仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者の皆さんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。

今回登場するのは…佐々木紀彦さん。


【佐々木紀彦(ささき・のりひこ)】1979年生まれ、福岡県出身。2002年に東洋経済新報社に入社。2012年には『東洋経済オンライン』編集長に就任。2014年にはユーザベース社に移り、『NewsPicks』編集長に就任。2021年、PIVOT社を立ち上げる。最新刊に『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』(文藝春秋社)

『NewsPicks』編集長として、その圧倒的なグロースを最前線で引っ張っていた佐々木さんに、新R25でインタビューできる日が来るとは…。

現在はNewsPicksを離れ、新会社「PIVOT」を立ち上げたばかりですが、その成功の源泉とは?

…偉大な編集長にインタビューする以上、負ける(ってなに?)わけにはいきません。あらかじめ断っておきますが、今回の記事は“骨太”です。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

「個で戦ってない人が、戦ってる人を叩くなんて不健全」メディアからピボットして起業の世界へ

天野:
佐々木さんが以前、「質問する内容を事前に伝えてすりあわせすぎると取材がつまらなくなる」と言っていたのを見たことがあって、今回は事前に詳細を送らなかったんですけど…

佐々木さん:
それで十分ですよ。そこから盛り上げていくほうが、絶対面白くなりますよね。


用意しないという用意周到(?)。アドリブの緊張感をお楽しみください

天野:
佐々木さんが、次々とステージを変えて成功する秘訣をおうかがいしたくて。

「東洋経済オンラインの月間PVを10倍に」「NewsPicksの躍進」と成果を出しつづけ、今度はご自身の会社を立ち上げたと…

佐々木さん:
「○○力」と表現するなら、私は「ピボット力」というものを意識しています。

「頑張っていい会社に入ったんだから、辞めるのはもったいない」というのは、もう昔の話だと思います。

「楽しそう」と思う方向に軽やかにピボットしていくほうが、幸せな人生を歩めると思うんです。

天野:
以前のインタビューで、「人の批評をしていることが歳を重ねるにつれて恥ずかしくなってきた」「人生の美学とずれている」とおっしゃっていましたよね。

メディア人として実績を積んできた一方で、そこからピボットして「起業家」というプレイヤーになりたい気持ちがあるんですか?

"もともと私はメディア人であることにコンプレックスを抱いているところがありました。人の批評をしていることが歳を重ねるにつれて恥ずかしくなってきたといいますか。人生の美学とずれているなと。

やはり、いろんな人にぶっ叩かれても、自らの信じた道を突き進む人生を送りたい。NPの時の私は半々だったと思います。批評家として振る舞うところもできた一方で、経営にも携わってプレイヤーとしてもやっていました。2つの立場を使い分けられるのは便利だったのですが、我ながら「ずるいなあ」とも感じていました。"

出典 https://www.businessinsider.jp

佐々木さん:
そうですね。「裸の自分」力というか。個の自分として戦いたい。

メディアの持ち味である“批評”は好きですけど、「日本のジャーナリズム精神ってなんか歪んでんだよな〜」と思う。批評の質が高ければ改善につながると思うんですけど…

天野:
質が高くない?

佐々木さん:
はい。メディア界全体がすごくぬるいカルチャー。記者が個人として戦ってないですよね。

芸能人、経営者、政治家、みんな個で戦ってるわけですよ。

個で戦ってる人を、個で戦ったことのない、競争にさらされてない人がああだこうだ言ってるのって、不健全じゃないですか?



天野:
本当にそう思います。

佐々木さん:
こんなこと言うと怒られるかもしれないけど…日本の大手メディアの社員で、マーケットに出て今より稼げる人って、ほぼゼロなんじゃないですか。

天野:
そうですねとも言いづらいですが…(笑)。

佐々木さん:
フリーになってる人は、やはりたくましいなと思います。石戸さん(石戸諭。毎日新聞、BuzzFeed Japanを経てフリーのノンフィクションライターとして活躍)とかも、会社員だったときと何か違いますよね。

会社にいるのは別にいいんですけど、「これは看板を借りてるんだ」っていう意識を持って、ちゃんと勝負しないと、看板と一体化しちゃうっていうか。


物議を醸しそうですが、「個」に対する佐々木さんの熱量を感じます

佐々木さん:
最近読んで面白かったのが、『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』という本なんですが…

