製品レビュー : 写真・映像編集に最適なクリエイター向けのデスクトップパソコン「raytrek ZF 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル」
広告業界のデジタルアウトプットは小型・大型の両方に二極化
世の中の変化に伴って広告業界で必要とされるアウトプットも様変わりする。近年、広告業界ではデジタルアウトプットが増加しているが、その中でも二極化の傾向がある。
一つは比較的サイズの小さなコンテンツ(YouTubeの動画広告やInstagram広告)でパーソナルな広告、もう一つは屋外の大型看板や大型ビジョンによるサイネージ広告などの、サイズが大きく不特定多数の通行人などに向けた規模の大きなコンテンツである。
サイズの小さなコンテンツは、見る人の趣向にフィットするよう複数のバリエーションなどが作成され、大規模のものは、高精細、高解像度の大サイズファイルが用いられることが多い。そのため制作物の高画質化やバリエーションの多さから、一つの案件に関わるファイル容量が大きくなってきている。
raytrek ZF 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル
今回、BTOパソコンメーカーのサードウェーブが発売している「raytrek ZF 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル」を試用する機会を得た。このモデルは写真・映像編集に最適なデスクトップパソコンという位置付けで、大容量のファイルに対応できるだけのストレージ拡張性と、サイズの大きな制作物やムービー、3Dまで編集可能なスペックを持ち合わせている。
そこで、弊社ヴォンズ・ピクチャーズの最新の事例から、巨大な静止画や、撮影、動画編集など、様々なクリエイティブシーンで実際にこのマシンがどれくらいのポテンシャルを発揮するのか、比較検証してみた。
試用したマシン raytrek ZF 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル
CPU : Intel Core i9-10900K 3.7GHz
RAM : 64GB
GPU : GeForce RTX 3070
テザー撮影は快適そのもので、現像やバッチ処理は大幅に高速化
SONY α7R IIIとraytrek ZF(別所隆弘監修モデル)による撮影現場
このところ、スチルカメラの高画素化や8Kムービーの普及などにより、撮影データは大きくなり、ソフトによる処理も負荷が大きくなってきている。普段撮影現場で使用しているMacBook Proと写真編集ソフトウェアCapture Oneを用い、約4200万画素のSONY α7R IIIによるテザー撮影、バッチ処理、現像などの速度を比較した。
比較に使用したマシン MacBook Pro(15inch 2018)
CPU : Intel Core i7 2.6GHz
RAM : 16GB
GPU : Radeon Pro 560X
複数の画像調整(トーンや色温度、クロップなど)のバッチ処理(300カット) | |
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MacBook Pro | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
26秒 | 9秒 |
RAW現像(16bit tiff、圧縮なし、300カット) | |
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MacBook Pro | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
13分17秒 | 3分7秒 |
RAW現像(8bit JPEG、スケール50%、クオリティ80、300カット) | |
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MacBook Pro | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
11分35秒 | 2分27秒 |
テザー撮影においては、カメラのバッファ限界までシャッターを押し続けてもコンピューター側が遅くなることはなく、快適そのものだった。現像やバッチ処理での差は歴然で、4〜5倍近い速度で数百枚の現像をこなすことができた。
少ない枚数では一瞬で処理が完了するのでPhotoshopなどの編集ソフトとの行き来もスムーズで、合成の確認をしながらの撮影でもスムーズに進行することができた。大量の現像をしながら別の作業をしても動作が遅くなることはなく、かなりの余裕を感じた。
現像やバッチ処理の高速性能を活かし、ロケ先から持ち帰った大量の撮影データをこのマシンで一括処理といったシチュエーションでも強さを発揮するだろう。
本機には監修した別所氏のこだわりで10GbEのLANポートが搭載されており、10GbE対応のNASサーバを使用することで大量のデータを一か所に集約することができる。
つまり、今までのように撮影データを複数のストレージに小分けにして保存し、中にいつの撮影データが入っているかをメモしておく必要がなくなった。10GbEなら転送速度も60GB程度のデータなら1分程度でコピー可能だ。
