by Al Jazeera English

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴って、世界各国では社会的距離を保つ動きが強まったり、強制的な都市封鎖が行われたりしています。パンデミックの影響は日常生活にも及んでおり、多くの企業が在宅勤務を導入したり、学校がオンライン授業を始めたりしている中で、「新型コロナウイルスのパンデミックは、イスラム教の信者であるムスリムの生活にも大きな影響を与えている」と指摘されています。

How coronavirus challenges Muslims' faith and changes their lives

https://theconversation.com/how-coronavirus-challenges-muslims-faith-and-changes-their-lives-133925

家族はイスラム教の重要な構成要素であり、ムスリムは単に家族の構成人数が比較的多いだけでなく、広い親族との関わりを維持し続ける傾向があります。イスラム教における預言者であるムハンマドは信者に対し、家族のつながりを強く保つように説いたとのこと。イスラム教の聖典であるコーランにも、「親類に寛大であるように」「高齢者に思いやりを持って接するように」などと記されています。

これらの教えによってムスリムは大家族で住んだり、親類の元を定期的に訪問したりする習慣がありますが、社会的距離を保つ戦略の中でムスリムはこれまでの習慣を変更せざるを得なくなっています。各国では不要不急の外出や地域間の移動が制限されており、ムスリムはほかの場所に住む親類を訪問することを断念しているとのこと。同様に、病人を見舞うこともイスラム教においては善行と見なされますが、COVID-19の患者を見舞うことはできないため、ムスリムは電話やメッセージ、SNSなどで患者と連絡を取っている模様。

また、ムスリムの共同体では特にモスクの中で握手やハグが頻繁に交わされますが、3月頃からはムスリムもハグを避けるようになり、これまでの習慣が制限された状況に複雑な感情を抱いているそうです。



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イスラム教では古くから清潔さが非常に重要視されており、コーランも信者に対して衣服を清潔に保つように指示しており、「神は清潔な人を愛する」とも記されています。この点は、ムスリムが新型コロナウイルスに感染するリスクを軽減し、COVID-19の流行に立ち向かうに当たってメリットを提供するとみられています。

ムハンマドは信者に対して食事の前に手を洗い、週に1回は入浴し、毎日歯を磨いて爪や性器の手入れをするように奨励しました。さらに、1日5回の礼拝前にも体を清める必要があり、厳格な信者は指や顔、足、髪の毛の洗浄などを行っているそうです。



モスクでの祈りはムスリムにとって、「神聖な存在の中にいて、ほかの信者と共にある」という感覚を得るために重要ですが、密集した状態で礼拝を行うことはCOVID-19のパンデミック下では非常に危険です。イランやインドネシア、トルコなどでもモスクが閉鎖されているほか、日本でも金曜の集団礼拝(金曜礼拝)が中止され始めており、地球規模で金曜礼拝を取り止める動きが強まっています。

ムスリムにとって幸いなことに、イスラム教でも個人の祈りと崇拝が大きな役割を果たしており、モスクが閉鎖されても自宅で礼拝を行うことが可能です。また、各国のモスクは通常であれば金曜礼拝が行われる時間に、オンラインで説教を行う試みもスタートさせているとのこと。



金曜礼拝以上に大きな影響を受けるとみられているのが、ラマダーンの断食とメッカへの巡礼です。これらは、ムスリムに課せられた義務である五行を成していますが、COVID-19の影響で例年どおりに実施することが困難となっています。

2020年のラマダーンは4月23日〜5月23日となっています。断食中は日の出から日没にかけて一切の飲食を避けることとなりますが、日没後の食事はイフタールと呼ばれ、ムスリムは友人や家族を招待して豪華な食事を楽しみます。また、ラマダーン中にはタラーウィーと呼ばれる特別な礼拝がモスクで執り行なわれるほか、ラマダーンの終了を祝うイド・アル=フィトルという大祭も実施されますが、各国のイスラム教組織はCOVID-19のパンデミックの影響を受け、多くの人々が集まる行事を中止しているそうです。

また、メッカへの巡礼はハッジと呼ばれ、2020年の巡礼シーズンは7月下旬から8月上旬となっています。巡礼期間中には毎年世界中から数百万人ものムスリムが集まりますが、サウジアラビア政府は2020年3月から日本を含む感染国からの入国を一時停止しており、2020年はハッジが遂行できない可能性もあるとのこと。メッカへの巡礼が中止されると、事前に料金の全額を支払っていた巡礼者が大きな損害を被るほか、巡礼産業においても大規模な雇用の損失が発生する可能性があります。



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新型コロナウイルスを取り巻くイスラム教圏での議論は複雑です。一部のムスリムは、「消費主義・環境破壊・人口過剰などについて人類に警告および罰を下すため、新型コロナウイルスは神によって作成された」と主張しているそうで、パンデミックとの戦いは無駄であると考えています。

一方、大多数のムスリムは新型コロナウイルスの出現こそ人類がコントロールできないものだったものの、病気のまん延は人類の行動によって防ぐことが可能だと主張し、パンデミックとの戦いは可能だと反論しているとのこと。ムハンマドも感染症に対する検疫措置について言及しており、「もしどこかで感染症(ペスト)が広まっていると聞いたならばそこには行かず、自分がいる地域で広まっているならばそこを出てはいけない」と述べたと伝えられています。

イスラム教は、人生に訪れる困難な事態について、ムスリムをより強くするためのテストだと教えています。また、ムハンマドは苦難の中で富が失われた場合は慈善行為とみなし、命を失った人は殉教者とみなすように助言しているとのことです。