夫婦で発達障害。「子どもをもたない」と2人で決めた理由
グラフィックデザイナーの西出弥加さんと光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら結婚。そして、結婚早々から別居という道を選んでいます。
昨年はコロナ禍もあり、実際に会った回数は4回。離れて暮らす現在の2人をZOOMで取材をしました。
離れて暮らす光さん、弥加さん夫妻。今回は子どもについて伺いました
妻の弥加さんがASD、夫の光さんがADHDの発達障害の特性をもっています。東京に住む弥加さんはグラフィックデザイナーの仕事を、愛知県に住む光さんは訪問介護の仕事をしながら、それぞれが一人暮らしをしています。
そんななか、妻の弥加さんは、プラトニックな関係を築く「ポリアモリー」として複数の恋人がいることをカミングアウト。夫のほかに恋人がいることを、夫の光さん自身も許容しています。今回は、光さんの考えを深堀りしつつ、多くの人から聞かれるという子どもについて教えてもらいました。
――妻の弥加さんの恋人について、夫の光さんは許容されているそうですが、光さんご自身は外で恋人をつくろうと思ったことはないのでしょうか?
光:まったくないですね。そもそもの話なのですが、じつは僕が恋愛や性愛に対して興味が薄いというのが前提にあります。弥加さんは、よくこんな僕といてくれるなと思うときがたくさんあります。結婚前に彼女がいたこともありますが、みんなことごとくセックスレスになってしまい、かなり悩ませてしまっていました。僕の元々の気質なので、カウンセリングに行ってもまったく変わらず、ちゃんと相手のことは好きだけど本当にそっちのことに欲が出ないというか。それもあって結婚や恋愛を考えると、かなり落ち込んで寝込んでいたこともあります。そのことで、いざこざが起きなかったのは、たった一人、弥加さんだけです。僕に対して、僕が悩むことを自然に求めてこない人でした。それが本当に救いでした。
あと、弥加さんと出会って「恋人が複数いる」と聞いたとき、そこに嫉妬心が芽生えるとかじゃなくて、素直に「すてきな関係だな」って思いました。
弥加:私が自分のことを話すとき、「これは他者から見たら変わった考えだよな」と思いながら話すのですが、いつも光くんは自然に肯定してくれて、本当にうれしいです。
光:昔つき合った彼女たちのように、相手を悩ませてしまうのが一番つらい。でも弥加さんにはそれがなかったし、恋人たちのことを楽しそうに語っているのを聞くのも、僕もうれしくなる。奥さんが外で恋人をつくっているというと、「一途な旦那さんがかわいそう」「夫婦としてフェアじゃない」という意見が出てくるのですが、全然そんなことはないです。今の関係が理想でした。むしろ僕のほうが、かなり変わっているかもしれないです(笑)。お互いに、この相手じゃないと成立しない結婚だったと思っています。
弥加:仮に光くんにも彼女ができたとしたら、私は喜んであいさつに行きたいです。こういう感覚がお互いに似ていたからこそ、結婚しようと思えました。
光:弥加さんはあまり性愛を築かないと言ってたけど、だれかと築いてくれるなら、それはそれで僕は助かります。“男性性”を大切な人に求められることが僕は本当に怖いし苦痛なので。
弥加:私はとにかく、夫である光くんが不快に思うことはしたくないです。
――現在、光さんは愛知県、弥加さんは東京と別居生活が長く続いているのと、夫婦生活がないとのことですが、たとえば、子どもに関して2人で考えていることはありますか?
弥加:私たち夫婦は子どもをつくらないと思います。私たちの関係はファミリーというよりパートナーとして役割を全うする方が心地よく生きていけると思うので。
光:僕自身もそうです。僕は弥加さんが一番大切なので、妊娠している間、弥加さんが思いきり仕事をできなくなったり、育児でも多少なりとも仕事に支障をきたすんじゃないかって考えると、積極的になれません。妊娠は女性がするものだから、男の僕に痛みがないというのもつらいです。だから妊娠させてしまうと、僕が弥加さんを傷つけているような気がして…。そういう考えから、僕はそもそも男性が「子どもがほしい」という資格はないと思っています。
――お二人ともお互いを大切に思っているからこその考えですね。
弥加:光くんはとてもやさしい考えの持ち主だと思います。ただ私は肉体的には女なので、子どもを産んでも自分が傷つくとは思ってないし、子どもがいたらうれしいので、仕事はセーブすると思います。ただ、光くんが嫌なことはしたくないので、私たちの間に子どもはできないですね。
光:僕も子どもがいたら困る、ということは決してないです。もし子どもがいたとしたら、弥加さんになるべく負担をかけないように、愛知で僕が育てるかも。というか、育児うんぬんの前に、出産する弥加さんのことだけ考えて心配しすぎるのはあると思う(笑)。僕の中では、奥さんがなにより一番だから。
弥加:本当に優しい考えだと思う。
――弥加さんご自身は女性としてどう向き合っていますか?
