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 今季のプロ野球はコロナショックで開幕が3カ月遅れた影響か、クローザーの「受難」が目立っている。とくにセ・リーグは、開幕から抑えを固定できているのはヤクルトのみだ。いったい、何が起こっているのか。現役時代、史上最多の1002試合に登板し、歴代最多の407セーブを記録した岩瀬仁紀氏に聞いた。


クローザーからセットアッパーへ配置転換となったDeNA山粼康晃

── 今季のセ・リーグではクローザーの不振が目立ちます。開幕が3カ月遅れた影響はあるのでしょうか。

「少なからずあると思います。ただし条件はみんな一緒なので、言い訳にはできないですね。普段のシーズンより難しいとは思いますけど、パ・リーグではみんなしっかりやっていますからね」

── 3カ月試合がないと、投手にとってどういう影響がありますか。

「普段のシーズンなら、キャンプ、オープン戦を経て、公式戦に入ります。今年みたいに開幕まで3カ月も空いてしまうと、キャンプでやったことがほとんど意味がなくなってしまいます。3カ月空いた期間で、どれだけ自分を追い込むことができたか。

 どのクローザーも経験のある選手たちなので、その点は若手とは違います。結局、自分にとって一番いい感覚のボールに仕上がっていないところが、現在のような結果になったと思います」

── 阪神の藤川球児投手は右肩のコンディション不良などで防御率7.88(8月4日時点、以下同)と思うような結果を出せず、7月12日に登録抹消されました。23日に再登録されましたが、今季の状態をどう見ていますか。

「シーズン序盤に出鼻を挫かれましたが、投げているボール自体はそこまで悪いとは思いません。すぐに一軍に戻ってきて、中継ぎで頑張っています。ベテランになればなるほど、3カ月という期間は逆に影響が出やすいですよね」

── どういう影響があるのですか。

「体のつくり方が難しいと思います。若い頃は馬力があるのでカバーできるんですよ。昔は馬力でカバーできたことを、ベテランになってくると技術でカバーしないといけない。球児は真っすぐで押すタイプなので、とくに力がないといけない。そういった部分が戻らないまま開幕してしまいました。でも試合を重ねていけば、だんだん調子を上げてくると思います」

── 藤川投手が「出鼻を挫かれた」という話がありましたが、シーズン序盤に波に乗れないと、その後の投球にも影響しますか。

「僕も毎年そうだったんですけど、去年残した成績が、シーズン開幕とともにゼロから始まるのはやっぱり難しいものです。シーズンの最初に打たれると、(登板イニングの少ない)リリーフ投手はどうしても防御率の数字が跳ね上がっちゃうじゃないですか。

 シーズンがしばらく経ってから打たれるのと、開幕してすぐに打たれるのでは、心理状態が全然違います。やっぱり、(防御率の)数字を見て落ち着くところがあるので......。それがシーズン序盤で打たれると、いきなり跳ね上がってしまうので、慌てた部分もあるでしょうね」

── DeNAの山粼康晃投手も防御率7点台と苦しんでいます。投げている球は去年と比べてどうですか。

「ボールの質が違うように感じます。ツーシームが落ちなかったり、ボールが高かったり......。でも、そこは本人も原因はわかっていると思います。それよりも大きいのがメンタルの部分だと思います。結局、いかに自信を持って投げられるかですから。そこの部分でまだ自分のボールに信用できていないのかもしれないですね」

── 7月19日の巨人戦で1点リードの9回に登板し、同点にされるとイニングの途中で国吉佑樹投手に交代。次戦からクローザーを外れ、中継ぎで起用されています。山粼投手が本調子を取り戻すためには、どういう起用法が望ましいですか。

「一番の理想は、ずっと9回のポジションで投げながら状態を戻すことです。ただし監督からすれば、クローザーを投入してゲームを落とすのは厳しい。監督は勝つことが仕事ですからね。いくら今まで投げて信頼を重ねてきたと言っても、簡単に崩れてしまうポジションでもある。だから、信頼というのは難しいんですよ。