raytrek ZF(別所隆弘監修モデル)の内部。赤い拡張ボードが10GbEのLANカードで、その隣がGPU
今回はパソコン本体に加えて、Synology社よりDS1821+というNASキットと、同社のNAS用HDD HAT5300(12TB×4台)もお借りすることができた。DS1821+は8個のドライブベイを搭載し、ストレージは単体で単一ボリュームを最大108TBまでストレージを拡張できる。RAID 0/1/5/6/10/Synology Hybrid RAIDにも対応し、データの損失の心配も減った。さらに、オプションの拡張ボードを追加することで、10GbEの通信速度にも対応可能だ。
raytrekブランド担当者によると、一般的なパソコンのLANポートのデータ転送速度は1GbEしかないそうだが、「raytrek ZF 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル」とSynology社のDS1821+、そしてオプションの10GbE拡張ボードを組み合わせれば、理論上10倍もの高速転送が可能であるという。大量のデータを取り扱うにはこの快適さは魅力的ではないだろうか。
サードウェーブが展開するECサイト「ドスパラ」ではこれらのSynology製品も扱っているので、同社に相談すれば、パソコンの導入と同時にNASの環境も整えることができるという。
Synology DS1821+
数万ピクセルの巨大な画像でもレタッチ作業がはかどる
拡張性の高いWindows PCはプロのレタッチャーの現場で広く普及している
レタッチの現場でも扱うデータに二極化の傾向がある。特に屋外看板などに使用されるデータサイズは大きくなっており、実際に弊社で作業を行った例としては約42000×27000ピクセルの巨大なデータや、屋外ボード用に数百もの素材を合成し、レイヤー数が5000枚近くに及んだこともあった。さすがにその時はマシンが悲鳴を上げたので、それらのデータを扱うためにハイスペックのWindows PCを導入して、なんとかことなきを得たことがある。
そこで、この巨大なPhotoshopのデータを使用して、弊社が当時導入したマシンと「raytrek ZF 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル」のスピードを比較することにした。
比較に使用したマシン
CPU : Intel Core i9-9900K 3.6GHz
RAM : 64GB
GPU : GeForce RTX 2060 SUPER
まずは約4万ピクセルのレイヤーデータでの検証結果から見てみよう。
作業中の画像の解像度をPhotoshopで確認したところ。「寸法 : 42257 px × 27441 px」の表示が見える。
約42000ピクセルのレイヤーデータ
デスクトップからデータを開き画像が表示されるまで | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
1分27秒 | 1分3秒 |
レイヤーを保持したまま16bitデータへの変換 | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
6分56秒 | 6分12秒 |
変換した16bitデータのレイヤー統合 | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
1分52秒 | 1分8秒 |
つづいて約4700枚のレイヤーで構成されたデータでの検証結果は以下の通り。
Photoshopのドキュメントウインドウの下部に「4758レイヤー、1198グループ」のファイル情報が見える。
約4700枚のレイヤーで構成されたデータ
デスクトップからデータを開き画像が表示されるまで | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
56秒 | 46秒 |
レイヤーを保持したまま16bitデータへの変換 | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
14分21秒 | 13分31秒 |
変換した16bitデータのレイヤー統合 | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
22秒 | 43秒 |
上記のような結果となった。
約4700枚のレイヤーの統合をのぞいて、ほとんどの検証において弊社導入マシンを上回る結果となった。具体的な数値では示せないが、実際にそれらのファイルを編集してみたところ、弊社導入マシンで発生していた表示の遅れやカクツキなどの現象は、raytrek ZFでは起きなかった。
これらはGPUのGeForce RTX 3070の恩恵で、このサイズのファイルを難なく編集できる性能を持っているという事は、弊社が行っているような広告物のレタッチ作業で困るような事はもうほとんどないと言ってもよいかもしれない。
今回試用したマシンは、内蔵ストレージの拡張スロットが2.5inch - 3.5inch兼用のものが8基、2.5inch専用のものがさらに3基と、合計で11基搭載されている。
