航空自衛隊が導入する次期戦闘機の全容が見えてきています。日・米・英3か国の共同で進める開発事業になりますが、そもそもなぜ外国との共同開発が重視されてきたのでしょうか。その経緯と開発体制を振り返ります。

次期戦闘機エンジンの実証事業はイギリスと

 日本における「次期戦闘機」の全容が見えてきています。防衛省は2021年12月22日(水)、航空自衛隊のF-2戦闘機を後継する次期戦闘機のエンジンの実証事業をイギリスと共同で行うと発表しました。

 次期戦闘機の方向性を定めるにあたっては、「新型機の単独開発」または「共同開発」、「既存の戦闘機の改良型の導入」という3つの手法で検討され、最終的に政府は2018年12月18日に閣議決定された現在の防衛大綱と中期防衛力整備計画で、「外国との協力を視野に、我が国主導で開発」するという方針を定めました。


次期戦闘機F-Xのイメージ(画像:防衛省)。

 純粋な国防の観点から言えば、戦闘機に限らず防衛装備品は単独開発が望ましいのですが、航空自衛隊が導入を進めているF-35の開発費が6兆円を超えているという事実が物語るように、現代の戦闘機は高性能化に伴い開発費も上昇の一途をたどっていることから、開発費を一国でまかなうことが困難になっています。

 共同開発は開発費を抑えることが期待できますが、参加する国の思惑の違いなどから開発が難航することもあります。航空自衛隊が運用しているF-2戦闘機は、F-16戦闘機をベースに日本とアメリカが共同開発したものですが、アメリカが「ソースコード」と呼ばれる飛行制御プログラムの設計図の開示を拒否したことから、開発に要する期間の延長と開発費の追加支出を余儀なくされています。

 次期戦闘機はF-2の退役開始が見込まれる2035年までに開発を完了する事が求められています。それと同時に、日本はF-2を開発した1980年代から90年代と比べて国家財政も逼迫していることから、開発コストをできる限り抑えることが望まれています。このため開発コストの低減と開発期間の短縮を狙って、政府は「外国との協力を視野に」入れて、次期戦闘機を開発することとなったわけです。

アメリカとはどうタッグ組む?

 外国との協力については、2020年12月18日にアメリカのロッキード・マーティンが支援候補企業に選定されています。

 日本には高いステルス性能を持つ先進技術実証機「X-2」を開発した実績はありますが、高いステルス性能を持つ戦闘機を開発した実績はありません。また、現在先進諸国における軍用機の開発では、開発費を低減するため、できる限り紙の図面を使用せずにコンピュータ上で設計作業を行い、試験も可能な限り現実世界とコンピュータ上の仮想空間を融合させた「XR」(Extended reality)におけるシミュレーションで行う「デジタルエンジニアリング」が主流となりつつありますが、日本にはこの技術を使用して実用機を開発した経験もありません。


ロッキード・マーティンによるアメリカ空軍のF-35A「ライトイングII」(画像:アメリカ空軍)。

 このため高いステルス性能を備えるF-35と、航空自衛隊が次期戦闘機に求めている高いステルス性能と運動性能を兼ね備えたF-22の開発実績があり、かつデジタルエンジニアリングにおいても高い技術力を持つロッキード・マーティンが、戦闘機と電子機器やコンピューターなどの「ミッション・システム」の統合、コンピューターによるシミュレーションを駆使した設計、運動性能とステルス性能の両立の3つの分野の設計で、日本を支援する企業の候補に選定されることとなりました。

 次期戦闘機にはアメリカ軍との高い相互運用性も求められています。このため防衛省は2020年8月からアメリカ空軍などとの間で、次期戦闘機とアメリカ軍機が高いレベルで相互にデータのやり取りを行うためのネットワークの構築に向けた話し合いを開始しており、この領域においてもアメリカ企業の支援を受けることが確実になっています。

中身は「イギリス」か

 イギリスは日本の次期戦闘機とほぼ同時期、2030年代半ばの実用化を目指して、新戦闘機「テンペスト」の開発計画を進めています。イギリスはテンペストの開発にあたって、あくまでも自国が主導するという立場を堅持しながら、開発費の低減と開発期間の短縮を狙って、諸外国に開発計画への参加を呼びかけています。

 イギリスはテンペスト計画への諸外国の参加にあたって、必ずしも共同開発への参加を求めず、共有できる技術に関する協力でも構わないというスタンスを取っています。このため「我が国主導」で次期戦闘機を開発するという方針を打ち出した日本にとってイギリスは手を組みやすい相手であり、また双方がお互いの技術力を高く評価していることから、日英両国は協力に向けた話し合いを進めてきました。


航空自衛隊の既存戦闘機F-2(画像:アメリカ空軍)。

 今回発表された日英両国による次期戦闘機のエンジンの実証事業は、日本のIHIとイギリスのロールス・ロイスが共同でエンジンの実証機を開発するものです。日本とイギリスが次期戦闘機とテンペストのエンジンを共同開発することが決まったわけではないものの、その要求には共通項が多いことなどから、同じエンジンではないとしても、かなり共通部分の多いエンジンが日英両国の新戦闘機に採用される可能性が高くなったと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 防衛省はエンジン以外の部分でもイギリスとの協力を進めていく方針で、次期戦闘機とテンペストをどの程度共通化できるかについての話し合いを進めることも明らかにしています。

 次期戦闘機の詳細設計は2022年度から開始されるため、どのような戦闘機になるのかはまだ不透明ですが、イギリスとの協力がさらに進めば、外見は異なるものの、中身に関してはテンペストとかなりの部分で共通化されるという、日本はもちろん諸外国でもかつて例のない戦闘機になるのではないかと筆者は思います。