浦和MF柏木は抱えてきた苦しい思いを明かした【写真:Getty Images】

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J1残留が濃厚となったFC東京戦後に思いを告白 「軽い鬱みたいになった時期も…」

 浦和レッズのMF柏木陽介は、11月30日に行われたJ1リーグ第33節のFC東京戦に1-1と引き分け、J1残留が濃厚となった試合後に、昨季からキャプテンを務めてきたなかで苦しい思いがあったことを明かした。

 特に今季は、5月に負った膝の負傷からの悪循環に陥っていた。

 柏木はこの試合、右のシャドーでスタメン出場した。満足な出場機会を得られていないなかでのスタメンに、「久しぶりに自分に対してプレッシャーがかかっているような状況でプレーできた。ここで結果を出さないと次の試合もプレーできないというような」との思いを抱き、試合に入っていった。

 前半はFC東京ペースのなかであまりボールを触らせてもらえなかったが、コーナーキックのキッカーとして先制点には絡んだ。後半はボールを触る回数も増え、「今日はある程度、みんないろいろなものが抜けて楽しもうとできていたのかなと。個人的にもキャプテンを忘れてサッカーを楽しもうと。前半はマンツーマンで疲れたけど、後半は少し良さを出せたかな」と振り返った。

 そのキャプテンという言葉は柏木をこの2年間、ある意味では縛ってきたのかもしれない。何しろ、浦和に加入してからだけでも元日本代表MF鈴木啓太氏、同MF阿部勇樹という様々な意味でチームの大黒柱だったキャプテンの下でプレーしてきた。前任者が偉大であるというのは、誰にとっても難しい。そのうえ、自分らしさと柏木の考えるキャプテンらしさの狭間に身を置いてしまう状況になっていた。

「キャプテンとして試合に出られない苦しい状況で、軽い鬱みたいになった時期もあって。チームを支えようという思いが、自分を難しくさせてしまったと思う。この2年、キャプテンをやって何も良さを出せなかった。天皇杯を獲ったけど、それ以外に何もできなかった。ゴールもなかったし。やっぱり、キャプテンとして言えない部分が溜まっていってしまった。なんでも少しネガティブな言葉を発しながらも、それでもしっかり練習もやるというのが自分の良さだったような気がする」

 確かにキャプテンになる前の彼のキャラクターは、少し天邪鬼(あまのじゃく)と言ったらいいのか、「しんどい」とか「きつい」とか言いながらも、手を抜かずにやる姿がそこにあるというタイプだった。ただ、そうした一言や二言も、「キャプテンだから」という思いが封印させた。ほんの少しのストレス発散のようなものを我慢した結果、かえって精神的に難しくなってしまったのだろう。

負傷離脱、監督交代の悪循環 「大槻さんの熱い支えが、逆に辛くなってしまった」

 それでも昨季は試合に出続けることで、なんとかバランスが保てていたのかもしれない。しかし、今季はそうならなかった。5月末にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージ最終戦、突破のかかった北京国安(中国)戦でスタメン出場し、ボール際で一歩も引かないプレーを見せた結果、相手がラフに飛び込んできたところで膝を負傷してしまう。結局、手術を伴い戦線離脱となった。

 その間、チームはオズワルド・オリヴェイラ監督から大槻毅監督への交代が起こった。昨季に暫定でチームを率いた経験のある大槻監督だけに、柏木も当然そのキャラクターは知っている。昨季の暫定監督の就任初戦、舞台はルヴァンカップの敵地サンフレッチェ広島戦で、リーグ戦との兼ね合いで柏木に出場予定はなかったが、大槻監督は「キャプテンとして一緒に行こう」と帯同メンバーに入れた。そういう一面を、柏木は好ましい人物像だと思っていたことを話したこともある。

 だが、今季に関しては少し状況が違った。この離脱期間中に起きた監督交代は、柏木に「夏場がいろいろな意味ですごく苦しかった。怪我をした後に監督が代わっていてチームが良い雰囲気で、そこに上手く入っていけない自分と、思ったように膝が動かない自分、そして怪我も繰り返して病んでしまった」という難しさを与えた。そして「大槻さんの熱い支えが、逆に辛くなってしまった」という悪循環にすら陥った。

 負傷を繰り返してプレーの質が上がらず、精神的にも難しさを抱える。それは「今の状況では試合に出られないと分かっている」という思いにさせた。しかし、ここでもまた「どういう対応が一番いいのかと答えを探しながらやっていて。本当は良い状態だったら、もっと行こうよとできたかもしれないけど、一番前に立てない自分がいて、立ち振る舞いが難しくなってしまった。チームに迷惑をかけていると分かりつつ、どうしたらいいか分からない自分がいた」と、キャプテンであることが柏木の苦しさを助長した。

 そうしたものが、少し整理され始めたのが秋に入ってからだろうか。9月末から10月にかけて、チームがACL準決勝の広州恒大(中国)戦に臨む頃、アウェーゲームの帯同メンバーにも入り、トレーニング中に少しずつ楽しそうな所作や言葉、アクションが見られるようになってきた。そこからは、途中出場を中心にしながらも、試合に絡む機会が増えてきた。トンネルは、抜け出しつつある。

 そして第33節を終えて13位の浦和(勝ち点37)は、J1残留をほぼ手中にした。最終節ではJ2とのプレーオフに回る16位の湘南ベルマーレ(同35)が勝利し、14位サガン鳥栖(同36)と15位清水エスパルス(同36)の直接対決の結果が引き分け、そのうえで浦和がガンバ大阪に10点差以上の敗戦を喫しなければ良い。

復活の兆しを見せて最終節へ 「違った自分を出せるようにやっていきたい」

 しかし、そのホームで迎える最終節に向けて柏木は、「最後はホームでなんとしても勝って、ね。ACL決勝でも何も残せなかったし、個人的にもピッチで良いプレーを表現できていない2年間だったから。来年また頑張ろうと言えるような状況にしたい。負けて終わるのは違うから」と話している。

「この1年、2年で自分のサッカー人生において勉強させられたし、初めての挫折に近いのかなっていう気がする。来年はたぶんキャプテンじゃないと思うし、自分らしく。良い年齢を重ねてきて余裕も出てくると思う。いろいろなトレーニングや治療を入れて体も良くなってきていると思う。来年に向けては違った自分を出せるようにやっていきたいし、出さなきゃダメ。でも、この2年が今後のサッカー選手として、人間として素晴らしい2年だったと言えるように、また挑戦していきたい」

 今季の浦和は、確かに個々のポジションにはタレントが揃っているが、それをつなぎ合わせチーム全体にリズムを生む存在として、柏木の不在を感じさせる試合が多かった。“浦和の太陽”というニックネームがあるように、彼がいるから周囲も輝くし、上手く回っていける面は間違いなくある。

 苦悩の2年間を過ごしてきた柏木が、来季にまた輝きを取り戻す――。その兆しを確信に変えるようなリーグ最終節を迎えたい。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)