スライドマウンタ式スクリューレス2.5/3.5インチシャドウベイを8基搭載。このほかにSSD専用の2.5インチシャドウベイも3基搭載している
日々大きくなっていくファイルをマシン内に保存し、すぐにそれらにアクセスできるのはメリットが多い。前述の約42000ピクセルのデータはファイル単体で26GBあり、さらに媒体によってはレイアウト違いやバリエーションを数多く作成するので、あっという間に内蔵ストレージを圧迫してしまう。
外部のストレージにデータを逃がすこともできるが、修正やレイアウト変更が発生するたびにデータを引っ張り出したり、外部ストレージから直接開くのはストレスだ。この格別に高い拡張性は、その手間やストレスから解放してくれるだろう。
動画や3Dの作業においても高いパフォーマンスを発揮
Unreal Engineの画面。ゲーム開発のほか、高精細3Dによるリアルタイムのビジュアライゼーションが可能
弊社はもともと広告写真のレタッチを主要な業務としていたが、最近では高解像のムービーや3Dだけでなく、Unreal Engine(リアルタイム3D制作プラットフォーム)を使用したプロジェクトも行うようになった。そこで、これらの性能に関しても検証を行った。
比較に使用したマシン
CPU : Intel Core i9-9900
RAM : 64GB
GPU : GeForce RTX 3080
AfterEffects(プレビュー用キャッシュ作成)
REDの5Kムービー素材に複数処理を行い、リアルタイムプレビュー用のキャッシュを作成 | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
4分5秒 | 2分5秒 |
おおよそ2倍の高速化は体感的に速く感じた。
AfterEffectsを動かしている時のCPU使用率。上が弊社導入マシン(CPU使用率32%)、下がraytrek ZF(CPU使用率16%)。
MediaEncoderによるPremiere Proファイルのmp4書き出し
13120×1080の動画素材をつないだPremiere Proファイルをデスクトップへ書き出し | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
20分8秒 | 13分3秒 |
基本的にCPUでの処理だが、約1.5倍の高速化が実現できた。
Unreal Engine 4
エディタが立ち上がって、編集可能になるまでの時間 | |
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弊社導入マシン | raytrek ZF(別所隆弘監修モデル) |
17分53秒 | 12分50秒 |
Unreal Engine 4のプロジェクトファイルは、初回の立ち上げ時から編集可能になるまでにCPUをフルに使用することが多いが、raytrek ZFは速度が上がったことに加え、コア数も増えた関係で、より短時間でタスクを終えることができた。
Unreal Engine 4のエディターではGPUの3D機能を常に使用しているが、raytrek ZFのGPUであるRTX 3070の使用率は30%程度と余裕があり、快適に操作することができた。
Unreal Engineを動かしている時のGPU使用率。上が弊社導入マシン(GPU使用率12%)、下がraytrek ZF(GPU使用率26%)。
raytrekはクリエイティブ業界の人間も注目すべきブランド
今回試用した「raytrek ZF 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル」は、写真撮影、レタッチ、動画、3Dのいずれでも、多くの項目で弊社導入マシンを上回るパフォーマンスを示した。ここまでの結果が出るとは想像していなかったので、驚いたというのが正直な感想だ。
PCの性能は業務効率化に直結するので、弊社では定期的にマシンスペックの見直しを行なって、その都度最適な作業環境を整えてきたつもりだが、今回の検証結果を目の当たりにすると、そろそろPCのリプレースを考える時期になったのかもしれない。
なお、今回試用したモデルはコロナ禍の影響で一部のパーツ調達が困難となり、その影響で終売となるが、2021年6⽉18⽇にほぼ同等品のニューモデル「raytrek ZG 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル」が発売された。raytrekを展開するサードウェーブはゲーミングPCを展開する企業としてゲーマーの間で有名だが、これからは、われわれのようなクリエイティブ業界の人間も注目すべき企業と言えるだろう。
機材協力:Synology
ニューモデル関連情報
raytrek ZG 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル
今回検証した「raytrek ZF 東京カメラ部10選 別所隆弘監修モデル」の後継モデル。
CPUはCore i9 10900K → i9 10850Kへ変更、GPUがGeForce RTX 3070 8GB → RTX3080 10GBとアップグレードされた。
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