眼光鋭い私服警官が街を警ら中、怪しい人間に声をかけると、じつは凶悪犯だった――。ドラマや小説ではお馴染みのシーンだが、11月下旬、福井県内で取材中の本誌記者(30代)が、福井県警の警察官による誤認逮捕寸前の職務質問に遭遇した。

「駅から離れた場所で取材を終えたところでした。あたりを見回してもタクシーが通る気配がなく、仕方なく6kmほどの道のりを駅まで歩いて戻ることにしたんです。

 3.5kmほど歩いた地点で、疲れからか方向感覚をなくして不安になり、たまたま近くにいたハンチング帽の男性に声をかけました。福井駅がある方角を尋ねると、やさしい雰囲気で『距離はあるけれど、この道をずっと歩いていけば着くよ』と教えてくださったんです」

“袖すり合う” 他人の親切に気を持ち直した記者は、教わったとおりに歩を進めていった。だが、ほどなく福井駅に到着して近辺を散策していると、事態は急展開したのだ。

「突然、男性の声で『ちょっと待て!』と呼び止められたんです。声の主は、私服姿の男性3人組でした。うち2人が即座に私の進路をふさぎ、もう1人は背後に回りました。

 わけがわからず驚いていた私は、前に立ちはだかった男性を見て仰天させられました。なんと、先ほど道を教えてくれた親切なハンチング帽の人だったんです」

“ハンチング男” は、警察手帳を取り出し、記者に迫ってきた。

「先ほどとは真逆の嫌な感じで、『警察だけどさ、君、こんな格好で何してるの? 周りを見ても、こんな格好の人いないよね?』と迫られました。『こんな格好』というのは、私が着ていたダウンジャケットのことです。

 その日は、たしかに比較的暖かい日でしたが、東京に比べれば福井は寒い。くわえて、あちこち取材に回っていましたので、手に持っていると邪魔だからと着たままだったんです。

 ハンチング帽の私服警官は、そんな私の説明を聞こうともせず、『かばんの中も見せなさい』『何してるの?』『どこから?』『君、かなりの距離を歩いてきたよね、なんで?』『身分証、出して』と、矢継ぎ早に “尋問” を仕掛けてきました。

 ほかの2人も含め、とても警察官とは思えないほど粗暴な言葉遣いで、態度も横柄でした。こちらの話を聞く姿勢は一切なく、私を何かの事件の犯人と決めつけ、逮捕するような対応でした」

 当然、やましいことは何もない。ようやく見つけた “尋問” の切れ目に、東京から取材で訪れた『FLASH』の記者だと名乗った。すると――。

「あの週刊誌の? 記者さん? なんだね……』と、私の名刺を見たところから、態度が一変しました。『え? 何の仕事なんですか?』と急に貼りついたような笑顔を見せ、取材内容を説明すると、『ああ、そうなんだ……』と。

 私が『どうぞ、かばんの中も見てください』と言うと、『いや、もう大丈夫だよ……』と言って、そそくさと退散していきました」

 あまりに粗暴な態度を不審に思った記者が追いかけて名刺を求めると、「福井県警察本部機動捜査隊」所属だとわかったが、ホテルに戻っても疑念は晴れず、名刺の電話番号に “在籍確認” で電話をかけた。

「隊長という方が出られて、『特殊詐欺の捜査をおこなっており、あなたと “受け子”(被害者から金を受け取って運ぶ係)の服装や行動パターンがうり二つだったようです。申し訳ありませんでした』という説明をされました。

 でも、私はダウンを着て歩いていただけです。言い分を聞こうともしませんでしたし、私服警官3人は横暴ともいえる “尋問” をしかけてきたうえ、退散する際に説明もありませんでした。それで、県警本部の “お問い合わせフォーム” から意見を送りました」

 一部始終を書き連ね、「とても許しがたい態度でした」と添えると、翌日、「機動捜査隊」名義で「今後は指導、教養を徹底してまいります」という、「教育」と「教養」を打ち間違えた “誤字メール” が届いた。

 警察官の乱暴な職務質問には、年々批判が高まっている。2004年には、警察庁を所管する国家公安委員長を務めた白川勝彦・元自治相が、東京・渋谷の路上で不当な職務質問に遭遇し、新聞でも取り上げられて大きな話題を呼んだ。

 警察内部で職務質問は「バンかけ」と呼ばれるが、自転車盗の検挙などでノルマを課される警察官たちは、点数の確保に苦しむと、手当たり次第に今回のような「バンかけ」に励むことになる。

 これでは、警察に協力しようという市民を、みすみす敵に回すようなものなのだが――。