ハーバード卒のパックンが驚いた「見栄のために金を使う日本人の根本的問題」
■投資で冒険するより人生で冒険したい
僕は、日本で最近増えている「相対的貧困家庭」の出身だったんですよ。生活が苦しくなった原因は、両親が離婚したんだけど、姉が父に引き取られ、それを口実に父が養育費の支払いを一方的に止めてしまったことでした。しかも母の失業も重なった。
それで少しでも節約するために、お母さんが目をつけたのが水道料金。これは僕が住んでいたコロラド州だけなのかもしれませんが、ある1カ月の水道使用量を基に、1年間の水道料金が決まる仕組みだったんです。そこでお母さんから「学校でトイレを済ましてきて」とか「友達の家で遊ぶときはトイレを借りてから帰ってきて」と言われたんです。寒かったんだけど、シャワーも普段より短くして。今になれば、倫理的にどうかなと思うけども、「工夫できるところは全部工夫しようぜ」ってゲームみたいな感じで、楽しみながら節約生活を送っていました。
■1セントの節約は1セントの収入
そんな幼いころの経験から、そんなにお金がなくても暮らせるってわかっていました。モテたいし、有名になりたいという思いはありましたよ。でも金持ちになりたいはあんまりなかった。
親友たちともそういう価値観が一緒で、お金のためだけに好きでもない投資銀行に就職するみたいなのが、一番格好悪いと思っていました。それで、専攻したのは比較宗教学でした。
ハーバード大学の同学年は約1600人いましたが、比較宗教学は8人くらい。同窓会をやってみたら、アンデスの山奥で文字を持たない部族に出会い、そこに住みついてその部族のために初めて彼らの言葉の辞書を作ったという友達もいたんですよ。そういう人生のほうが面白いと思っていました。
卒業後に僕が向かったのは日本でした。中学時代の同級生に誘われ、やってきた福井県で英語教師になりました。手取りは18万円くらいだったかな。
当時、大学4年間分の奨学金を200万円ほど抱えていました。返済型の奨学金は、月に2万〜3万円を10〜20年かけて返すという前提なんですね。でも、それではいつまでも借金を返すために働き続けなくてはならないし、自由は得られません。そこで、僕は月に5万〜10万円を返すようにして2年で返済しました。それで自由になって夢を追いかけられるようになったから、東京に来たんですよ。
どうすればそんなに節約できるんだと驚かれますが、基本は簡単。お金を使わないことです。とにかく出費を収入より低く抑えないと。出費が収入を超えてしまったら、もうその後は借金返済に毎日追われるだけだからね。「1セントの節約は1セントの収入」なんですよ。
福井で僕が住んでいたのは、英会話学校が借り上げた一軒家でね、今は取り壊されたけど数年前までは普通にグーグルマップに出てました。1階が6畳2間、中2階が6畳、3階が8畳とかそれくらい。そこで同僚と2人で暮らして家賃月4万円でした。光熱費とか込みだったかな。そこで一緒にホームパーティやって、「大五郎」って焼酎を、よく飲みました。4リットルくらい入ってたはずだから、“二升瓶”になるのかな。お湯割りとかだけで酔えるんです。たまに騒ぎすぎて勤め先の社長と一緒にせんべいを持って近所を謝って回ったりとかしたけど、安く楽しんでいましたね。
東京に出てきてからも、最初は友達の家に居候してました。「よっしゃ」って思ったんだけど、「家賃払え」みたいな話になって、半年くらいしてから月8万円のボロアパートに引っ越したんです。場所は新宿の左門町。中心部に住めば、新宿でも渋谷でも銀座でも自転車で行き来できて、タクシー代も払わないでよくなります。
家のテレビも、タダでもらった壊れたやつだった。画面の3分の1くらいが紫色に変色してるんですよ。上は映るんだけどね。それでマックンと「ぷよぷよ」をやったら、めっちゃ面白かったな。下に溜まってるものの色がわかんないから、最後は記憶力の勝負になるというね。「確かこの右下に溜まってるのは、あれオレンジだったよな」と思っていたら違っていたり。そんなボロアパートでもホームパーティはできるし。1階だったんだけどちっちゃい庭がついていて、近所の野良猫がすみついて家族も増えるしで、楽しいことばかりでした。
