NTT→最年少市長→千葉県のトップに。熊谷俊人が語る“県知事のマネジメント論”
若者の政治への関心の低さ。
この問題、「政治家がどんな人たちなのか全然わからない」ことが大きな理由のひとつになっているのでは…? と我々は考えました。
そこで新R25編集部は、政治家を我々と同じ“ひとりの働き手”として掘り下げてみることに。
今回お相手いただくのは…千葉県知事の熊谷俊人さん。
【熊谷俊人(くまがい・としひと)】1978年生まれ。2001年にNTTコミュニケーションズ株式会社に入社。29歳だった2007年の千葉市議会議員選挙に稲毛区選挙区から出馬し、トップ当選。2009年、千葉市長に就任。31歳5ヶ月での市長就任は当時最年少。2014年、ワールド・メイヤー(世界市長賞)にノミネート。2021年4月より、千葉県知事に就任
31歳で千葉市の最年少市長に当選。
市長として11年間活動したのち、2021年には千葉県知事選挙に出馬し、過去最多の140万票余りを獲得して初当選しました。
そんな熊谷さんは、市長時代に圧倒的な功績を残しています。
熊谷さんの功績の一部
・8年で市債残高を600億円以上削減
・幕張新都心の活性化に注力。年間来訪者を2200万人から4820万人へ倍増
・10年で千葉市待機児童数を10分の1以下まで縮小
・2019年大型台風(15号)災害時、支援物資の供給や職員の応援派遣などを実施
・新型コロナウイルスに関する各種情報も、市政だより臨時号、SNSなどを活用して迅速に周知
最年少市長として実績を残すためには、どんな力が必要だったのか?
現役県知事による、マネジメント論をぜひご覧ください…!
〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉
福田:
今日のインタビュー、個人的にすごく楽しみにしていました。
実は昨年、10年住んだ東京から千葉市の海浜幕張に引っ越したんです。その理由のひとつが「市長がすごくおもしろそう」でして。
「オモコロ」の記事でライターとシムシティで対決していたり、南海キャンディーズの山里亮太さんと「房総みそピーズ」として漫才をされたりしていて、こんなおもしろそうな方がトップにいる市だったら楽しそうだなと。
出典 Youtube
熊谷さんの漫才映像。今でも見られるのでぜひ、ご覧ください
熊谷さん:
そうだったんですか!?
海浜幕張、いいじゃないですか〜!!
JRの新しい駅もできるし今後もどんどん開発されていく都市なので、若い方にはもっと来ていただきたいですね〜!!
さすが県知事。すきあらば千葉の宣伝を入れてくる
「2つ上の視点で動け」NTT時代の上司からの教えで議員→市長へ
福田:
熊谷さんは29歳のときの統一地方選挙に当選し、千葉市議会議員になりましたよね。
ただ、「その2年後に千葉市長に」というのがキャリアとして異例すぎると思うんです。
この2年間のスピード出世は、どのようにしておこなわれたんでしょうか?
