「在韓米軍の撤退問題」が現実味を帯びてきている。韓国には現在、陸軍約1万8500人、空軍約8000人、海軍・海兵隊合わせて約2000人が駐留している。米朝関係の今後の動きや、駐留経費負担問題がこじれれば、米国が韓国から手を引く事態に陥る可能性も否定できない。

 日米情報当局関係者によると、文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生して以来、韓国から北朝鮮へ情報が漏れているという。政権周辺に、北朝鮮の支援者ないし内通者が数多く紛れ込んでいるとの見方もある。米韓同盟は機能停止しかねない瀬戸際だ。

 文大統領は「光復節」(8月15日)式典での演説で、「2032年にソウルと平壌(ピョンヤン)で共同オリンピック開催」「45年に平和統一」を訴えるなど、北朝鮮へのラブコールも尋常ではない。

 米軍が撤退したことで、自国の安全保障環境が大きく変化した国がある。フィリピンだ。南シナ海における中国とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国との対立・緊張関係を作り出した原因の1つが、フィリピンにあった世界最大級の在外米軍基地(スービック海軍基地・クラーク空軍基地)からの米軍撤退だった。

 1991年、フィリピン国内で反米感情が高まるなか、フィリピン上院は両基地の使用期限の延長を否決した。このとき、安全保障の専門家の多くが「フィリピンの戦略的位置からして、米軍が簡単に基地を返す(撤退)ことはない」とみていた。

 ところが、米国はフィリピンと再協議をすることもなく、翌年には米軍は撤退してしまった。

 その結果、「力の空白」につけ込むかのように、中国が南シナ海に進出してきた。中国は95年、フィリピンやベトナム、マレーシア、台湾も領有権を主張している南シナ海・南沙諸島のミスチーフ環礁を、軍事占領した。建造物を構築し、現在も占領を続けている。

 当然、フィリピンは中国に抗議したが、後の祭りで、南シナ海の拠点を、中国にみすみす奪われてしまったのである。

 この事態を、韓国に置き換えてみよう。

 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長率いる北朝鮮にとって「目の上のたんこぶ」である在韓米軍がいなくなれば、韓国への侵攻は容易になる。北朝鮮は、朝鮮半島の「赤化統一」を諦めていない。祖父の金日成(キム・イルソン)主席、父の金正日(キム・ジョンイル)総書記の野望を実現する行動に出てくることも考えられる。

 そうなれば、韓国内の北朝鮮内通者も協力するだろう。北朝鮮に一気に攻め込まれてソウルは火の海と化す場合だってあり得る。第2次朝鮮戦争の勃発である。

 韓国軍は通常兵器では北朝鮮軍を上回るかもしれないが、緩み切った韓国軍(=兵器の整備不良や士気の低下など)が、北朝鮮軍の精鋭部隊と互角に戦うことができるか、甚だ疑問だ。

 ■濱口和久(はまぐち・かずひさ) 1968年、熊本県生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒。陸上自衛隊、栃木市首席政策監などを経て、現在、拓殖大学大学院特任教授・同大学防災教育研究センター長、一般財団法人防災教育推進協会常務理事などを務める。著書・共著に『戦国の城と59人の姫たち』(並木書房)、『日本版 民間防衛』(青林堂)など。