老年医学の専門家である和田秀樹氏は「40歳こそ老化の始まり。この年代から“足りないものを足す健康法”へのシフトが重要だ」と説く。このたび上梓したセブン‐イレブン限定書籍『40歳から一気に老化する人、しない人』より、その一部を特別公開する──。(第2回/全4回)

※本稿は、和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■脳・前頭葉の萎縮は40代から始まる

人間の脳(大脳皮質)の表面積はおよそ新聞1ページの面積(2200cm2)に相当し、そのうち脳の各部に占める面積は広い順に前頭葉41%、側頭葉21%、頭頂葉21%、後頭葉17%となっています。あらゆる動物の中で、前頭葉がこれほど発達しているのは人間以外にありません。

人間が中年期を迎えてから経験する脳の変化でもっとも重要なのは、この前頭葉の萎縮(いしゅく)が40代から始まるということです。

読者の方が脳についてイメージする場合、おそらく医学の教科書に載っている脳の解説図のような、頭蓋骨の内側に隙間なく詰め込まれている状態を思い描くのではないかと思います。でも、実はこうした「きれいな」脳の状態を、とくに努力もせずに維持できるのは30代が限界です。

早ければ40歳を過ぎたころから頭蓋骨と脳の間にちょっとずつ隙間ができはじめ、その隙間は、歳をとればとるほど大きくなっていくものなのです。

前頭葉の萎縮が肉眼で確認できるほどに進むと、30代までのその人と比べ、意欲や創造性といった要素が明らかに乏しくなっていきます。

写真=iStock.com/kimberrywood
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kimberrywood

■40代以降の最大の問題「感情の老化」

動脈硬化も、早い人は40代から始まっています。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)に悩む女性も40代からめっきり多くなります。

とはいえ通常40代は、成人の体としての実用機能はあまり衰えません。問題はむしろ、心や感情から老け始める人が出てくる点でしょう。

いつの間にか新しいことに食指が動かなくなる。「面倒くさい」と思うことが増えてくる。さまざまなことに対してガツガツしなくなる……。「まあ、いいや症候群」が表れやすくなるのです。

そうした消極的生活によって感情が老化してしまうと、追いかけるように脳や体の老化をも進めてしまうことになるのです。

だからこそ、感情の老化は恐ろしい。気がついたらすぐに食い止める方策をとらなくてはなりません。

■「感情の老化」の原因3つ

感情の老化の原因は、おおむね次の3つが考えられます。

原因1:前頭葉の老化

思考や意欲、感情、理性など、人間らしい振る舞いを司っているのが前頭葉です。前頭葉が活発に機能していると、アクティブで若々しいのです。ところが残念なことに、脳の中でも早くから萎縮が始まり、神経細胞の減少が起きるのが前頭葉。老化をもたらす大きな要因になっています。

原因2:動脈硬化

年齢とともに多かれ少なかれ、血管の壁にはコレステロールや中性脂肪などが沈着して厚くなっていきます。そうして血管が狭くなり、血液が流れにくくなった状態が動脈硬化です。

動脈硬化を起こしている人の脳は、自発性の低下や、泣き出すと止まらなくなるなどの「感情失禁」が起こりやすくなります。自分から行動することが少なくなり、感情に振り回されやすくなります。さらに悪化すると、脳の血管が詰まって脳血管性の認知症へつながる前段階になってしまうのです。

動脈硬化の危険因子として判明しているのが、糖尿病とタバコです。さらに高血圧、コレステロール、肥満、ストレス、性差(男性)、加齢などが挙げられます。

動脈硬化はいわゆる生活習慣病として、狭心症や心筋梗塞などの心臓病、脳卒中のような脳血管障害のリスクを高めるとよくいわれますが、感情の老化を引き起こすことも強調しておきたいと思います。

■中高年こそ肉を食べるべき理由

原因3:セロトニンの減少

脳内の神経伝達物質であるセロトニンは、ほかの神経伝達物質のドーパミン(喜び、快楽に関係)や、ノルアドレナリン(恐れ、驚きに関係)などの情報をコントロールして、精神を安定させています。

若い人でもセロトニンが一時的に減ると、うつ症状が出ることがあります。意欲低下、イライラ、体中がどこかしら痛いなどと訴えるなど、さまざまな不調が現われるのです。

これは多くの高齢者が診察室で訴える不調と同じです。歳をとると当たり前のことのように思われがちですが、実はこれも、高齢化にともなうセロトニン減少による、感情の老化現象の1つだと考えられます。

セロトニンを作る材料の1つは、肉類に含まれるトリプトファンという必須アミノ酸です。この点で中高年以降こそ肉類は食べたほうがいいといえるのです。

■ルーティンを避ける

前頭葉の萎縮を遅らせるための手っ取り早い方法として挙げたいのは、日常生活におけるルーティンをなるべく避けることです。

たとえば仕事からの帰り道、会社から自宅までの道順を時々変えて、普段はあまり通らないルートをあえて選んで家まで帰ってみる。ランチもいつも決まった店に行くのではなく、話題のお店や行ったことのないお店を試したり、新規開店のお店にも挑戦してみる。