 本人としても、去年までいくらいいピッチングをしてきても、今年連続してやられてしまうと、今までやってきたものが消されてしまうような感じになる。ゼロを下回って、マイナスにも感じているかもしれません。あらためてクローザーの仕事の難しさを感じていると思います」

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── クローザーとしては1点差を同点にされてイニング途中で代えられると、「信頼」という意味では監督に対して疑心暗鬼になりますか。

「なりかねますよね。いくらコメントで『信頼しているから』と言われても、ああやって代えられると、どうしてもそう思ってしまうところがあります。でも、監督の考え方もわかります。抑えとしてのプライドが崩されますけど、自分が打たれたから信頼を失っていることは本人がわかっています。今度は、どうやって信頼を取り返すか。ピッチャーは、監督から言われたところで投げるしかできません。7月30日の巨人戦では7回を投げましたけど、そういうなかで信頼を取り戻すしかありません。

 たとえば『ファームに落とせ』とか、いろんな意見がありますよね。でも、いくらファームで結果を出しても、一軍はまったく別の場所です。ファームで抑えたから自信になるかと言えば、そういうレベルの選手ではない。結局、一軍にいながら自分の状態を取り戻していくしかありません」

── 7、8回を投げることと、9回を投げることに、プレッシャーの違いはありますか。

「ありますよ。やっぱり7、8回はまだ残りのイニングがあるので、そこで試合の勝敗が決まるわけではありません。『何とか後ろにいい形でつなぎたい』とか、『何とかゼロで抑えて後ろに回す』という気持ちで僕はやっていました。9回は簡潔に勝ち負けに関わるところです。抑えれば勝つし、打たれれば負けるという単純なところなので......。でも、その単純さが一番難しいんですけどね」

── クローザーは勝敗を含め、チームの全部を背負わないといけない?

「はい。先発が投げて、中継ぎのピッチャーを何人もつないで自分のところにバトンが渡ってきたときに、全員のいいものを背負って投げています。それを生かすも殺すも自分次第。その難しさはありますね。7、8回というのは、まだゲームが動いているなかでの結果です。そういった部分では、9回を投げる意味合いはちょっと違いますよね」

── 巨人の中川皓太投手はデラロサ投手の戦線離脱を受け、セットアッパーからクローザーに配置転換されました。シーズン途中から抑えに回った投手が気をつけるべきことはありますか。

「同じでいいんです。セットアッパーから抑えになっても、気持ちは変わりません。逆に変えたら、ピッチングが変わってしまうかもしれない。とにかく、最初は経験値がないだけに、ガムシャラにいかないといけないでしょうね」

── ポイントになるのは、セーブシチュエーションで失敗したときにどう切り替えられるかですか。

「失敗した次の登板が一番大事です。たとえば2試合続けてやられてしまうと、今まで積み重ねてきたものが自分のなかで一気に砕けるというか。『今まではいったい何だったんだろう?』という感覚になってしまうので、打たれた次の試合は一番意識してやってきました」

── とくにどんな点を意識していましたか。

「最終的にはメンタルです。それまでは不安の気持ちなくマウンドに上がれていたのが、前の試合に打たれた記憶とか、いろんなことが出てきやすいので。いかに不安な気持ちを払拭して投げられるか、ですね」

── どのようにして不安な自分と向き合っていましたか。

「ピッチャーはよく、『マウンドにいったら、自分に勝つことだ』と言われます。まさにそんな感じですよね。不安な自分がいるところから、どうやったら自信を持ってマウンドに上がれるか。まずは自分が自分を信頼できないと、それはできないですよね」

── 深い言葉ですね。クローザーの大変さがよく伝わってきました。

「今はクローザーを固定できていないチームが多く、どこも苦しいところだと思います。どこも決め手がないですよね。でも逆に言えば、リリーフ陣を整備したチームが(上位に)上がっていくのではと感じています」