天野:
『Number』にいらっしゃった鈴木さん(鈴木忠平。日刊スポーツを経て、Number編集部に在籍。現在はフリーとして活躍)さんの本ですね。

佐々木さん:
あの本のすごいところは「筆者が出てくる」ことなんですよ。

筆者自身が自分のサラリーマン的な立場に悩みつつ、落合監督というプロ意識の塊に出会って変わっていく。そして実際に会社を辞めて、個人として戦う。そこが清々しいんですよね。

天野:
じつは、1人のサラリーマンが“個”になるまでが描かれている。



佐々木さん:
単純に会社を辞めろという話ではなく、企業の看板に隠れない「裸の自分」を見つめること。

たとえば立ち上げ当初のNewsPicksや、今PIVOTに来てくれている人に「看板」なんてない。一応組織にはいるけど、そのなかで個として戦ってたと思うんです。

何の会社ですか?」みたいな反応ももちろんある。そういうのをくぐり抜けて何かをつくっていけたら、相当磨かれるし鍛えられる

天野:
僕も新R25の立ち上げに携わっているので“看板のない戦い”の面白さはわかります。

佐々木さん:
そうですよね。もちろん傷つくこともたくさんあったと思いますけど、思ってるほど大変じゃない。だからこそ若い時期に“看板のない自分”を経験することが大事かなと。

それをみんなに経験してもらいたいっていうのがあるんですよ。そしたらもっと、日本が面白くなると思うんです。


この人の目線は「日本」にあるんだな…

「商社に行くのだけがかっこいいんじゃない」エリート層の意識を変えたい

佐々木さん:
それも含めて僕が考えているのは、日本のエスタブリッシュメント(エリート層)への挑戦状を叩きつけたい、ということなんです。

エスタブリッシュメントな人たちが起業家的な「裸の自分」に向き合う思考を持たないとダメだと思うんですよ。



佐々木さん:
だから、今回『起業のすすめ』を書いたんです。会社員のルートから外れた“アウトロー”が起業をするってイメージがあるでしょ。それを「かっこいい」に変えたい。

商社とかマッキンゼーに行くだけがかっこいいんじゃないぞと(笑)、“ど真ん中”の人たちに知ってほしい。

天野:
世の中に「個で戦う人」を増やす、という意図があるんですね…

佐々木さん:
そうなんです。世代論でいうと、藤田さん、三木谷さん、ホリエモンさん世代が“起業第1世代”。

僕は、メルカリの山田進太郎さんとかと近い“第2世代”。我々が起業のイメージをよくしていくっていう役割(笑)。ハングリーだけでなく、ノーブルなイメージをつけたい。

“第3世代”はタイミーの小川さんとか、「起業だ!」と気負わない若い人たちだと思ってます。

天野:
小川さん、先日取材しました。まだ24歳で。

佐々木さん:
彼らのなかから、世界に羽ばたく大谷選手みたいな人が生まれてくると思うんです。我々はそこまでの橋渡しとして「道をつくるけど、中心になるわけではない」という、中田みたいなイメージですね。

天野:
中田…翔?

佐々木さん:
あっ、いや、中田英寿です。海外でプレーする流れをつくったという…


盛り上がっていたのに変なところで腰を折ってしまった

周囲が絶賛する「アドリブ力」の秘訣は、深掘りインプットと、「本を書く」!?

天野:
今回の取材にあたって、NewsPicksにいらっしゃる木嵜綾奈さん、川口あいさんに「佐々木さんのすごいところ」をお伺いしたんですけど…

佐々木さん:
周辺取材まで? さすがですね(笑)。

天野:
ありがとうございます(笑)。

木嵜さんは「インプット力と集中力がすごい」と。「番組出演の直前に現場に来て、その場でゲストの情報や番組内容を全部インプットしている。オンエアの数分前にリハしただけで数字が全部頭に入ってるし、集中力がすごい」。

川口さんも「天才的ファシリ」とおっしゃってました。

佐々木さん:
事前にももちろん準備はしますけど、やっぱりあとは直前にガッとインプットして、本番での瞬発力を頑張るほうが絶対に面白いでしょう。自分の「アドリブ力」を高める努力。

天野:
僕らが佐々木さんのような「アドリブ力」を身につけるにはどうしたらいいですか?

佐々木さん:
とにかく浴びるようにインプットすること。私、勉強大好きなんですよ

天野:
でしょうねえ…。我々は普段、どういうインプットをすればよいでしょうか?

