「おちょやん」脚本を手掛ける八津弘幸
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 連続テレビ小説「おちょやん」(月〜土、NHK総合・午前8時〜ほか)で脚本を手掛ける八津弘幸。本作の重要な要素となっている喜劇を描く意義など、作品に込めたメッセージについて語った。

 杉咲花がヒロインを演じる「おちょやん」は、大阪の南河内の貧しい家に生まれた竹井千代が女優の道を駆け上がっていく姿を追う物語。上方女優の代名詞的存在である浪花千栄子をモデルに、ドラマ「半沢直樹」「陸王」などの人気作品でも知られる八津が脚本を担当している。

 作品を手掛ける上で、浪花の自叙伝を読んだという八津は「半年という長いスパンを使って、浪花さんをモデルにした竹井千代という女性のキャラクターをしっかり描くことが、大前提だと思っています。ただ、浪花さんの人生をベースに考えたとき、僕はつい、一人の少女が日本一の女優を目指してスターへの階段を駆け上がっていくような作品を書きがちなんですが、今回はそれとは少し違います」と思いを明かす。

 「彼女がスターになることがこの物語の中心ではありません。というのも、千代が芝居をしたいと思う理由は、ただただまわりの人々を喜ばせたい、元気にしたいからです。そしてそれは、彼女が家族に恵まれない日々を送ってきたという、それまでの生い立ちに絡んで生まれてきた願いだと考えているからです。だから、芝居や演劇の周辺でも、いつもさまざまなことが起きていて、千代は芝居を続けていく中で、芝居以外の問題も乗り越えて成長していく。そんな物語になっています」

 では、千代のキャラクターはどのように作られていったのか? 「浪花さんが書かれた自叙伝以外、資料は思ったより少なかったので、想像を膨らませながら竹井千代を描いています」という八津。「浪花さんの人生は、喜劇女優にたどり着くまでに、いろいろな人に裏切られたり、孤独な部分もあったため、最初、心の中にそういうものを抱えている女性として千代を描いていました。でも、暗い部分を描き出そうとすると、かえって嘘くさくなるというか、わざとらしくなる気がしたんです。そう感じてからは、どんな困難にぶち当たっても前を向いて生きていく、とにかく明るい千代を描くようにしています。たとえば、どうしようもない親父のテルヲは、何度も千代のことを裏切ります。千代はそのたびにどこかで父親が今度こそちゃんとしてくれるんじゃないかと期待してしまう。そんな彼女の葛藤をきちんと踏まえた上で、前を向いて生きていく千代の姿を、嘘のないように描いていきたいですね」

 その千代を演じる杉咲については「お芝居がめちゃくちゃうまいのは、改めて言うまでもないでしょう。でも、今まで彼女が演じてきた役は、ちょっと陰のある、何かを背負っている役が意外と多かった気がします。杉咲さんはお芝居がうまいので、作り手はつい、そうした深いところまで演じてほしくなってしまうのだと思います。それはそれで確かに彼女の魅力なのですが、今回は、根っから明るい杉咲さんをできるだけ見せてもらえたらと僕は思っています。もちろん泣いたり苦しんだりするシーンはたくさんありますが、それをはねのけていく、杉咲さんの明るい魅力を出してもらえることを、大いに期待しています」と述べる。

 そんな八津にとって「おちょやん」には喜劇の要素が外せないそう。喜劇とは「人間のダメさ加減、滑稽さを描き、最後はほろっと泣けて、優しい気持ちになれる」ものだと語る八津。「だからこそ千代も、自分が喜劇をやることでお芝居を見た人が元気になってくれたらと思っているわけです。ですから、この作品でも、喜劇のそういうところが観ている方に伝わるといいなと思っています」

 さらに「最近、世の中はSNSでもすぐに批判が起きたりして、とげとげしい時代になっていますよね。それが僕はすごく嫌なんです。人間はそんな完璧な人ばかりではないですし、ダメな人もいる、それでもみんな頑張って生きている。そういう人に対して許してあげられる優しさみたいなものを、みんなで持てたらいいなと思っているんです。この作品に出てくる役者たちはみんな本当にダメダメなキャラクターばっかりです(笑)。役者だけでなく、千代の家族も、千代が道頓堀で出会う人々も、みんなちょっとひと癖あるキャラクターばかり。でもどのキャラクターも、みんなどこかに必ずいい部分も持っている。そんな登場人物たちを見て、皆さん、笑ったり泣いたりしながら、ちょっとでも優しい気持ちになってもらえたらいいなと思っています」と作品に込めたメッセージを明かしている。(編集部・大内啓輔)