弥加:子どもはいたらうれしいし、いなくても充実した人生だし、どちらでもいいと思っています。ただ、もしかすると幼少期から不幸を感じづらい生活を送っていたとしたら、なにかを疑いもせず、考えず、自然に子どもを欲していたかもしれない…。
光:僕も幼少期から辛い環境でなかったら、そして男性性を否定しないといけない家庭環境ではなく、子どもを幸せにできる自信があるなら、考えは違ったかもしれない。
弥加:でも私は、光くんのように自信がない人ほど、子どもや他者の気持ちを考えてくれるものだと思っています。自信がないというのは客観視できるからこそ出てくる言葉だと思います。
そして、「結婚したら子どもをつくるべき」とか「離婚しない方が子どもが幸せ」とか、そういう固定概念のようなものが、身近にいる人を苦しめてないか、不安になります。子どもがいなくても幸せな夫婦はたくさんいるし、逆に子どもがいても毎日夫婦ゲンカをしていて家が壊れそうな場合もある。なにより親のケンカを見ている子どもの心はボロボロで、大人になってから後遺症になる可能性があるのでかわいそうです。男女はこうあるべきとか、夫婦はこうあるべきなんて、どこにもないです。
光:自分たちがどうあるべきか、自分の幸せは自分で決めたらいいです。世間がなんと言おうと、目の前にいる相手が、幸せかどうかが大切なことだと思います。世間の常識から外れてなくても、家族が悲しんでいたら意味がないし、たとえ世間から見て変わった形の家族でも、本人たちが幸せならそれでいいと思います。
弥加:私は、自分たちでつくった子どもは可能性としてなくても、たとえば親が育てられなくなって身寄りがなくなってしまった子どもが身近にいたとしたら、家族として迎えて支えたいと思っています。そして、生きづらさを抱える私たちは、支え合いを基本にしているので、夫婦だけで親にならなくてもいいと思っています。私自身が、一人きりで子育てできるような人間でないことも、充分分かっていますので、色々と工夫をして、今あるネットワークの中で、全員ができるだけ穏やかに暮らせるように生活します。血のつながりがなくても、これからもいろんな人と家族のように支え合って生きていけたらいいなと考えています。
<取材・文/ESSEonline編集部>
絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。Twitterは@frenchbeansaya
昨年はコロナ禍もあり、実際に会った回数は4回。離れて暮らす現在の2人をZOOMで取材をしました。
離れて暮らす光さん、弥加さん夫妻。今回は子どもについて伺いました
発達障害の私たちが子どもを持たない理由。そこにはお互いを思いやる心があった
そんななか、妻の弥加さんは、プラトニックな関係を築く「ポリアモリー」として複数の恋人がいることをカミングアウト。夫のほかに恋人がいることを、夫の光さん自身も許容しています。今回は、光さんの考えを深堀りしつつ、多くの人から聞かれるという子どもについて教えてもらいました。
●妻の恋人に対して夫は「むしろ救いになっている」
――妻の弥加さんの恋人について、夫の光さんは許容されているそうですが、光さんご自身は外で恋人をつくろうと思ったことはないのでしょうか?
光:まったくないですね。そもそもの話なのですが、じつは僕が恋愛や性愛に対して興味が薄いというのが前提にあります。弥加さんは、よくこんな僕といてくれるなと思うときがたくさんあります。結婚前に彼女がいたこともありますが、みんなことごとくセックスレスになってしまい、かなり悩ませてしまっていました。僕の元々の気質なので、カウンセリングに行ってもまったく変わらず、ちゃんと相手のことは好きだけど本当にそっちのことに欲が出ないというか。それもあって結婚や恋愛を考えると、かなり落ち込んで寝込んでいたこともあります。そのことで、いざこざが起きなかったのは、たった一人、弥加さんだけです。僕に対して、僕が悩むことを自然に求めてこない人でした。それが本当に救いでした。
あと、弥加さんと出会って「恋人が複数いる」と聞いたとき、そこに嫉妬心が芽生えるとかじゃなくて、素直に「すてきな関係だな」って思いました。
弥加:私が自分のことを話すとき、「これは他者から見たら変わった考えだよな」と思いながら話すのですが、いつも光くんは自然に肯定してくれて、本当にうれしいです。
光:昔つき合った彼女たちのように、相手を悩ませてしまうのが一番つらい。でも弥加さんにはそれがなかったし、恋人たちのことを楽しそうに語っているのを聞くのも、僕もうれしくなる。奥さんが外で恋人をつくっているというと、「一途な旦那さんがかわいそう」「夫婦としてフェアじゃない」という意見が出てくるのですが、全然そんなことはないです。今の関係が理想でした。むしろ僕のほうが、かなり変わっているかもしれないです(笑)。お互いに、この相手じゃないと成立しない結婚だったと思っています。
弥加:仮に光くんにも彼女ができたとしたら、私は喜んであいさつに行きたいです。こういう感覚がお互いに似ていたからこそ、結婚しようと思えました。
光:弥加さんはあまり性愛を築かないと言ってたけど、だれかと築いてくれるなら、それはそれで僕は助かります。“男性性”を大切な人に求められることが僕は本当に怖いし苦痛なので。
弥加:私はとにかく、夫である光くんが不快に思うことはしたくないです。
●私たちが子どもをもたないと決めている理由
――現在、光さんは愛知県、弥加さんは東京と別居生活が長く続いているのと、夫婦生活がないとのことですが、たとえば、子どもに関して2人で考えていることはありますか?