自分で料理をする人なら、これまであまり扱ったことのない外国食材を使ったメニューに挑戦してみることなどもいいでしょう。

もう少し知的な前頭葉の鍛え方としては、自分の思想とは真逆の、相容れない意見の記事や本をあえて読んでみるのも、脳への刺激という点ではお勧めです。

自分とは相容れない意見やイデオロギーに触れたとき、人はついつい斜に構えてしまうものですが、それでも真正面から向き合ってみれば、意外な発見のひとつやふたつはあるかもしれません。仮にそうした発見が何もなかったとしても、「それは違うぞ」などと心の中で「ツッコミ」を入れながら読むことになりますから、前頭葉にはとてもいい刺激になる、というわけです。

写真=iStock.com/bowie15
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bowie15

■「決めつけ」型の思考から抜け出そう

こうした姿勢を、読書にかぎらず日常全般で実践すれば、より効果的な前頭葉の訓練になるでしょう。

具体的には、「目的Aを達成するにはBという方法しかない」「自分のこの考え方が絶対に正しい」といった「決めつけ」型の思考から抜け出し、世の中には自分が「正しい」と思っている方法や理論以外にも「いい方法」や「いい意見」が存在する可能性を常に意識する。そうした思考パターンを日常生活の基本にするのです。

たとえば、職場の若手社員などから出される意見に対しても、頭ごなしに否定するのではなく、「もしかしたら、彼らの言うことが“よりよい”ものである可能性もあるな」というくらいに受け止めてみるのです。

■「あれもこれも思考」のすすめ

これはなにも、若者の言うことを全面的に認めましょうという話ではありません。自分では「自分の意見が正しい」と思っていても、それが「100%正しい」と決めつけるのをやめよう、ということです。

相手にも何%か何十%かの正しさがあり、双方の正しさがせめぎ合う中で議論が成立しているんだ、という思考パターンを意識する。あるいは、どちらかが正しくてどちらかが間違っているのではなく、両者が正しい可能性があることを留保する。そして、1つの問いに対して複数の回答が用意できるようになる。

私はこれを、「あれもこれも思考」と呼んでいますが、こうした姿勢は、前頭葉を老化させないためのいい習慣です。

■40代から要注意「性ホルモンの減少」

実は40代に起こる身体的な変化のうち、おそらくその人の生活にもっとも幅広い面で影響を及ぼすのは「性ホルモン分泌量の減少」。つまり更年期障害が始まることです。

更年期障害といえば、かつては女性特有のものというイメージが強かったのですが、2000年代に入って漫画家の故・はらたいらさんが著書などで自身の闘病体験を語ってくれたおかげで、男性にも更年期障害があることが広く知られるようになってきました。

ひと昔前までは男性ホルモンといえば、性欲との関係で語られることがほとんどでした。男性ホルモンが減ったほうがいわゆる「枯れた」老人になれるとか、おとなしくなるとか、あるいは「浮気をしなくなるから結構だ」とさえ思われてきました。

ところが近年、男性ホルモンの研究が急激に進んだことで、男性ホルモンの減少にともない、性欲だけでなく、意欲全般が落ちることがわかってきました。男性が中高年になると人づき合いが面倒になって家に閉じこもりがちになり、「濡れ落ち葉」などと揶揄(やゆ)されるのは、まさしくこの男性ホルモンの減少によって起きていることなのです。

■人づき合いが億劫になるのは黄信号

このように、人づき合いが億劫(おっくう)になるのも、男性ホルモンの減少による重要な症状です。

女性は更年期以降男性ホルモンが増えるので、意欲的になり、これまでより人づき合いが豊かになることも珍しくありません。高齢者の団体旅行に女性が多いことなどは、こうした理由もあるのかもしれません。

さらには男性ホルモンの分泌が減ってくると、判断力や記憶力などが鈍ってくることもわかってきています。

■40代からは60代以降に実現する「夢」を持つ

終身雇用・年功序列制度が一般的だった時代、中間管理職に求められる資質は部下の話をよく聞き、上役の意向とのバランスを取って調整する能力でした。こうした役割は、自己主張を押し殺せるほうがうまくいきますし、そのため、かつては男性ホルモンの分泌の減退気味な人が中間管理職になることに目立った問題は生じませんでした。

和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)

ところが、競争型のリーダーシップが求められるようになったいまの時代の40代は、男性ホルモンやセロトニンの分泌量が減ることのリスクを被りやすくなっています。意欲や活力が低下し、適応能力が落ちている人に対しては、会社側がセカンドキャリア研修に留まらず、早期退職や転職などを示唆してくるケースもあるでしょう。

あるいは、定年後に起業を考えている読者の方であれば、何をどのように扱って起業するかというアイデアだけは40代のうちに温めておくのがよいでしょう。知人の定年後の起業に詳しいコンサルタントによると、定年間際や定年後にようやく起業について考えるという人は、だいたい失敗するそうです。

60代ともなれば、前頭葉が司る創造性や意欲は40代のころよりかなり落ちているでしょう。40代のうちから、夢を持つだけでなく、具体的に準備を進めていなかった人は、定年後からのスタートでは想像もしていなかったような苦しい思いをすることにもなりかねないのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)