「エール」31話 「ご飯にする?」「お風呂にする?」窪田正孝と二階堂ふみが昭和の新婚コントを熱演

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第7週「夢の新婚生活」31回〈5月11日 (月) 放送 脚本・清水友佳子 演出・橋爪紳一朗〉



「今日も音さんは最高に素敵です」

おめでとう、裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)が東京で新婚生活をはじめた。
タイトルバックの名場面が集まった部分も成人した音と裕一のものに変わっている。
表札には「古山裕一 音」とある。

朝、裕一が目を覚まし、隣に手を伸ばすとすでに音の布団は片付いている。台所に行くと、かいがいしくお料理している音。トン……トン……トン……とやたら慎重な包丁使い。料理は母まかせだったのかなと思わせる。
八丁味噌を手渡しにそばに寄った裕一から目線の見上げる子犬的目線(グラビアの定番)でにっこり微笑む音。
「今日も音さんは最高に素敵です」とナレーション(津田健次郎)。


八丁味噌と納豆

新婚第一日目なのだろう。いろいろ確かめ合うふたりが初々しい。
味噌汁は八丁味噌。味噌の味を楽しむために具はなし。
「白味噌がよかった?」と音は聞くが、白味噌は京都をはじめとする一部の西の食文化。裕一の福島は赤味噌であろう。
音が東北の食文化に疎いことがこのセリフでわかる。

裕一は「ご飯と納豆があれば」と答えると、音は顔をこわばらせる。関西方面は納豆が苦手な人が多い。だが裕一は、以前も食事のシーンで大量に納豆をかき混ぜてもりもり食べていたことがあり、納豆が好きなことは見てとれた。
八丁味噌も納豆も大豆が原料なのだが、食の好みの違いとは不思議なものである。

新婚コント

新婚第一日目と思うのは、音が互いの名前をどう呼ぶか決めるから。
「音」「あなた」で「きゃーーー」と音は畳を転がる。
完全に新婚コントである。

その後も「ご飯にする?」「お風呂にする?」なんてやりとりもあった。
こういう場面のメインキャストが、志村けんだったら、もしくは内村光良だったら、はたまた古田新太だったら、この形骸化されたやりとりを演じることに矜持を見せるのだろうと想像する。彼らは「笑い」というものに含まれる「批評」という側面を使って演じるであろう。

だが、窪田正孝と二階堂ふみは俳優なので、台本と脚本どおりに、すばらしい表情とタイミングでじつに巧く昭和の新婚コントを演じてみせ、その真摯さは朝の清々しさに通じるものがある。とはいえ、このふたりにあえて、新婚の台所場面や「音」「あなた」というほのぼのとしたアホらしい行為を再現させるとは。

新型コロナウイルスによって新しい生活が提案され、俳優が顔を合わせてじっくりと芝居ができない状況になっているときに、ふたりの名優をこういうことに使ってしまったことがどれだけもったいない時間であったか、関係者一同リモートで反省会してほしいと切に願う。そう、余裕があると人は無駄なことをしてしまう。だがそんな時代はもう終わったのだ。

「エール」とは最後の余裕のあった時代のドラマとして歴史に残ることだろう。……とまじめに書いてしまったが、東京編がスタートしたばかり、最初はこれくらいのライトな感じがいいのかもしれない。ふたりがなんでもできるということだし、今後に期待する。



木枯君と裕一

いよいよ、コロンブスレコードで働き始めた裕一。同期は木枯正人という変わった名前の人(野田洋次郎)。
西洋音楽をやる青レーベルと、流行歌を扱う赤レーベルがあり、本来裕一は青のほうが向いていたんじゃないかと思うが、稼ぎ頭の赤レーベルの所属になった。さっそく作曲を頼まれるが、なかなかうまくできない。不採用続きで半年が経ってしまう。裕一は21曲、木枯は19曲。

年間契約でもらった契約金は印税の前借り。借りた分、仕事で返さないといけないという事実に困って膝を抱える裕一。
これは、裕一が廿日市(古田新太)と契約を結ぶ際にちゃんと説明されていた。一瞬、不安になった裕一に考える間を与えず契約させてしまったのは音である。吟も音も契約書を読むことには慣れているはずでわかったうえで裕一を就職させたのだ。なんとかなると思ったのだろう。まったくすごい妻である。

ちなみに、木枯君役は、ミュージシャンの野田洋次郎。「ちょいちょい愛してる♪」とギターでさらりと作っていた曲はさすが、聞き心地がよかった(でもドラマでは不採用だった)。

木枯が「君の名前は」と裕一に聞くセリフは、野田がつくった「前前前世」が主題歌になったアニメーション映画「君の名は。」を思わせた。ついでに言うと、古山裕一のモデルである古関裕而は昭和の大ヒットコンテンツ、小説、ラジオドラマ、映画、テレビドラマと何作も作られた「君の名は」の曲も作っている。平成の名作「君の名は。」木枯君と、昭和の名作「君の名は」古山君が並んでいるのである。

野田洋次郎は2015年に映画「トイレのピエタ」で俳優デビューもしている(このときの演技がすばらしい)が、このときの共演者は次回朝ドラ「おちょやん」のヒロインの杉咲花である。
木枯のモデルは人気作曲家・古賀政男。朝ドラ「いちばん星」(77年)のヒロイン・佐藤千夜子の歌った「影を慕いて」を作った人物で、「いちばん星」にも出てきた。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月〜土 朝8時〜、再放送 午後0時45分〜
◯BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜、再放送 午後11時〜
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和