明・宣言」に賛同している今井一氏、マッド・アマノ氏、平田オリザ氏、古賀茂明氏、中沢けい氏が会見、報道や表現の場における政権批判の自粛の流れに抗うべく、連帯を呼びかけた。

この活動には、多数の学者、ジャーナリスト、芸術家らが名を連ねており、連名者には、最近では雁屋哲氏、津田大介氏、故菅原文太夫人の文子氏らの名前も加わった。(前回の会見の模様:「「政権批判を自粛する空気が社会やマスメディアに広がるのを危惧する」 作家や映画監督、ジャーナリストら言論人が「声明」を発表)

"社会運動に「お決まり」の人以外も賛同"

冒頭、出席した各氏が現状について発言。

今井一氏は「日本の報道言論表現の場に自粛と萎縮が大変なスピードではびこりつつある。それをせき止めようということ。」と、今回の運動の意図を説明。

「原発問題、基地問題といった社会運動に名を連ねるひとは大抵お決まりだが、今回そうでない方も大勢賛同してくれている。是枝裕和さんや、坂本龍一さん、そういった著名な方だけでなく、ありとあらゆる職業の方が賛同してくれている。嬉しいのは、NHKや大手新聞社の方々も勇気をもって、堂々と本名で署名している。こういった動きを応援しようと、一般の方も2,500人が署名してくれている」と、多くの人が賛同していることを強調した。

古賀氏をモチーフにした新作

マッド・アマノ氏は「はっきり言って安倍政権は風刺が大嫌いな政権。皮肉なことに、シャルリー・エブド事件に対し、安倍さんは哀悼の意を表した。風刺を認めていなければ、哀悼の意を表することは出来ないはずだ。今日はどこにも発表していない新作を持ってきた。」と、古賀茂明氏をモチーフにした作品を発表した。

"大政翼賛になる前に声を上げないといけない"

平田オリザ氏は、「演劇には、"リア王"に象徴されるように、道化が出てくる。道化というのは、王様の傍にいて、普段はアホな事や他の人が言えないような皮肉や批評をするのが役割だが、それが過ぎると首を刎ねられることもある。私も首を刎ねられるくらいの覚悟はありますが、タダで刎ねられたくはない」。また、「何よりも演劇はお客さんあってのことですから、表現の場を奪われるのが脅威なわけです。」「日本の劇作家たちには、戦前、大政翼賛に協力したという不幸な歴史や反省がある。表現の場を人質に取られて、多くの演劇人が戦争協力を行った。そのようなことなる前に声を上げないといけないと思った。」と賛同した理由を説明した。

"日本の報道は機能を失いつつある"

古賀氏は、「日本の報道は機能を失いつつあります。これが進むと、民主主義の大前提である知る権利が失われれ、国民が正しい判断ができなくなるということにつながります。その結果、最終的には選挙という最も民主的であるはずの手続きを経て、独裁政権が誕生してしまう。来年の参議院選挙で、与党が3分の2を取るかどうかがひとつのポイントになるかもしれないが、最後のステップの段階はそんなに遠くない」との認識を示した。

"ネットと新聞・テレビ、ユーザに大きな乖離"

中沢けい氏は、現状について「二つ危惧することがある」と説明。

「一つ目の危惧」に、「日本社会では、ネットで情報を得ている人々と、テレビや新聞といったメディアから情報を得ている人々の間で非常に大きな乖離が起こっている」と指摘、「この外国特派員協会で、山谷えり子国家公安委員長の会見が行われ、在特会との関わりについての質問も出た。今国会ではヘイトスピーチ規制法が議論されることになっており、関係省庁のトップの一人である山谷氏が在特会の支持を受けているのは大変まずい状況であるにも関わらず、日本の新聞もテレビも全くこれを報道しなかった。一体どういうことだと、疑問をもたざるを得ません」と述べた。

また、「二つ目の危惧」として、「"ネット右翼"とか、自民党のサポーターを自称する"ネットサポ"と呼ばれる人たちが情報を取ろうとするひとたちの邪魔をしたり、場合によっては勤務先に大量のFAXや電話したりして業務の妨害を行っています。日本のメディアの萎縮あるいは自粛と呼ばれるものは、政権からのプレッシャーだけでなくこういうネットユーザーからの極めて犯罪的なプレッシャーも関わっているものと考えています」と指摘、「ネットの中に広がっている現状に対する危機感について、ネットを使わない人たちにも気づいていただきたいと願っている」と述べた。