佐々木さん:
それは、「これを学ばなきゃいけない」みたいな学び方じゃなく、好きなことをまず深くやればいいと思うんです。

たとえば囲碁が好きな人なら、囲碁なら誰にも負けないぐらい勉強するとか。すると、そこからいろんなことが派生して勉強できるようになるんですよ。

天野:
まずは深さ?

佐々木さん:
深さで全然いいと思います。5教科あって「これ全部学んでください」みたいなのって学校的じゃないですか。それをやると大半の人ってつまずく。

そうじゃなくて、まず好きなこと。そこから横に広げていくと、多くの方が勉強を好きになります。

私が「勉強大好き」と言えるのは、嫌いな勉強をやらないからだと思うんです


苦手なジャンルから逃げてきた人生でしたが、佐々木さんもそうなら心強い

佐々木さん:
そのうえで…本を書く

本を1冊書くと人生変わります。これは強調して言いたいですね。

天野:
本を!? さすがにそれはマネできない気が…出版するアテもないですし…

佐々木さん:
いや、みんな「声もかかってないし…」って思うはずなんですけど、それでも書いたほうがいい

私も最初に書いた本(『米国製エリートは本当にすごいのか?』)は、なんのアテもないのに書き続けて、自分で売り込んで出版にこぎつけたんですよ。

天野:
そうなんですか…! それは東洋経済の編集部員時代にってことですよね?

佐々木さん:
はい。本を書くと、ブランドになるんですよ。自分自身にタグができるというか。

ブルーオーシャン力」って言えばいいかな。日本ってまだまだカテゴリーが空いてるんですよ。本を書けばその第一人者になれるかもしれない。なのに「自分なんかが…」って遠慮してしまう。

そういう偏差値的な思考っていうか、まわりの人と同じ視点からちょっとずらすだけで、チャンスが満ちあふれていると思うんですよ。

天野:
そこもピボットの視点で。

佐々木さん:
大企業のなかにいても、自分が仕事で学んだことのなかに、ブルーオーシャンがたくさんあるはずなんです。

『起業のすすめ』も、今回起業のプロセスで経験したことは書いておかないともったいないと思ったし、「起業って定番本が意外とないな」っていうブルーオーシャンにも気付いたんです。

こうやって世に出したことで、いろんな反応をいただけて自分もまた学びになります。



天野:
最後に改めて、「ピボット力」の真髄を読者に向けて教えてください!

佐々木さん:
…いろいろとハードルが高いようなことを言いましたが、仕事や人生における「ピボット」というのは、別に過去を捨てるわけではない。

「方向転換」という意味ですから、過去の実績を軸に、その実績を一番活かせる方向に転換していくということ。ポジティブに考えてみてほしいですね。

私の場合も、東洋経済で培った編集力やライティングスキルがあったからこそ、NewsPicksができたわけです。

天野:
ちなみに、PIVOT社を立ち上げてのチャレンジも、今までのスキルを活かしたものになる?

佐々木さん:
もちろん。ただ、NewsPicksとはまったく違う経済コンテンツサービスを立ち上げる予定です。

本当はこの話を一番したいんですけど…まだ詳しくは言えないので(笑)。


「活字も映像も音声も、あらゆる手法を使いながらやっていく」とのこと…楽しみです

佐々木さん:
今日はありがとうございます。ついつい乗せられていろいろ話させてもらいました。うまいですね、インタビューが。

天野:
いやもう、今日はそれを言っていただくためにめちゃめちゃ頑張りました(笑)



気負いまくって臨んだ取材でしたが、どうにか佐々木紀彦さんの根幹に迫れた気がします…。

「会社の看板ではなく、個として戦っているか?」

は、起業するしないにかかわらず、全ビジネスパーソンの心に刺さる問いなのではないでしょうか。

そして、佐々木さんがインタビューのなかで問題提起してくれた「ピボット」と「起業」について、新R25ワイドショーで下記のテーマを公開しています。

インタビューの内容をふまえて、ぜひ回答してみてください!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/執筆協力=石川みく(@newfang298)、山田三奈(@l_okbj)/撮影=森カズシゲ〉

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『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』

「日本のエスタブリッシュメントへの挑戦状」と語る、佐々木さんの最新刊。

さまざまな起業家を見てきた佐々木さんならではの分析や、「起業家のタイプ」など実践的な情報が満載。

あなたもぜひ、“挑戦状”を受け取ってみてください。

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