新型コロナウイルスの感染拡大は医療の現場にもさまざまな影響をもたらしました。

地域をまたいだ移動が制限され、医療機関を受診できないまま病状が悪化してしまうなどのケースもあるといいますが、そうした中で医療従事者の懸命な努力が続いています。

今回取り上げるのは、リモートによる脳外科のオペ。「限界を超えるには情熱しかない」と行われた12時間にわたる難手術に密着しました。

宇都宮記念病院、脳神経外科です。

上山さん:「僕らのミスは取り返しのつかないミスになるので、厳しくならざるを得ません」

斉藤医師:「妥協しない。自分が受けたい手術を患者さんにする。最後まであきらめない」

「神の手」を持つといわれ、テレビなどでも活躍する札幌禎心会病院の上山博康さんを顧問に、「最後の砦」をモットーとする弟子の斉藤寛浩医師などのチームが「あきらめず妥協しない」24時間365日の受け入れ体制を整えています。

難しい手術の際には北海道から上山さんが訪れ、2人で執刀するのが常でしたが、コロナ禍で行われたこの日のオペは、ビデオ会議システムを使ってリモートで指示を受けながら臨みました。

斉藤医師:「海綿状血管腫の患者のオペ。左前頭葉に2.5センチの大きさで出血する恐れがある。かなり大きいですよね 」

年間4千例近く行っているという脳ドッグで見つかった海綿状血管腫。腫瘍の中は静脈血管組織が集まり出血しやすくなっています。

小さな出血であれば経過を見ますが、出血を繰り返すことで血種が大きくなり重い症状につながるといいます。

今回の患者の男性の場合、再び出血する可能性が高いということでオペを決断。

しかし、脳幹の深い部分で行う手術は非常にリスクが高い側面もあります。

執刀する斉藤医師を上山さんがモニター越しにサポートします。

上山さん:「(札幌禎心会病院では)コロナ病棟もつくっているが、あっという間に満杯で、北海道は実質的な医療崩壊ですね。コロナが拡大し始めた春以降、半年で6人の患者が相談してきたが全て亡くなっている。そういうのを少しでも打開するために今回リモートでの手術をやってみました」

手術は午前9時30分にスタート。術部の深さと大きさから6~7時間かかると予想されていました。

患部付近は匂いや視力を司る神経も近く、場合によっては記憶障害が出る心配もあり、高性能顕微鏡を使って慎重に作業を進めます。

手術開始から5時間が経過する中、ようやく海綿状血管腫の本体に到達。

上山さん:「見えたね。その中心に入って行って。色変わってるでしょ」

難しい手術でも患者の1日も早い回復につなげるため、脳の組織やミクロン単位の血管を温存するのが信条です。

上山さん:「なんでキューサー使わないの?」

斉藤医師:「奥行きがわかりにくい」

思った以上に深く大きな腫瘍。アタックが続きます。

オペがすべて完了するまでにかかった時間は12時間。斉藤医師は最後まで集中を保ちました。

斉藤医師:「高さのある腫瘍で時間がかかった。でも上山先生が近くにいるようで心強かった」

上山さん:「自分の領域の脳外科をいかに保つかが使命。神じゃないんで全部は治せない。でも、もし限界を超えてやるとすると情熱しかないと思うんだよ、治したいという気持ち」

新型コロナウイルスへの対応や感染拡大によるさまざまな制限を乗り超えて、医療現場ではきょうも命を救う戦いが続いています。       

斉藤医師:「この1年は脳卒中がすこし少ないデータ。コロナが再拡大すれば、一般的には血栓症の患者が増えると言われていますので、引き続き油断しないで毎日診療にあたりたいと思います」