熊谷さん:
これは、僕の仕事哲学である「“2つ上の目線”で考える」がきいたと思っています。
僕はもともと新卒でNTTコミュニケーションズに入社しているんですが、NTT時代、上司からずっと「つねに2ランク上の立場から、自分の仕事を見るようにしなさい」と言われていたんですよ。
福田:
おお…僕も今上司から近いことを言われています。
熊谷さん:
僕は幸い事業部門の「企画部」の人間として経営会議に関わる機会があり、数千人規模の組織のトップがどういう意思決定をするのかを頻繁に目にしていたんです。
そこで「トップはこういう視点なんだ」「もし自分がこの部署を任されたらこういう戦略かな」と考える習慣ができていたんですね。
福田:
すごいな…
熊谷さん:
だから議員になったときも、「市長という立場だったらどう考えるだろうか?」という視点で物事を考え、議会で質問をしていました。
そうすると、市政のなかで「これは深刻だ」「本当に変えなければいけない」というクリティカルな課題がたくさん見えてくるようになって。
この方は、きっとビジネスパーソンとしても大成していただろうと確信しました
熊谷さん:
そんななか、次の市長選挙の時期が来て。
私は候補になりそうな人に会いに行って「いかに千葉市を変えなければいけないと思うのか」と口説き、現市長に対する対抗馬を立てる役割でした。
でも、当時の千葉市政は“副市長が市長になる”流れがあって、みんな尻込みしちゃって。
福田:
市長候補ってそうやって生まれていくんですね…知らなかった。
熊谷さん:
結局、候補は見つからなかったんですけど、私のほうでは仮に立候補者が出たら渡そうと思って、自分で政策を用意していたんです。
本気で千葉市を変えようと思っていたので。
熊谷さん:
そのさなか、現職の市長が収賄容疑で逮捕されまして…
候補者がまったく出てなくてどうしようか…となっていたときに、まわりが「これはもう熊谷くんが出るべきでしょ?」と推してくれたんです。
福田:
熊谷さんの「千葉を変えたい」という熱量がまわりに伝わっていたんでしょうね。
熊谷さん:
まさか議員2年目で市長選にでることになるとは思いませんでしたけど…
でも、想いもあって、すでに政策も用意してあって。「これはもう出るしかないでしょう!」と(笑)。
「つねに2つ上の視点で考えよ」という思考が導いた、すごいストーリーだ…
早急に改革しようとして後悔…最年少市長時代に培ったマネジメント方法
福田:
とはいえ、市長になった年齢が史上最年少の31歳だったこともあって、「人を動かすこと」が非常に難しい立場だったと思うんです。
そんななか次々と改革プロジェクトを進行させていった経営手腕…何かマネジメントのコツなどがあるのでしょうか?
熊谷さん:
いや、これはおっしゃる通りで…(笑)。
就任当初は思い描いていたようにはいかないことがたくさんあったんですよ。
僕はとにかく「千葉市を早く変えなければならない」という使命感にかられていたんです。
でも、僕がひとりで「この制度は見直しが必要だ」と旗を降っていても、まわりからしたら“やらされ仕事”になってしまうんですよ。
熊谷さんにもそんな悩みが…でも、責任者になりたてのときに陥りそうだな…
熊谷さん:
そこで僕がやったことは、「3回待つ」。
どれだけもどかしくても、このルールを守ることにしました。
福田:
3回待つ...?
熊谷さん:
急に「あの山に登るべきだよね?」って言っても、あまり人は反応しない。「思いつきで言ってるのかな?」と思われるんです。
で、何カ月か経ったときに、また「やっぱりあの山、登るべきだよね?」って言う。
すると「これは結構マジで考えているんだな」「じゃあ自分なりにやるとすればどうするか」って、おぼろげながら考えはじめるわけですよ。
福田:
ふむふむ。
熊谷さん:
そして、また何カ月か経ってから「あれはやっぱりあの山に登るべきだろう」と3度目にかなり強い口調で言うと、「じつは、ちょっと自分なりにこう考えていたんです」って“向こうから”出てくるんです。
こうなると、“やらされ仕事”じゃなくなって、その人自身の仕事になるわけですよ。
なるほど…!
福田:
では「早急に動かしたい」と思っても、3回を待つことが意外と最短ルートだったりするんですかね?
熊谷さん:
組織のスピードは、メンバーそれぞれにとって“その人の仕事”になったときに、もっとも速度が出る。
私はそう思っています。
これは子育てでも同じなわけです。「この服がいいんだ」と親が言っても、子どもはすぐに納得はいかない。
だから、何度か待ったほうがすんなり決まることがあるんです。
福田:
ちなみに、「年上のマネジメント」はいかがでしたか?
