打倒iPhoneを目指す「Pixel 6」が確実に負けている1つのこと(石川温)
グーグルは、10月28日に自社ブランドスマートフォン「Pixel 6」「Pixel 6 Pro」を発売する。今回、グーグルはPixel 6発売に向けて相当、気合いが入っていたようで、正式発表前から外観デザインや自社開発チップ「Tensor」を搭載することを発表。日本ではテレビCMを投下し、自社開発チップをアピールするキャンペーンとして「ポテトチップス」を配布するなど、様々な活動を展開してきた。
日本ではiPhoneの販売シェアが高く、グーグルとしては「打倒iPhone」を目指していてもおかしくない。Pixel 6シリーズはデザイン的にもこれまでに比べて垢抜けた感があり、幅広いユーザー層の獲得を狙っていることだろう。
実際、iPhoneと比べて、Pixel 6シリーズがどれだけ使い勝手がいいのかは、今後、掲載されるであろう数々のレビュー記事に委ねるとしよう。
アップルは広告費を支払わずともiPhoneのCMを流せる
そんななか、現状、Pixel 6シリーズがiPhoneに「確実に負けている」点をひとつ上げるとするならば、「キャリアの援軍」なのではないだろうか。
iPhoneは、今年4月に楽天モバイルも取り扱いを開始したことで、国内4キャリアがすべて扱う体制が整った。
テレビCMではアップルが作ったものだけでなく、各キャリアが出稿したCMが次々と放映されるようになっている。交通広告もNTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイルのそれぞれのロゴが入るなど、アップルが広告費を負担しなくても、大量に街中に広告が露出するようになっている。
今回のPixel 6シリーズはauがPixel 6のみを扱い、ソフトバンクがPixel 6とPixel 6 Proの2モデルを扱う。かつて、NTTドコモがPixel 3などを取り扱ったことがあったが、いまでは「ガン無視」を決めるなど、Pixelシリーズには全く興味を示さなくなっている。
NTTドコモとしてはPixel 3を扱っても「売れなかった」という実績が残ってしまったのだろう。「売れないから調達しない」というのはまっとうな理由といえる。
一方、ここ最近、Pixelシリーズを担いでるのがソフトバンクだ。昨年、発売されたPixel 4a(5G)に続いて、今年のPixel 6 Proも、ソフトバンクが国内キャリアでは独占的に扱っている。かつてiPhoneを独占的に扱ったこともあるソフトバンクだが、なぜそんなに「Pixelシリーズ推し」なのか。
ソフトバンクの菅野圭吾氏は「Pixelシリーズはグーグルが注力している事業のひとつ。これまでもキャリアとして独占してきたが、メリットとしてはグーグルのテクノロジーをいち早く学べるという点がある。
グーグルの技術にどう対応していくか、技術陣と検討できる。そこで学んだことを、お客さんに説明し、製品を届けることができるのは大きなメリットと言える。
グーグルと新しい取り組みをいち早く行うことで、ネットワークやOSへの対応を円滑に進めることができる」とPixelを率先して扱うことへの利点を語る。
今後、5Gのエリアが広がり、SAが導入され、低遅延のネットワークが広がれば、クラウドベースのサービスとスマホがますます近づいてくるようになる。クラウドの分野で世界をリードするグーグルと密接な関係を築いていれば、今後もビジネスを有利に進められるようになるのは間違いない。
榛葉淳副社長も「グーグルはスマホだけでない。今後も刺激なものを出し続けてくることだろう。お互い独占というコミットをして、中長期のビジョンを持ちながらパートナーとして深く関係性を持つことは、まさに将来を見据えていることになる。グーグルとは大きな手応えを感じている」と胸を張る。
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実際、ソフトバンクのなかでPixelシリーズは「具体的な数は言えないが、Androidラインナップのなかではトップブランドに近い位置にいる」(榛葉副社長)というぐらい、よく売れているようだ。ソフトバンクが独占的に扱うモデルもあったため、SIMフリー版をGoogleストアで買うよりも「購入するならキャリアの購入補助プログラムのあるソフトバンクで」という人も多いのだろう。
だが、グーグルが日本でソフトバンク、auだけでなく、NTTドコモと楽天モバイルでも取り扱われるようになるには、まだまだ売れる必要があるだろう。それこそ、Pixel 6 Pro欲しさにNTTドコモからソフトバンクに大挙してMNPして移行するユーザーが出てこないことには、NTTドコモも取り扱いを始めないのではないか。
4キャリアが争ってCMを流し、キャンペーンを展開するぐらいまで持ってこないことには、PixelはiPhoneに対抗できないだろう。
今回、グーグルはPixel 6シリーズの発表会を、ニューヨークに新設されたGoogleの直営店で収録したものを配信していた。直営店は、実際に製品を手に取って試せる場所として機能している。グーグルはスマートフォンだけでなく、スマートスピーカーやスマートドアベル、スマート防犯カメラなど、取り扱う製品は多岐にわたりつつある。IoT製品は、ネットで見ただけで購入するのは無理があり、実際に触り、店員さんに相談しながら購入できるのが望ましい。
グーグルが本気に日本でPixelやIoT機器のnest製品の売り上げを伸ばしたいのなら、アップルのように直営店を、どこかに出店くらいの覚悟が必要だろう。
Chromebookなどは、GIGAスクール構想により、小中学生に一気に普及した。その勢いをPixelシリーズに波及させるためにも、「リアルに触れる場所」の拡大は避けては通れない。
学校でChromebookを使い始めたことで、全国の子供たちがグーグルのサービスに慣れ親しんだ。
そんな子供たちが「初めてのスマートフォンは使い慣れているグーグルがいい」ということにもなりかねないだけに、グーグルが日本でさらに本気を出すのは、まさに今なのではないだろうか。
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