2022年クラシック候補たち
第12回:イクイノックス

 3歳春のクラシックに臨むローテーションと言えば、かつては直前のトライアルや前哨戦を使って本番を迎えるのが一般的だった。しかし最近は、年末の2歳GIや年明けの重賞タイトルを手にしたあと、2〜4カ月の休養を経て直行でクラシックに向かうパターンが増えている。しかも、上位人気が予想される有力馬がそういった臨戦過程を踏むことが多い。

 そして今年も、牡馬クラシック第1弾のGI皐月賞(4月17日/中山・芝2000m)にぶっつけで挑む有力馬が何頭かいる。美浦トレセンの木村哲也厩舎に所属するイクイノックス(牡3歳/父キタサンブラック)もその1頭だ。

 同馬のデビュー戦は、驚異的な大勝だった。舞台は昨夏の2歳新馬(8月28日/新潟・芝1800m)。スッと好位の内3番手につけると、リズムよくレースを運んだ。

 圧巻だったのは、長い直線を迎えてからだ。馬場の中央へとコースを移したイクイノックスは、残り400m過ぎあたりで先頭へ。そこからグイグイと脚を伸ばして、懸命に追うライバルたちを難なく突き放していった。その脚色は最後まで衰えることはなく、後続に6馬身もの差をつける圧勝劇を演じた。

 さらに、負かした相手の顔ぶれがその凄さを物語る。のちにGI阪神ジュベナイルフィリーズを制したサークルオブライフ(3着)や、GIIスプリングSで3着と健闘したサトノヘリオス(4着)らが、イクイノックスの前になす術なく敗れ去った。

 衝撃の初陣を飾って、一気に注目を浴びることになったイクイノックス。続く2戦目は、GII東京スポーツ杯2歳S(11月20日/東京・芝1800m)に挑んだ。レースでは1枠1番から好スタートをきるも、初戦とは一転して道中後方に構えて追走した。

 再び見せ場となったのは、直線に入ってから。満を持して外に持ち出すと、大きなフットワークで徐々に加速。鞍上が気合いを入れた残り200m付近からは一段とスピードが増して、瞬く間にトップに立ってゴール板を駆け抜けた。上がりはメンバー最速の32秒9という猛時計をマーク。2着に2馬身半差をつけての快勝だった。


東京スポーツ杯2歳Sを制したイクイノックス

 こうしてデビュー2連勝を遂げたイクイノックスは、驚くことにここから皐月賞へ直行することとなった。陣営はなぜ、この異例のローテーションを決断したのか。関東競馬専門紙のトラックマンがその理由を説明する。

「陣営は、イクイノックスの完成は『まだ先』というジャッジをしていて、『この(480kg前後の)馬体重でもシルエットは華奢。もっと大きくなっていい』と見ています。そのため、皐月賞前にレースを使って消耗するよりも、直行で負担を減らして成長を促したいという考えがあってのことのようです」

 ともあれ、秘めた素質は一級品。陣営の評価はすこぶる高い。

「これまでの2戦について、『鞍上のゴーサインに対して反応が遅れるなど、まだ100点とは言えない競馬』とスタッフ。それでも、『エンジンがかかってからの末脚はケタ違い。ポテンシャルは文句なし』と素材のよさには惚れ込んでいます。

 そのレースぶりからして、小回りの皐月賞はどうか? という感じはしますが、陣営の大目標はおそらくGI日本ダービー(5月29日/東京・芝2400m)。皐月賞を叩いて、大一番に向けて万全の態勢を整えてくるのではないでしょうか」

 凄まじい豪脚を武器にして、いよいよクラシックに臨むイクイノックス。この馬もまた、近年のトレンドとなっている"直行ローテ"で結果を出すのか。競馬界の新たなスターとして注目される同馬の走りから目が離せない。