コロナ自粛で人々の意識はこうも変わっていました(写真:Fast&Slow / PIXTA)

コロナは私たちの生活をどう変えたのか。先日、筆者が個人的な興味から始めたアンケート調査には、数日で150件もの回答が寄せられた。SNSではおおっぴらに言いがたい悲喜こもごも、さまざまな本音がアンケート結果からは見えてきた。

人間関係の変化に焦点をあてた前回記事に引き続き、後編の今回は回答者たちの仕事に関する意識や、ライフスタイルに起きた変化について見ていきたい。

前回記事:150人調査で見る「コロナ下の日本人」驚く変化

通勤や仕事自体の苦痛からの解放

まずは仕事や働き方において生じた意識の変化について。最も多く挙げられたのが、通勤の苦痛から解放された人たちの歓喜の声だった。

〇通勤の苦痛から解放された人たち

週休3日になって心にゆとりができました。満員電車から解消されて通勤時にあまりイライラしなくなりました。座れるのサイコー(関東在住、29歳、OL、金融系事務職)

在宅勤務となり、通勤する意味を見いだせなくなった。仕事中はスイッチが入っていてテンションが高めだったんだなという発見も。家だと、素の冷たい自分が出てしまい、オンラインmtgで素っ気なく応対してしまいます。黙々と家で作業だけしていたい、同僚などいらない(WEBメディア運営会社に勤務)

人生楽しくなった。 今まで仕事ジャンキーだったが暇になったから(転職したばかりのエンジニア)

在宅勤務になったので乗車率150%の異常な混雑の電車に乗らずに済み、その電車が危険なために1時間早い通勤をしていたため、睡眠は2時間増えました。快適になりました(女性)

以前から大きく問題視されていた首都圏の異様な通勤ラッシュ。東京都知事が満員電車ゼロを公約に掲げようとも、頑として変わることのなかった東京の悪しき日常が、コロナによって一瞬で様変わりした。

時間差通勤やリモートワークの推奨。これによって多くの人の働き方が変わり、必然的に生活の質も向上。わかっちゃいたが、実現しえなかった余裕のある暮らしを思いがけず手にした人たち。しかし世の中の状況を鑑みると、どうもこの喜びをおおっぴらには言い難い、という多くの人が、この匿名アンケートで本音を打ち明けてくれたように感じる。

また意外なことに、状況が好転したと感じているのは(安定した)職に就いている人ばかりでもない。

〇仕事はない(減った)が気が楽になった人たち

コロナのせいで仕事が激減しているが、正直なところ、これで会社が潰れそうでも私のせいではないと、ある意味今までより気が楽になった。実はそんなに必死で仕事をしたくなかったのかも。自分を働きアリだと思っていたのに、限りなくキリギリスだった(44歳女性、会社経営)

パワハラ→うつ→休職→退職となり、直後にコロナ。再就職がより困難になった。不安は確かに増したが、逆にむしろ引きこもりを求められる世の中になっていることに、なぜか救われた気持ちになっている(54歳男性、退職直後)

無職であることの焦りがなくなった。就労意欲がなくなった (30代女性、独身、無職)

リハビリをしつつも復職時期を悩み、自分の立場を考えるほど不安になる日々がありましたが、外出自粛が望ましいとされてからは、むしろ気が楽になりました。「自宅にいる」という、いますべきことが明確に提示されて、それをきちんと実行しているので、いまの自分をより肯定的に捉えることができるようになりました(うつにより休職中)

5月12日の厚労省の発表によると、今年4月の自殺者数は前年度よりおよそ20%も少なくなったそうだ。当然のことながら私たちはロボットではないので、心身に不調をきたし、毎日同じように働けなくなる、通学できなくなるなどということは本来誰にだって起きることだ。

が、普段の社会では大人たるもの、いかなる状況にあろうと自力で対処するべき、という過剰な自己責任論がはびこっている。決して少なくない人が、コロナ禍ほどの事態が起きてようやく自分の不遇を環境のせいにでき、肩の荷を下ろせるというこの現実を、私たちはどう受け止めるべきだろう。

業種、職種ごとに見えてくる意外な変化

アンケートからは、専門職として働く人たちからの声も寄せられた。

〇専門職として働く人たち

普段は多くの方がいらっしゃるお宮も参拝者が激減し、多くの御結婚式がキャンセルになりました。大きなお宮は今までの参拝者からの奉納金等で生活費は凌げるでしょうが、地方のお宮は他の業界の方々と同じように存続の危機に立たされていると思われます(巫女)