弥加:私たち夫婦は子どもをつくらないと思います。私たちの関係はファミリーというよりパートナーとして役割を全うする方が心地よく生きていけると思うので。
光:僕自身もそうです。僕は弥加さんが一番大切なので、妊娠している間、弥加さんが思いきり仕事をできなくなったり、育児でも多少なりとも仕事に支障をきたすんじゃないかって考えると、積極的になれません。妊娠は女性がするものだから、男の僕に痛みがないというのもつらいです。だから妊娠させてしまうと、僕が弥加さんを傷つけているような気がして…。そういう考えから、僕はそもそも男性が「子どもがほしい」という資格はないと思っています。
――お二人ともお互いを大切に思っているからこその考えですね。
弥加:光くんはとてもやさしい考えの持ち主だと思います。ただ私は肉体的には女なので、子どもを産んでも自分が傷つくとは思ってないし、子どもがいたらうれしいので、仕事はセーブすると思います。ただ、光くんが嫌なことはしたくないので、私たちの間に子どもはできないですね。
光:僕も子どもがいたら困る、ということは決してないです。もし子どもがいたとしたら、弥加さんになるべく負担をかけないように、愛知で僕が育てるかも。というか、育児うんぬんの前に、出産する弥加さんのことだけ考えて心配しすぎるのはあると思う(笑)。僕の中では、奥さんがなにより一番だから。
弥加:本当に優しい考えだと思う。
――弥加さんご自身は女性としてどう向き合っていますか?
弥加:子どもはいたらうれしいし、いなくても充実した人生だし、どちらでもいいと思っています。ただ、もしかすると幼少期から不幸を感じづらい生活を送っていたとしたら、なにかを疑いもせず、考えず、自然に子どもを欲していたかもしれない…。
光:僕も幼少期から辛い環境でなかったら、そして男性性を否定しないといけない家庭環境ではなく、子どもを幸せにできる自信があるなら、考えは違ったかもしれない。
弥加:でも私は、光くんのように自信がない人ほど、子どもや他者の気持ちを考えてくれるものだと思っています。自信がないというのは客観視できるからこそ出てくる言葉だと思います。
そして、「結婚したら子どもをつくるべき」とか「離婚しない方が子どもが幸せ」とか、そういう固定概念のようなものが、身近にいる人を苦しめてないか、不安になります。子どもがいなくても幸せな夫婦はたくさんいるし、逆に子どもがいても毎日夫婦ゲンカをしていて家が壊れそうな場合もある。なにより親のケンカを見ている子どもの心はボロボロで、大人になってから後遺症になる可能性があるのでかわいそうです。男女はこうあるべきとか、夫婦はこうあるべきなんて、どこにもないです。
光:自分たちがどうあるべきか、自分の幸せは自分で決めたらいいです。世間がなんと言おうと、目の前にいる相手が、幸せかどうかが大切なことだと思います。世間の常識から外れてなくても、家族が悲しんでいたら意味がないし、たとえ世間から見て変わった形の家族でも、本人たちが幸せならそれでいいと思います。
弥加:私は、自分たちでつくった子どもは可能性としてなくても、たとえば親が育てられなくなって身寄りがなくなってしまった子どもが身近にいたとしたら、家族として迎えて支えたいと思っています。そして、生きづらさを抱える私たちは、支え合いを基本にしているので、夫婦だけで親にならなくてもいいと思っています。私自身が、一人きりで子育てできるような人間でないことも、充分分かっていますので、色々と工夫をして、今あるネットワークの中で、全員ができるだけ穏やかに暮らせるように生活します。血のつながりがなくても、これからもいろんな人と家族のように支え合って生きていけたらいいなと考えています。
<取材・文/ESSEonline編集部>
【西出弥加さん】
絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。Twitterは@frenchbeansaya