ビジネスパーソンにも年上メンバーのマネジメントに苦労している若手っていると思うんですが…
熊谷さん:
年上の方々に接するときはとにかく「相談する」ことを意識していましたね。
ただでさえ人って、「自分の知らないところで物事が決まっている状況」というのは面白くないわけです。
それを年下の人間がやられるとなれば、なおさら「本当にそれでいいのかあ〜?」と言いたくなっちゃう。
頭では正しいとわかっていてもです。
福田:
めちゃくちゃわかります。
熊谷さん:
でも事前に「AとBで悩んでいるんですよね。Aかな〜? とは思っているんですけど、どうですかね?」と聞くと「それはAだろ」と答えてくれる。
なんなら、反対意見が出たときに「Aに決まってんだろ」と代わりに説得してくれる味方になってくれたりするわけです(笑)。
人って相談をされると、その時点で放っておけなくなりますからね。
こんなあけっぴろげに話してもらって大丈夫なのでしょうか
「家を出たときから理想の県知事であれ」熊谷ブランドのブランド力
福田:
熊谷さんは昨年、千葉市長から千葉県知事へとまた大きい立場になりました。しかも歴代最多投票率を獲得して。
シンプルに、めちゃくちゃ優秀なビジネスパーソンだと思うんですが…ズバリご自身から見て、熊谷さんは仕事人としてどんな点で優れているんだと思いますか?
熊谷さん:
難しい質問ですね…!
現役県知事を悩ませてしまって申し訳ないです…
熊谷さん:
ひとつあるとするなら、「熊谷ブランド」ですかね。
福田:
熊谷ブランド…!?
熊谷さん:
「熊谷が言うなら」と思っていただけるブランドづくりを、僕は非常に強く意識しているんです。
これもNTT時代の上司から言われた言葉なんですが…
「人は『何を言うか』じゃなくて『誰が言うか』を見ている。だから、君自身のブランドをつくらないとダメだよ」と。
福田:
「何を言うか」じゃなくて「誰が言うか」。これはありますね…。
熊谷さん:
では、その「この人が言うなら」と思えるかどうか人が何を持って判断するか。
それは結局、「1つ1つの仕事に対する向き合い方」なんです。これがブランドをつくる。人はそこを見ている。
熊谷さん:
だから家の玄関を開けたときから、「みんなの理想の知事でいるか?」ということを意識しています。
たとえば今日も県民のみなさんにご挨拶する機会がありましたけど、普通は用意された原稿を読むんですよ。
福田:
たしかに、政治家の方ってみなさん原稿を読み上げてるイメージがあります。
熊谷さん:
でも、みなさんが知事を見るのって1年に1回あるかないか。
だからこそ、僕はその場の空気を見ながら、「こうしゃべるべきだ」と思うことを自分の言葉と思いを交えて原稿を見ずに話すんです。
そうじゃなきゃ、「知事は本気でこう言ってるんだ」と思ってもらうことなんてできない。
挨拶も毎回真剣勝負。「熊谷ブランド」を背負う気概に関しては、自分の強みと言えるかもしれません。
もしかして今日の取材も、知事らしさを意識してました?
福田:
でも、家を出たときから「理想の知事」を振る舞うのって、正直きついな…と思うこともあるんじゃないですか?
熊谷さん:
きつくないと言えば、嘘になります。
でも、これは僕の人生における“究極のロールプレイ”なわけですよ。自分が思う「理想の政治家キャラ」を操作しているわけで。
31歳で市長になって、43歳で県知事になる。
こんなチャンスに恵まれる人生って、きっと100回やり直したって無理だと思うんです。
「SSRな人生のキャラを引いちゃったみたいなね(笑)」たとえがちょいちょい俗っぽい知事
熊谷さん:
私のキャリアはずっと人にも運にも恵まれてきたと思います。
だからこそ、そんなキャラクターでどこまでハイスコア(社会への貢献)を叩き出せるか?
そんな挑戦を日々続けていることがモチベーションなんだと思います。
…最後のは、ちょっと県知事っぽくないかもしれませんね(笑)。
ちなみに取材後我々編集部のオフィスには、熊谷県知事から直筆のお手紙が。
NTT時代の教えをあまさず活かしながら築き上げられた、熊谷ブランド。
ひとりの働き手としてのすさまじさ、そしてお茶目で等身大なお人柄を見て、“政治家”が少し違って見えるようになった気がします。
忙しい公務の合間を縫っておこなわせていただいた40分間のインタビュー。
正直、まだまだ話が聞き足りないので、またぜひお話を聞かせてください!
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=森カズシゲ〉