そうやって節約したお金を投資し始めたのは、25歳半ばくらいだったかな。それまで奨学金返済で払っていたお金を、そのまま投資に充てるようになりました。1997年頃で、当時はドットコムバブルだったので個別銘柄も選んで買ってましたよ。結局バブルの崩壊で大やけどして個別銘柄は全部売っちゃいました。あのときアマゾンの株を買ってればよかったんだけどね。
それ以来、インデックスファンド1本です。スタンダード&プアーズに連動するものなど、マーケット全体の市場原理を信じる投資姿勢です。だって、僕の本業はお笑い芸人ですよ。個別銘柄を探すことに労力をかけるより、コメンテーターとかを務めるための勉強のほうがよほど大事なんですよ。僕に個別銘柄を選んで買うほどの傲慢さはもうないです。今は謙虚になって、余計なリスクを取らずに眠れる夜を確保するほうを大事にしています。投資ではなく、人生で冒険しています。
■Peer Pressure
僕、いつも頭の中に「老後計算機」というのを持っているんですよ。
アメリカの株は大体年間7%くらいの利率だから、10年おきに投資額が倍増する計算になるんですよ。今20歳のあなたが使おうしているお金を投資しておけば、30歳で2倍、40歳で4倍、50歳で8倍、60歳で16倍、70歳で32倍になる。ということは、今日のタクシー代5000円を投資に回せば、老後には16万円になるわけですよ。16万円のタクシーなんか乗らないでしょ。そう思えば、お金の使い方は変えられます。
僕はあくまで一芸人で、心理学者でもないしプロのファイナンシャルプランナーでもないけど、人のお金の使い方を見てるとPeer Pressure(日本語なら、仲間からの圧力かな?)に負けてお金を貯められない人は多い気がする。上流っぽく見せるために外車を買ったりとか、「オレもたまには焼き肉を奢らなければダメだ」みたいな身の丈に合わない生活。見せびらかすっていうか。「周りのみんなが終電過ぎまで飲んでるから、僕も飲んでタクシーに乗って帰らなきゃ」とか。
■老後資金を失ってまで参加したい飲み会か
それで資産形成ができているならいいよ。僕も今では、友達にご飯を奢るのが好きです。でも、それは経済的な自立ができているから。最悪の場合、たとえば失業したとか大病したとか急遽アメリカに帰国しないといけないとなっても、半年くらいはやっていける貯金ができている状態です。
でもそうでないのなら、何回も繰り返しているけど、出費を収入より低くしたほうがいい。飲み会に行くなら、「ごめん、僕はこういうふうに経済的に自立したいから、今日の予算は2000円までしか出せないけど、それでいいですか?」と言いましょう。それで理解しない友達は友達じゃないんですよ。相手が上司なら実質残業なんだから、「じゃあ上司が奢れよ」って言えばいいんです。そういうのを受け入れられない相手と飲むくらいなら、家に帰ってZoom繋いで、本当に気が合う人と発泡酒でも飲めばいい。
僕、飲むのも大好きだし、人とわいわい過ごすのも大好きだけど、老後のお金を失ってまで参加したい飲み会ってないんですよ。BYOBといってね、Bring your own beverage, Bring your own beerつまり「飲む分は自分で持ってこい」でいいんですよ。お花見で持ち寄り、キャンプで持ち寄り、ホームパーティで持ち寄りです。ボロアパートの生活でも、本当に気が合うヤツ3人くらいでババ抜きやれば、安く楽しい夜を過ごせるんですよ。
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パトリック・ハーラン(ぱとりっく・はーらん)
お笑い芸人
芸名パックン。1970年、米・コロラド州出身。93年、ハーバード大学比較宗教学部卒業。同年来日。福井県で英語教師を務めた後、97年、吉田眞と「パックンマックン」を結成。著書に『逆境力』(SB新書)など。
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(お笑い芸人 パトリック・ハーラン 構成=タカ大丸)