「走り以外」にも魅力の多いクルマ

 2020〜2021日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて、選考委員のメンバーとして「ランドローバー・ディフェンダー」に持ち点の最高点となる10点満点を配したのは既報のとおりだ。「災害時に命を守る行動を支える選択」として一昨年度のジープ・ラングラーと同様な配点理由で配点したのだ。そこで今回は、走破性や走行性以外のディフェンダーの魅力も紹介してみたい。

 まず外観デザイン(アドベンチャーパック装着車)。未来的でありアイコニックなフロントまわりのデザインは特徴的だ。なかでも目を引くのはボンネットフードに設置されている黒いプレートだ。遠目にはエンジンルームからの熱を排出するエアアウトレットのように見えるが、近くで見ると足踏み場のような滑り止め加工が施された1枚プレートであることがわかる。もともとは軍用車両としてスタートしたディフェンダー。旧来からボンネットに乗ってルーフの荷物を固定したり、遠方を視認するなどさまざまな用途に適応してきた。そんな時代の逞しさを象徴するような加飾プレートのようだが、実際に大人が乗って立ち上がっても大丈夫だという。ボンネットフードを開けて裏側を確認すると、フードの剛性を高める構造以外にプレート用の特別な補強が施されているようには見えないが、おそらく樹脂製と思われるが厚みのあるプレートがはめ込まれているのがわかる。

 両サイドのフロントフェンダー後部にはエアダクトが設けられている。この左側はエアインレットとしてエンジンへの吸気エア取り込み口としての機能を持たせられているが、「エクスプローラーパック」を装着すると、ここにシュノーケルが装着され、吸気口をルーフ近くにまで延長することができる仕組みだ。ノーマルでも最深渡河性能90センチを誇り、このシュノーケルが装着されれば、さらに深い水深へと踏み入れることが可能になる。

 車体サイドを見ると、太いCピラーが個性的だ。大きなルーフを支える無骨なイメージが悪路での安心感も高めてくれる。さらに、この部分にはバイクのパニアケースのような専用キャリアを装着でき、多用途性を高めてもいる。Cピラーの上部には旧ディフェンダーにもあったような小窓が設けられていて、明かり取りとデザインのアイデンティティを主張している。

 リヤ部を見ると20インチの大型スペアタイヤが横開きのバックドア中央に設置されている。ドアハンドルを開けるとこの20kg以上もあるスペアタイヤの荷重がドアヒンジにかかるが、作動はスムース。扉を開くと大きな荷室が現れる。荷室フロアは地面から約70センチの高さにあり、重い荷物を持ち上げるのは大変だ。そんな場合に備え、荷室左側にエアサスペンションの電動車高調整スイッチが組み込まれている。リヤサスペンションの車高だけを約14センチも上下にアジャストすることができ、もっとも低くすると地面から650mmの高さまで数秒で下げられる。逆に状況に応じてリヤだけを持ち上げることも可能で、最大790mmの高さになる。斜面での荷物積載時など役立つ場面は多そうだ。

高級車としての機能も揃っている

 クルマに乗り込むときは、最低地上高218mmにより乗り込むのが大変だが、エアサスペンションにより車高は約40mm下げられ、すると乗り込みも容易になる。実際悪路を走破する場合には291ミリまで最低地上高を高めることができるので、人が歩行困難なほどの岩場でも走れるのだ。こうした動作が数秒で実行させられるので、実用的といえるだろう。

 ディフェンダーのパワートレインは2リッター。直噴直4のガソリンターボエンジンだ。これに8速のATを組み合わせ、AWDの4輪駆動システムを取り入れている。

 2.1トンある車両重量に対して2リッターターボで力不足を感じないか不安に思うかもしれないが、このエンジンは魔法でもかけられたように低速トルクが豊かで、山岳路でも十分なパワーを引き出せる。時速100kmでの高速巡航時には8速で1750rpmという低い回転数で走れ、高速燃費はカタログ値通りの8.3km/Lを容易に引き出せるのだ。

 AWDシステムも素晴らしい機能を持たされている。センターデフとリヤデフに電子制御のロッキングシステム(作動差制限)を採用しているが、その作動が極めて自然でリーズナブル。モニターで作動状況がリアルタイムで確認できるが、乾燥舗装路の直進状態でも燃費や安定性を考慮してロックしたり、旋回中にはフリー〜中間拘束〜ロックをきめ細かく制御し使い分けている。その作動をドライバーが感じることはなく、モニターを確認しなければ作動状況を知ることはできないだろう。

 またドライブモードとして「ECO(エコ)」「コンフォート」「草地・砂利・雪」「泥・わだち」「砂」「岩場」など6モードを備えていて、ヒルディセント機能なども組み合わせると悪路走破能力は相当高いことがわかる。走行機能に優れるだけでなく、高級車としての機能も十分揃っていて、前席電動アジャストのパワーシートはもちろんだが、後席も含め前席シートヒーターを備える。USBの電源ポートも前後席全てに備わり、デジタルインナーミラー、ドライブアシストもフル装備している。

 全幅2m弱の巨体は上級カテゴリーのレンジローバーを上まわるサイズで、それでいて価格設定は国産車レベルでコストパフォーマンスも高い。本格的な電動化時代を迎える直前の現代において、必要なほぼすべての性能が集約されていると言っても過言ではないだろう。