ドラッグストア勤務です。他店ではマスクが無いことでお客様に怒鳴られたり什器を蹴られたりしているようですが、私は幸いまだそこまで怖い目には遭っていません。たぶん私が見た目も中身もおばさんだからかな? お客様対応で怖い思いをしているのは若いアルバイトが多いようですね。自分より年下になら何を言っても雑な態度を取ってもいいっていう考えの人がこんなに居るとは、嘆かわしいです(アラフィフ独身子無し女性、調剤のできない薬剤師)

本業はジムでパーソナルトレーナーとして勤務してました。大体月収手取りで40〜50万円程。 コロナの影響で仕事が1〜2割しかなくなりこのままだと生活がヤバそうと危機感を感じてアダルトチャットの副業を自宅でスタート。 タイミングが良かったのかなんとチャットでの給料はトレーナーの時の3倍に……。 現在自粛中もチャットを自宅で続けてますがコロナの影響でむしろ収入増えてラッキーでした。 コロナが落ち着くまでは自宅でチャットをして生活防衛費を貯めつつ引きこもるつもりです(36歳、都内在住、独身)

もともとモデルの仕事をしていましたが、年齢的な事情もあり仕事が減っていました。そこで少し前から障害者の在宅介護の世界に入りました。週に2回介護、それ以外の日で撮影が入ればモデル。そんな生活が10カ月続いたところで今回のコロナです。撮影の件数はますます減り、反面介護の現場でほぼフルタイムと同じ時間働くことに。 月収は1年前と比べてかなり減りますが、モデルだけを続けていたら今頃収入ゼロになっていたところです。また「私でもモデル以外の仕事ができるんだ!」という自信にもなりました。もしかしたら、このコロナ騒動が私の人生の転機になるかもしれません。(51歳、夫と二人暮し、個人撮影モデル兼障害者介護)

思わぬ場所が窮地に陥っている一方で、窮地を思わぬ転機に変える人もいる。

アンケートを実施した4月半ばの時点ではまだ少数ではあったが、すでに厳しい現実に直面している人たちからの切実な声も寄せられた。

〇厳しい現実に直面している人たち

リモートワークの影響で、直属の上司とのやりとりがDM上になり、周りの目に触れない閉じられたコミュニケーションになったからか、私へのあたりがより雑にキツくなり、ストレスで休職しました……(デザイン関係、24歳、女性)

失業(会社員)

食欲減退 不眠 抑うつ(40代、看護師、コロナ対応中)

仕事は3月末から休業。6割支給ですがパートのため、給与換算すると5万くらいになりました。 妊娠前は15万、妊娠後は10万、現在4万です。(30代、千葉県在住、女、妊娠中)

事態が長期化するほどこういった人たちが増えていくのは自明であり、決して他人事ではないのだ。

健康になった人、意欲が減退する人…

続いて回答者たちの趣味や消費、ライフスタイルに生じた変化についてみていこう。

〇健康的になった人たち

Netflixが便利すぎて、自粛1週間でネトフリ廃人と化しました。毎日暇なので掃除と洗濯が捗り、部屋がきれいですし、ほぼ自炊してるので健康的。 個人的に皿洗いを溜める癖がなくなりました。夢を沢山見るし、好きなだけ眠れるので、心身は健康な気がします(30代女性、一人暮らし)

生命の危機を感じているからか、家でゴロゴロしているだけなのに、常に1時間くらいウォーキングした後みたいにお腹が減ってます。野菜スープを作って、空腹をごまかしていますが、正直自分の食欲が怖いです(37歳、女性、独身一人暮らし・フリーランス)

健康的な生活をするようになった。早寝早起きラジオ体操。1日3食自炊をしている。前はイタリアンとか洋食っぽいものを作っていたけど、最近はご飯がすすむおかずをよく作る。あと、今までは朝からシャワーを浴びていたけど、最近は絶対に夜のうちにお風呂に入る。ちゃんと湯船にお湯を張っている(20代女性、会社員、独身)

人と会わない程度の散歩やオンラインのヨガなどで、体がしっかりしてきた。 自分の食べ物の好みがハッキリしてきた。 夜更かししなくなった(30代女性、独身、無職)

生活を立て直し、健康的になったと感じている人が少なからずいることがわかった。食生活を正し、趣味を充足させ、運動を習慣づけている人がいる一方で、思わぬ意欲減退を実感している人たちも。

〇意欲減退・夢から醒めた人たち

追っかけしてたバンドに興味がなくなりました(20代女性、東京)

もともと服が好きなのですが、インスタなどで素敵な服を見ても買いたい気持ちがなくなってしまいました。その他にも、興味を持てる事柄がどんどん減っていってる感じがして寂しさがあります(37歳 女性 販売職)

