《Girl With Balloon》2002年の再現展示

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《Girl With Balloon》2002年の再現展示

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世界各地で活躍し、その動向が常に注目されているアーティスト、バンクシー。ストリートから紛争地帯、オークション会場など様々な場所で活躍する彼の作品を紹介する展覧会『バンクシーって誰?展』が寺田倉庫G1ビルにて、8月21日(土)から12月5日(日)まで開催されている。

一切のプロフィールを明らかにしていない覆面アーティスト

近年では医療従事者を応援する作品を発表するなど、常に話題をふりまいているバンクシー。彼は現在まで一切のプロフィールを明らかにしていない覆面アーティストだ。けれどもこれまでに応じた様々なインタビューにより、1970年代に生まれイギリスのブリストルで少年時代を送ったと考えられている。

90年代よりストリート・アートを描き始めたバンクシーが注目されるようになったのは2005年のこと。メトロポリタン美術館や大英博物館などの有名美術館にゲリラ的に自作を展示し始め正体不明ながらも広く注目され始めた。

この展覧会は、世界各都市を巡回した展覧会『ジ・アート・オブ・バンクシー展』の作品群を、日本オリジナルの切り口で紹介するといもの。主催者である日本テレビの番組制作スタッフによって作り込まれた世界各地の“ストリート”と、そのなかで展開する14の作品の再現展示が見どころの一つだ。

「現在」を描きだす

バンクシーは「現在」を描きだすアーティストだ。昨年12月に発表された《Aachoo!! 》は、急坂にある壁に描かれた作品。老婆のくしゃみの勢いで、入れ歯は飛び出し、家が傾いてしまったかのように見えてしまう作品。

ユーモラスな作品のなかに、マスクをつけないことで起こる飛沫やウイルスの拡散への警鐘が含まれていると考えられている。

フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》をモチーフに、耳飾りの位置に黄色い警報機が置かれた《Girl with a Pierced Eardrum(鼓膜の破れた少女)》は、2014年に描かれた作品。

2020年、この作品は何者かの手によって医療用マスクが描き加えられていることが発覚。バンクシー本人なのか、第三者によるものかは未だに不明だ。展覧会では、かつての《Girl with a Pierced Eardrum》と、現在のバージョンを並べて紹介する。

芸術についても問いかける

現代の社会を問い直し続けるバンクシーは、芸術についても問いかけ続けている。

《Whitewashing Lascaux(The Cans Festival)》は、「バンクシー・トンネル」とも呼ばれた、ロンドンのウォータールー駅近くのトンネルに描かれた作品。人類による芸術の起原と称されているラスコー洞窟の壁画の動物たちを清掃員が消失させてしまう場面を描いたもの。

バンクシーらストリートのアーティストたちの手掛けた作品も、この作品のように儚い運命をたどる。もちろん、この作品も現場にはすでにない。

巨大な象が出迎えるこの空間は、2006年に開催されたアメリカの個展《Barely Legal(かろうじて合法)》を再現したもの。

だれの目にも明らかな問題点について誰も触れようとしないときに使う言葉「Elephant in the room(部屋に象がいる)」を現実に表したものだという。象は動物に有害ではないスプレー塗料で壁紙と同じダマスクス模様にペイントされている。この個展は3日間で3万人以上が訪れたという。

この空間に展示されている《Congestion Charge》は、デザイナーのポール・スミスのコレクションの一つ。のみの市で販売されていた無名の画家による風景画に、ロンドン市内へ乗り入れる車に徴収されるコンジェスチョン・チャージ(乗入税)の看板を加筆したもの。

のどかな田園風景の絵画だが、ひとつの看板を描き加えるだけでその意味は大きく変化している。

民族問題にも強い憂慮

バンクシーの関心は都市だけではない。民族問題についても強い憂慮を示している。パレスチナのガザ地区北部に描かれた《Giant Kitten》は「SNSではガザの悲惨な状況よりも、子猫の写真ばかりが見られている」との理由で描かれた子猫の絵だ。

《The Walled Off Hotel》は、バンクシーがパレスチナ自治区のベツレヘム市内にオープンした「世界一眺めの悪いホテル」。イスラエル政府により建てられた高さ8m、全長700kmに及ぶ分離壁が目の前にそびえる場所にある。

バンクシーや仲間のアーティストたちは、世界の人たちにパレスチナ問題へと目を向かせるためにこのホテルをオープンさせた。展覧会では、実際に窓から見える眺めも再現されている。

スティーブ・ジョブズと思しき人物が描かれたのは、フランスはカレーの難民キャンプ。シリア内戦の激化など様々な事情でアフリカや中東から避難してきた難民たちは、この地に集められ劣悪な環境で過ごしていた。

そこにバンクシーが描いたのは、シリア難民の息子として生まれ、アメリカで成功を収めたスティーブ・ジョブズ。バンクシーはこの作品において「彼の父親をアメリカが受け入れたから、年間70億ドルもの税金を払う、世界に冠たるアップル社ができた」と声明も発表している。

このほかにも、バンクシーのステンシル作品や覆面のポートレート写真なども会場に展示されている。バンクシーとは誰なのか?どのようなことを考えているのか?を、作品から感じ取ってみよう。

『バンクシーって誰?展』
12月5日(日)まで、寺田倉庫G1ビルにて開催