夫のEDに悩む妻、事情を知らない義母は「孫ができないのは嫁のせい」と暴言
「あたしたち夫婦には、子どもがいません。理由は、夫のEDです」。夫と結婚3年目になるという女性から、弁護士ドットコムに相談が寄せられました。
相談者は結婚前から夫のEDのことを知っていました。問題は、孫を強く望んでいる義母の存在です。
「義母は主人の病気の事を知らず、あたしたち夫婦に子どもができないのは、あたしのせいと信じ込んでいます。そもそも、主人が性交渉をもてない身体なのだから、子どもなど出来るはずもないのですが」。
不満をもった義母から、嫌がらせをされることも。「あたしの作った食事を『何よ、こんなもの、食べられないわ』と言って、ゴミ箱に捨ててしまったりします」。そんな暮らしが続いたため、女性は精神的に限界を感じるようになりました。
そこで、義母との関係悪化を理由に離婚を考え始めているようです。このような理由でも離婚は認められるのでしょうか。岡村茂樹弁護士の解説をお届けします。
●離婚が認められることは難しいーー義母との関係悪化を理由に離婚することはできるのでしょうか。
離婚訴訟になった場合には、離婚請求は認められないケースだと思います。民法770条1項に定められた5つの「離婚原因」(浮気など)は存在しないと考えられるからです。
EDは、性交渉をするための十分な勃起が得られない場合や、勃起を維持できないために性交ができない状態ですが、これは本人の責任ではありません。そのため、このこと自体では、慰謝料発生の原因事実にはなりません。
さらに言えば、結婚する時点で相談者はEDであることを知っており、それを受け入れて結婚生活を始めているわけですから、なんら損害は発生していません。
離婚が認められるか否かは、あくまでも「夫婦関係」が破綻しているか否か、です。義母との関係が悪化しているにせよ、夫婦間の問題ではありませんから、離婚が認められることは難しいでしょう。
●慰謝料請求も難しい?まずは話し合いをーー相談者は、義母に慰謝料を請求したいとも考えています。慰謝料請求が認められる可能性はあるのでしょうか。
自分ではどうにもできない不妊について責め続けられた場合の相談者の心痛は、理解できます。しかし、孫の誕生を望む義母の心情は、親としての自然の情愛に根差しており、責められないものです。
息子のEDを知らない義母が、孫ができないことは息子の妻である相談者のせいだとして相談者を責めているのは、決して褒められたことではありません。とはいえ、法律上の「不法行為」にあたるとまではいえないでしょう。
ーー相談者は今後、どのような対応をとることが望ましいでしょうか。
今回の問題は、義母が真実つまり自分の息子のEDを把握していないことに端を発していいます。この点を家族で十分に話し合ってお互いの理解を深めることです。
そこで、夫に義母の言動を正確に伝えて、夫とともに善後策を講じたらどうでしょうか。最良の方法は、夫が自分のEDを義母に正直に伝え、孫が出来ないことを告白することです。
その上で、自分たちも、子どもは出来ないが、夫婦として今後も協力して家庭生活の継続を望んでいること、義母とも一緒に家族としてやっていきたいことを丁寧に話すのです。
相談者の心痛は理解できるものですが、これは法的なもめ事ではないですし、離婚や慰謝料を請求する事柄ではないと思います。
(弁護士ドットコムライフ)
【取材協力弁護士】
岡村 茂樹(おかむら・しげき)弁護士
埼玉県さいたま市生まれであり、1982年の弁護士登録後33年間、地元近郊に密着する市井の弁護士として、市民の方々に寄り添いながら相談、依頼を受けています。
事務所名:岡村茂樹法律事務所
事務所URL:https://okamura-law.com/