質疑応答

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続いて質疑応答が行われた、やりとりの概要は以下のとおり。

ー自粛・萎縮の理由について、何か具体的なものがあるのか。それとも漠然とした空気の問題なのか。

今井氏:テレビに現在出演している、みなさんも非常によくご存知のジャーナリストの方3人から、メールと電話をもらいました。"この声明に賛同して署名したいけれども、そうすると次の番組改変の時にポストを失ってしまう。そうすると収入が一気に減ってしまうその可能性が強いので、署名ができない"と。

古賀氏:現場の記者というのは、記者クラブ制度の中で協調的な行動を取っていかないと、情報を得にくくなり、特ダネも書けなくなってしまう。また、自分が所属した会社や新聞が、政権批判をすると、自分が取材をしにくくなるのではないかと心配するようになる。

テレビ局にはこの傾向が強く、番組のトーンが政府に批判的だと、現場の記者には"せっかくいい情報を教えてやったのに何だ"と日常的に文句を言われるようになる。

その結果、番組に対して記者が圧力をかけるようになり、自分たちが取材しにくくなるからそこまで書かないでくれということが毎日行われている。

そういう戦いが行われていると、番組を作るひとたちは面倒くさくなってくる。番組制作という時間との競争の中で、政治部や経済部から指示や圧力がかかってくると、ものすごくロスになるので、最初からクレームがこないよう作るのが作業をスムースに進めるコツだというようなことになる。

もうひとつ特徴的なのは、各社のトップが安倍政権に擦り寄っており、これは過去に比べると珍しいと思う。 トップが安倍政権支持だということが明確になってしまうと、その下はサラリーマンなので、出世のためにも安倍政権批判を控えたいということになる。 私が「I'm not abe」と言うと、プロデューサーが報道局長や政治部長に呼ばれて吊し上げに遭ってしまう。

かつては、自分たちが正しいと思ったことをやるという当たり前の姿勢があって、政権からクレームが来てもほっとけ、と下の方が出来た。しかし、トップが安倍支持だということがハッキリしていて、一緒にご飯を食べたりゴルフをしたり、携帯番号をもらって喜んでいたりすると、下の方が戦おうと思っても戦えない状況になってしまう。

ー報道ステーション降板の経緯については。

古賀氏:正確に言うと、特にテレ朝との間で契約があるわけではない。テレ朝の立場から、するとその時その時でお願いをしているので、クビにするということではない。

聞いているのは、番組に誰を呼ぶのかはプロデューサー中心に決めているが、私は忙しいので3ヶ月先まで決めていて、毎月1回出て下さいという話がベースにある。報道局長が私の出演を嫌がっていると去年から聞いていたが、1月23日の発言以降は、"絶対出すな"という厳命が下っていると。これは報道局長に直接言われたわけではないので聞いてみたいと思うが、もちろんトップの意向を反映していると考えている。

3月は6日と27日に出る予定だったが、キャンセルすると大きな批判が出るだろうということで、出演が決まっていなかった4月以降は出演禁止だということだと思う。

昨日のテレビ朝日の社長会見では、私の出演について「決まっていることは何もない。官邸から圧力を受けているとは承知していない」という回答だった。

ー海外の記者として理解しづらいのは、歴史認識や憲法の問題について、官邸と皇室の見解に食い違いがるように見えることだ。

中沢氏:皇太子殿下の誕生日の記者会見があった。憲法に基づいて70年間の富と繁栄を享受した日本を大事にして欲しいという趣旨のご発言があった。ネットユーザの中には、この日本国憲法に触れる部分をNHKがカットして放送したことを怒っている人がいた。NHKは皇太子殿下より安倍首相の方が大事なのかと皮肉っている人もいた。

