足利市の自宅には死後10日ほどの死骸も(2017年撮影・関係者提供)

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「最初は猫が好きな人だと思っていました。猫が7匹に増えアパートが狭くなったときは、家を紹介したり、エアコン代や猫のケージ代、家賃、光熱費を工面したこともあります。彼は言っていることとやっていることが違う。今は、だまされたと思っています」

【写真】多くの死骸が発見された容疑者の自宅、直撃に妙な理屈をこねる容疑者

 栃木県警足利署は11月28日、足利市の無職、北口雄一容疑者(58)を、動物愛護法違反の疑いで現行犯逮捕した。逮捕容疑は、猫の死骸が放置された家で、37匹の猫などを飼育、虐待したというもの。冒頭の発言は、容疑者の知人・Aさんの後悔の念だ。

近所の人が洗濯物を干せないほどのにおい

 猫たちの虐待現場になったのは、足利市内の住宅街にある北口容疑者の自宅。

「あの家の前を通るときは、鼻を押さえないと歩けないほど、においがすごかった。近所の人は洗濯物も干せない、って困っていました。

 今年の夏はノミが大発生して、家の前の道路でもぴょんぴょん跳ねていたほどです。ノミに食われて足がパンパンになったご近所さんもいます」

 と周辺住民は困り果てる。

 栃木県内で動物保護活動を行う関係者は、北口容疑者を要注意人物とみていた。

「埼玉県深谷市から足利市に引っ越してきたことは知っていました。深谷市で住んでいた借家は劣悪な環境で、猫の死骸も大量に出てきたと聞いていましたので……」

 2016年11月、北口容疑者は、深谷市長脅迫容疑で逮捕されている。その際、留守宅に置き去りにされたのが、120匹ほどの猫。

 2017年3月、家賃滞納で退去を求められ、強制執行。猫を保護するため立ち会った愛護団体スタッフに家の中の様子を聞くことができた。

 容疑者は当時70匹ほどいた猫を連れて逃げた後だった。執行官やスタッフが防護服を着て室内に入ると、そこは排泄物の山。窓には猫が逃げられないように頑丈な柵。ケージはクモの巣だらけ。ハエ取り紙にはハエがびっしり。

「臭気で目がしょぼしょぼして、息ができないくらいでした。アンモニア臭、排泄物のにおい、それに死臭です」

 猫の死骸が10匹以上、入った段ボールも発見された。

「生活保護で生きるほうが賢い」

 深谷の家と同じような状況が足利の自宅でも繰り返されていた。知人・Bさんはそこで見た地獄絵図を伝える。

「室内は暑く、閉め切られ、猫たちはのびていました。衰弱し、猫エイズや白血病などに感染し、死にかけている子や死骸もありました。保護された猫の中には、尾っぽも目も動かさないほどに感情を失った猫がいたほどです」

 動物愛護関係者の見方は一致していて、北口容疑者は手に負えないほどの動物を飼育してしまう典型的な『アニマルホーダー』にあたるという。

 そのうえ猫をエサにして、動物好きの善意を悪用していたフシがうかがえる。

「お金がない、死にそうだ、と、かわいそうな猫たちの写真をSNSにアップして寄付を募る。実情を知らない人は同情して寄付をしてしまうんです」(前出・Bさん)

「猫が人質になっている状態」

 元ボランティアの1人は、そう厳しく断罪する。

「以前、彼に“働いたらどうか”と言ったら“働いたら生活保護がもらえない。生活保護で生きるほうが賢い”と。猫好きの猫のための善意の支援で自分のものも購入していました。液晶テレビにパソコン、新型のスマートフォン……」

 深谷市の借家では当時同棲していた女性が猫たちの面倒をみながら昼夜仕事をしエサ代や生活費を工面していたという。

「北口は彼女に暴力をふるったことがあり顔にアザをつくり、逃げてきたのを保護したことがあります」(前出・Aさん)

 交際相手はDVが原因で去り、北口容疑者はその後、SNSで支援を募る生活に。猫も次々に増え、最大200匹にまで増えていたとも。

北口容疑者を直撃すると「猫に命を捧げている」

 虐待の実態、猫を利用した詐欺まがいの行為について、週刊女性は処分保留で自宅に戻っていた北口容疑者を直撃した。

「虐待はしていない。猫を虐待から助けるために活動し、うちで保護している」

 と、まずは逮捕容疑を全面否定。実際に虐待死と思われる猫がいることには、

「病気で仕事もままならないときに支援を募ったが、それを妨害された。だから猫が死んでしまった。俺の活動を妨害するということは、猫も一緒に殺すことになる」

 と妙な理屈をこねる。「猫を救うのは自分だと思い込んでいる」(前出・ボランティア)という指摘と一致する説明だ。

 猫の死骸を大量に段ボールに詰めていたことには、

「以前は火葬にしていたが、金銭的な理由からできなくなった。ここでは元気な猫と亡くなった猫で部屋を分けていた。死んだ猫は猫エイズや白血病などの病気を持っていて暑さでそれが発症した。汚れや菌、ウイルスは関係ない」

 病気の猫を素人治療で殺してしまったこともあるという。

「中途半端な知識で猫の鼻からカテーテルを入れて、肺に刺して殺しました」

 と前出・Bさん。その真意を北口容疑者に尋ねると、

「鼻からカテーテルを入れて、直接胃にエサをあげるしかない子もいた。経験もあるし獣医からやり方を教えてもらっていた。肺に傷がついたことはない。亡くなったのは寿命」

 と潔白を主張する。そして、

「動物は殺しちゃダメだと思っている。それに保護した猫はみんな俺に懐いている。猫は家族で、子どもで、戦友だな。猫に命を捧げている」

 と歪んだ家族観を示す。

 さらに、元交際相手へのDVについて北口容疑者は、

「彼女とケンカをすれば手が出たことはある。彼女が浮気をしたから追い出した」

容疑者を治療しないと死ぬまで猫を集める

 北口容疑者一家を知る古参住民によれば、

「母親は雄一を溺愛し、甘やかしていました。結婚は2回。最初の奥さんとの離婚後、お子さんは施設に入ることになりました。それじゃかわいそうだからと雄一の両親が引き取り、養子にして育てていました。お母さんは20年前くらいに亡くなりましたが、雄一はお葬式にも来ませんでした」

 保護された猫たちは県動物愛護支援センターが保護しているが、北口容疑者は、「足利警察署に猫を返すように頼んでいる」と力説する。そして、

「里子に出せば虐待や遺棄されるかもしれない。猫が安心して暮らせない。俺には受け入れる経験も土壌もある」

 と一歩も引かない構えだ。

 前出・動物保護活動ボランティアは、無力感を口にする。

「今の日本の法律では、彼が所有権を放棄しない限り、猫は彼のものです。海外ではアニマルホーダーを規制する法律があり、緊急保護もできます。でも日本にはない。虐待する人にまた返すなんて……」

 と法整備の必要を訴える。

 前出・元ボランティアは、

「彼を治療しないと死ぬまで猫を集めるでしょう」

 とこう断言する。

「猫たちの地獄は続くことになります」