子供の教育費は「親の老後」にも影響する。もしお金が足りないようなら「前向きな3つのこと」を実行したい(写真:zak/PIXTA)

JKで高2女子の大里花実は、新型コロナをきっかけに、人生についていろいろ考え始めた。すると、自分がいかに世間知らずでお金のことも知らなさすぎることに気づいた。第4回は「お金の計画の立て直し方」について。子供の教育費などでお金が足りなくなりそうな場合、どうすればいいかを家族で考える。

第1回 JKだって超知りたい「大学はいくらかかるのか」

第2回 「大学費用1000万、20年返済」なら毎月いくらか

第3回 親は「子供の大学費用」をどれくらい出すべきか

まずは前回までのあらすじから。高2女子の花実は、所属する「生活科学クラブ」の顧問・エマ先生から「キャッシュフロー表」をもらった。これは大学入学、就職、結婚などといったライフイベントに沿って、毎年の支出、収入、貯蓄などの推移を表した「お金の予定表」。このクラブは家庭生活を科学的に研究するという部活で、花実が自らつくったものだ。

「withコロナ時代」、家計はどう変えるべき?

このキャッシュフロー表で計算したところ、共働きの両親と大学生3年生の姉に加えた大里家4人の家計の貯蓄は、姉の大学卒業時約500万円まで減ることが判明。ここからもし花実が希望の大学の薬学部に入れば初年度約250万円、6年でかかるお金は計約1300万円にもなる。そこで、大里家は「お金の計画」を立て直すことになったというわけだ。

どうやら、家計改善のポイントは「いかに貯められる家計にするか」のようだ。でもこれって、顧問のエマ先生に言わせると、これまでも、これからも変わらずの「家計の鉄則」だそうだ。じゃあ今、違うこと……それは「withコロナの時代だ」ということかもしれない。

花実は、昨日4人で開いた家族会議での両親の言葉が頭から離れない。

「もしかしたら、前のようには戻れないって考えるべきなのかな。あるいは、新しい時代がくるということかもしれない」「私たちは、新しい時代の家計のあり方を考えなくてはいけないのかもね」

「コロナの時代」の「新しい家計のあり方」ってなんだろう。実際48歳のパパの収入は、勤務先が新型コロナの影響による業績悪化でダウンしている。

だが父は、「確かに収入はすぐに回復しないかもしれない。だけど、厳しい経済の中で、工夫してやっていこうよ」と明るい。

「そだね」、と花実は思う。できることから始めよう。まずは、その分を少しでもカバーしていくために、大里家は3つの対策を考えた。題して「The three missions of the Osato」。つまり家計としてやるべき「3つのミッション」だ。

節約よりも「収入増」を前向きに考える

まず「ミッション1」は、収入を増やすことだ。

もちろんすぐには難しい。そこで、派遣会社の社員として働いている母からの提案があった。派遣先での正社員登用試験を受けることにしたという。

今回のコロナ騒動で、派遣切りにあった人も多いという。3年の有期雇用契約中のママは、これからのことを考えて一念発起、正社員にチャレンジするのだという。正社員になれれば、収入が増える分、少しは多めに貯蓄できるし、老後にもらう年金の額だって増える。

「45歳という年齢を考えると、この先こんなチャンスも多くはないと思うから『ダメ元』で頑張る! それから、簿記1級を目指して勉強も始めるわ」と、ママ。「人生100年時代」を考えれば、この先70歳くらいまで、あと25年くらい働くことになるかもしれない。なるべく長く働くためにスキルアップをしていくことを決めたのだ。

「スキルを磨いたり、経験を積んだりすることで、少しずつでもキャリアアップはできると思うの。スモールステップでいい。続けることが大事よね」

そうか。ママの言葉は花実に響く。花実には、もっともっと長い未来が続く。自粛ムードの中でなんとなく悲観的になっていたけど、今の花実には、何かマイナスの話があったわけじゃない。どんどん進んでいくのみ。