自民党が現在提出している憲法改正案よりも、皇太子殿下のご発言に見られるような、皇室の方がずっと現行憲法を大切になさっていると感じている人が多いのではないかと考えている。 それが議論にならずに、段々と均されていくと言うか、いつのまにか変わっていく、というようなことが日本の社会の場合あると思う。

もともとこの問題についてはバトルがあってしかるべきなのに、バトルがない状態を内閣を作り出していることが問題だと思う。

古賀氏:観察をしていて気づくことは、天皇皇后両陛下や、皇太子殿下も、非常に平和、放射能の問題についてはっきりと触れられる場面が多いと感じる。

一方でそれらどう報道されているか。かなりの場面で、政府批判ととられるかもしれないようなところがカットされて伝えられている。新年のご感想でも、東日本大震災で大勢のひとが避難生活を送っており、放射能汚染の影響があるとおっしゃっているのに書かない、ということが起きている。

マスコミが自重している面もあると思うが、そのまま伝えられることはまずいという、政府側の判断があるんだろうなと思う。政府としては、メディアがどう報道するかをコントロールしようとすることによって、天皇陛下のお気持ちが曲げられることが起きているのではないか。

ーパスポートを返納させられた杉本祐一さんのようなケースは、海外の新聞では一面を飾るレベルの事件だと思う。杉本さんとも連帯できるか。

平田氏:維新の会が大阪府知事選、大阪市長選が選挙で勝利した時に「大阪はレジスタンスの時代に入った」と言った。レジスタンスに重要なのは、信頼と連帯だ。異なる意見、異なる立場、今井さんのお話にあったような、署名したくても出来ない方々とも連帯することが必要だ。

今、重要なのは自民党内にもいるだろう良心的な勢力、公明党の皆さん、広く社会民主主義的な勢力も含め中道の人々が大きく声を挙げて連帯をしていくことだと思う。

私たちは冷戦時代のような右か左かという話をしているのではなく、民主主義の根幹である言論・表現の自由を問うているわけだから、広く連帯は可能だと考えている。

マッド・アマノ氏:この国は、ジャーナリストでさえ、自己犠牲・自己責任の行動が出来ない時代になっている。後藤健二さんはビデオで「もし捕まっちゃったら自己責任だから、シリアの人のことも悪く言わないでくれ」と言っていた。あのビデオなぜ流れたのか、ずっと変だなと思っていた。あれを流すことによって、自己責任だから政府には間違いはないということを言いたくて、あえてあれを引っ張り出してきたのではないか。

その後に新潟の問題が起きた。あの当時さかんに自己責任だ言われていたのだから、危険だろうが、行かせたらたらいい。一番言いたいのは、ジャーナリストでさえそうなんだから、一般の国民には自主性がもうない、全て国が管理しているという状態できつつある。それに危惧を覚える。

今井氏:私はジャーナリストが入れない状態になっていたポーランドにパリで国際学生証を偽造して入国し、学生寮で暮らしながら取材した。警察に見つかって拘束もされた。刑務所にぶち込まれていたリーダーたちの写真を入手して西側のメディアに流してまたワルシャワに戻るということをしていた。結局三回拘束され、その度に国外退去処分になったが、全てそれこそジャーナリストとしてのスピリッツで、殺されようが刑務所にぶち込まれようが全然構わないという仕事を続けてきた。

日本のフリーランスのジャーナリストは、皆そういう精神では仕事を続けていると思う。

大切なのは、この署名に参加していない人とも連携し、フリーランスと会社に所属している人たち、記者クラブにいる人と、入りたくても入れない人たちが、垣根を取っ払って一つになることだ。

古賀さんや杉本さんみたいな仕打ちを誰かがされたときに、私たちやテレビのコメンテーターが、それこそストライキの精神で"俺もこのテレビに出ない、私も出ない"と。クビになるからって口をつぐむんじゃなくて、誰かが降ろされたら、全部が降りるという、日本のジャーナリストたちがそういう行動を取らないと、この悪しき流れにストップをかけることはできないと思う。

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会見終了後、今後の活動について古賀氏は、賛同者たちがそれぞれの得意分野で意見を表明していくキャンペーンをウェブサイト上で実施、拡散させていくことを目指すと説明。
メディア各社に対しても、申し入れを行う意向があることも説明した。

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