彼氏のことがどうでもよくなった。テレビが嫌いになった。酒量が増えた (26歳女性、会社員、都内在住)

閉じこもりになったら推しコンテンツ(アプリゲーム)に対して積極的になるかと思っていたけれど、全体に意欲が削がれてグッズ購入が減ったり、ゲームイベント参加欲も落ちたりと淡白になっていて自分でも驚いています(40代、会社員、子持ち女性)

時間があったらいつもはソシャゲを回すのに、最近はソシャゲをやる気が起きない(Twitterに生息しながらスマホのソシャゲやったりしてるオタク)

自宅待機になったので、昼から酒が飲めると思ってワクワクしていたのだけれど、意外と飲まないでいられる。仕事があったときは朝からでも飲みたかったし、夜はほぼほぼ毎日飲んでいたのに……ストレス回避の飲酒だったことに気付いた(35歳女、会社員)

コロナによって、それまで夢中になっていたものに途端に興味を失った人が少なからずいるというのは不思議な現象だ。ソシャゲやアルコール、そして恋人など、依存性の高いものを必要としなくなったという人が複数いるのも興味深い。日常が急に様変わりしたことによって、現実からの逃避先を必要としなくなったということなのだろうか。

とはいえ現状が長引けばおのずとこれが新しい日常になっていくことが予想されるので、推しのグッズや恋人など、取り返しにくいものの断捨離はどうか慎重に行われることをお勧めしたい。

シェアする生活への意識の変化も

事実、これまでミニマリスト(最低限のものしか所有しない生活を実践する人たち)だったという人からはこんな投稿も寄せられている。

物を所有することに興味を持ち始めました。長いことシェアハウスに住み、シェアリングエコノミー信者のミニマリストだったのですが、まさかシェアすることがウイルス感染リスクになるとは考えもしていませんでした。

どんなに自粛しても家には他人がウロチョロしているし、安全に移動したくても車を持っていないしで、自分の所有物がないことにストレスを感じます。新型コロナウィルスが落ち着いた後も、生活スタイルを変えざるをえない気がしています。(20代後半、会社員)

最後は、意外にも多くの人から寄せられた睡眠に関する変化についてご紹介しよう。

〇睡眠に変化が表れた人たち

自分は外にほとんど出なくなって疲れる機会が無くなったのに、睡眠時間が長く不規則になりました。あと甘いものを体が欲するようになったと感じています(高校生男子)

ものすごく眠るようになりました。コロナ前5〜6時間、3月ごろから8〜11時間になりました。夜8時間寝てさらに昼寝に2〜3時間という感じです。自分がロングスリーパーだとは思ってなかったのでちょっとびっくりなのですが、幸い寝る時間はあるし、もしかしたら一種のストレス反応かもしれないなと思って無理に起きないようにしてます(30代女性、都内飲食勤務)

ショートスリーパーだと思っていた私。1日4時間以内の睡眠だったのを5時間以上寝るようにした。 仕事のパフォーマンスも上がり、夕方から眠たくなっていたのが、なくなる。 今まで睡眠不足だったと、知った。(46歳、美容家)

コロナ騒動の少し前は、夢を見ることなくぐっすり寝られてましたが、最近では毎日夢をみています。寝起きもあまりよくなく、正直うんざりしています。 夢の内容ははっきり覚えていないのですが、何かを探そう探そうとしているように思います。時短出勤や時差出勤、休業などのコロナ対策が会社からまったく出ていないのも不安のひとつかもしれません。毎日恐怖と戦いながら職場へ向かっています。(37歳、既婚、工場勤務)

睡眠という項目をアンケートに設けていたわけではないにもかかわらず、たくさん寝るようになった人、夢をよく見るようになった人など、複数の人が睡眠の変化を報告してくれた。

無意識のうちに変化と格闘する私たち

実はかく言う筆者も3月下旬以降、睡眠時にはほぼ毎晩、奇妙で鮮明な夢を見るようになった。外出してはいけない、人と会ってはいけない、他人に触れてはいけない。いまだどこか現実感の薄い現実を、それでもなんとか現実として受け止めようと、私たちの意識は見えないところで奮闘しているのかもしれない。

コロナという世界的な災禍の中で、一人ひとりのささやかな暮らしに生じる重大な変化は、家庭の内側に閉ざされ、外から簡単には見えにくくなっている。けれどもそうやって見落とされそうになるものの中に、人間の暮らしや生き方の本質に通じるものが少なからず潜んでいると筆者は考える。事態が続く限り、継続してこの調査を行っていきたい。