一方、父にも変化が生まれた。食事の後片付けは進んでやるようになったし、買い物にも率先して行く。お風呂掃除は今やパパの担当だ。おまけに、飲み会がなくなって空いた時間でランニングまで始めた。ママからは「健康的で協力的な夫に変身した!」と高評価だ。

「まぁ、これまでだってしんどいことは多々あった。そううまくはいかないさ。でも、やっていれば、時々大当たりしたりするからね、ワハハ」と父も笑う。

次にミッション2は、家計の「合理化」「見える化」をすることだ。大里家は、懐事情を家族みんなで共有することにした。「チーム大里」として家計をマネジメントしていく……というところまで決めたのはいいが、みんなが「納得づく」でできるかどうかは難しそうで、なかなか大変そうだ。そこで「ルール作り」などを、花実のクラブの顧問であるFPのエマ先生に助けてもらうことにした。

そしてミッション3。地味な話だが、社会保障制度を正しく知ることなども含め「マネーリテラシー」(お金まわりの話について理解し、活用する能力)を身に付けながら資産形成をしていくことだ。

実は、これも花実へのエマ先生の「入れ知恵」だ。社会保障制度のおかげで、たとえ100歳まで生きようとも、収入がゼロになることはない。だが社会保障だけを頼りに生きていけるわけでもない。そこで、合理的な自助努力が必要になるということだ。

以上、これから大里家は3つのミッションを達成していくために頑張ることにした。

20歳の姉の「不満」は正しいのか?

「3つのミッション」が決まって数日がたったある日。「ただいま」。夕方、花実が帰宅すると、家の中がなんだか騒々しい。大学3年生で今年20歳になったお姉ちゃんが帰ってきているようだ。

「どうしたの?」

「お姉ちゃんがね、バイト代から国民年金の保険料を払うのが嫌だって駄々こねてるのよ」

「だって1万6540円よ! 年金って、おばあちゃんとおじいちゃんがもらっているやつだよね。なんで、20歳になったばかりの私が払わなくちゃいけないの? 年金もらうのなんて、何十年も先だしさ。それに、私たちは老後に年金もらえないかもしれないって、ネットでみんな言ってるよ。私たちの世代は絶対払い損だよねえーって。花実だってそう思うでしょう?」

「花実は思わない」

「えぇぇぇー?!」

花実は、姉の前に座って姿勢を正す。

「お姉ちゃん。国民年金の保険料を20歳から払うのは義務だって、学校で習わなかった?」

「……。そう言われれば習ったような気もする……」

花実はニヤリとした。これは、早速「ミッション3」=「マネーリテラシーを身に付けながら資産形成をしていく」を実行するに当たってのスタートではないか。ここは、自称「ねんきんJK」花実の出番だ。花実は、生活科学クラブで、社会保障制度について研究中なのだ。花実は嬉々としてレクチャーを始めた。

年金制度は「保険制度」と考えるべき

「歳を取ってからもらう老齢年金には興味のない人がたくさんいる。でもそういう人だって、『もしも自分がケガや病気で障害状態になったらどうしよう』って考えることはあると思う。

公的年金制度って、いつまで長生きするかわからないっていう『老齢のリスク』だけではなく、障害を負ったり、未成年のうちに親を失ったり、配偶者を失ったりして遺族になったりするリスクにも対応しているんだよ。だから、そうした万が一のときは『障害年金』や『遺族年金』がもらえる。私たち若い世代だって、『万が一』はありうるでしょう?

お姉ちゃんは、払い損だって言っているけど、そもそもの考え方が間違っているのよ。年金制度は『損得』じゃないの! 年金制度は『保険制度』。社会全体の支え合いの仕組みだよ。ここ、とっても大事」

花実はまだまだお姉ちゃんに伝えたいことがたくさんあるようだ。

「自分だけズルしようってったってそうはいかない。それに、保険料を支払っていない期間(未納期間)が長くなってしまうと、もしも障害を負ったときに保障を受けられなくなるんだよ。でもね、救済措置もあるわけ。20歳になっても、学生で、保険料を支払うのが大変っていうときは、『学生納付特例制度』を利用すればいい。ちゃんと手続きをとっておけば、未納期間にはならないから。

あれ? お姉ちゃん、花実のこと尊敬の眼差しで見てる? えへん。じゃあさぁ、お姉ちゃん。怖い話してあげよっか」

「してして! ちょっと飽きてきたから」

「えーー! もう。もしも、パパとママが80歳くらいになって、年金もらえなくて、パパとママの2人の貯金も全部使い果たしちゃったらどうする?」

「えっまさか。それはやばいでしょ。どうしよう」

「公的年金制度」を正しく知れば、老後も怖くない

「普通は、長女であるお姉ちゃんが中心になって面倒見るよね。お姉ちゃんは、パパとママの介護をしながら、朝から晩まで働いて生活費を稼がなくちゃならない。そのとき、お姉ちゃん、いくつだっけ? 52歳か。さらにパパとママが100歳くらいまで生きると、お姉ちゃんは72歳。うわぁ、超大変!」

「えーっ」

さすがに自分のことに関係してきて、姉は青ざめた。

「でも、公的年金制度があれば大丈夫」

花実はお姉ちゃんにしっかり以下のようなポイントを話した。公的年金制度は、国民の税金からもお金が支払われている。簡単に言えば、働けなくなったお年寄りや、障害を負ってしまった人、親をなくした子供たちなどを、国や今働ける人が協力して支え合う仕組みだ。もし、公的年金制度がなかったら、さっきの仮の話でいうと、お姉ちゃんの人生は「お先真っ暗」なはず。でも、公的年金制度のお陰で、親の老後の生活をあまり心配しないで、自由に生きられる。

「ね、お姉ちゃん、これでわかった? 公的年金制度って大事でしょ? ちゃんと保険料を払わなくちゃね。ということで『ミッション3』の知識を身に付けていくっていうのはとても大切だね。私、もっといろいろ勉強しようっと」

「黙って聞いてれば……こら! 花実!!」

「キャー!! ごめんなさい!!」

以下は、花実が所属する「生活科学クラブ」の顧問・エマ先生から花実へのアドバイスだ。

FPエマ先生からのアドバイス

やれやれ。ハナミったら。でもよくお姉さんに説明できたわね。確かに、大家族で暮らしていた昔と違って、今は公的年金保険制度があります。保険料を支払うことで、親の老後を以前よりも心配することなく、自分の生活を送ることができます。自分が歳を取ったときのことを考えてみても、子供に過度な負担をかけなくてすむので安心ですね。これを可能にしているのが、「世代間扶助」の仕組みです。現役世代の支払う保険料で、受給世代の年金給付を仕送りするイメージです。「賦課(ふか)方式」といいます。

そして、ハナミの言うとおり、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金は、給付の2分の1が国庫負担(主に消費税)で賄われています。これによって、保険料に国庫負担を加えた給付を受け取ることができます。つまり、保険料を支払わないということは、この国庫負担による給付も受け取ることができないということ。とっても損ですね。

公的年金の主な給付は次のようになっています。


(図表:各種資料から筆者作成)

なお、自営業者などは国民年金から支給され、会社員や公務員は厚生年金からも支給されます。受給には、それぞれの要件を満たす必要があります。 

どうしても保険料が支払えないときは、国民年金の保険料の納付が免除される制度があります。所得に応じて、全額免除、4分の1、2分の1、4分の3免除があります。免除が認められれば、老後は年金のうち税金分は受け取ることができます。

学生で本人の前年所得が一定額以下の場合、保険料の納付が猶予される学生納付特例制度は、免除とは異なり、後から保険料を納めること(追納)が前提になっていますので、追納しなければ老後の年金を受け取ることはできません。

次回は8月2日掲載の予定です。