山口真帆(本人のInstagramより)

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 所属事務所を研音に移し、元NGT48の山口真帆(24)が活動を本格化させている。

 9月15日に刊行された『山口真帆1st写真集 present』(宝島社)は、Amazonの売れ筋ランキング(タレント写真集部門)で1位を獲得。〈全ページに山口真帆さんの今の魅力が満載の珠玉の一冊〉〈写真映えのする華やかなビジュアルで、ファッション誌等の活躍に期待が持てます!〉とレビューには高い評価の声が並んでいる。

 発売翌日の16日には「ノンストップ!」(フジテレビ系)で転身後初となるテレビ出演を果たし、マカオのレポートと共に女優業への思いを告白した。こちらもSNS上では〈どうしてこの人がNGTごときで燻っていたのだろう? 周りに恵まれなかったんだろうな〉とファンからは好意的な評価。翌週23日の同番組にふたたび出演した際も、同様の反響だった。

山口真帆(本人のInstagramより)

 とはいえ……一連の騒動を抜きに見れば、テレビ出演時の山口が「普通の女性タレント」のように感じてしまったことも正直なところだ。

 Amazonでは売上好調のように見える写真集も、オリコンの週間写真集ランキングで実数をみると、異なった現状が浮き彫りになる。発売初週となった9月9日〜9月15日集計分を見ると、山口の写真集は6位、推定売上部数は1017部。ただし山口の写真集は発売が15日で、これは初日の売り上げしか加味されていない。16日〜22日分集計のランキングも含めて“初週”とすると、売上は1万1133部。こちらのランキングでは1位になっている。

 一方、ほかの“AKB界隈”の写真集の数字はどうか。たとえば8月28日発売の『日向坂46ファースト写真集 立ち漕ぎ』は初週(8月26日〜9月1日集計)で9万5143部、同じ「脱AKB系」でいえば、8月23日に発売された渡辺美優紀の写真集『美優紀です。』(8月19日〜8月25日集計)は初週9253部。日向坂、渡辺ともに、集計期間と発売日を鑑みた日数で部数を出せば、いずれも山口の写真集よりハイペースで売れた計算だ。

 もちろん、新興グループ名義の写真集、元人気メンバーの写真集と山口の写真集を比較することに無理があるのは、承知のうえである。暴行事件の被害者として世に知られた山口が、女優として、あるいはタレントとして、その真価が問われることになるのは、これからのことだ。とはいえ、業界の悪しき習慣に立ち向かった、“告発者”としての功績は大きい。

被害者が“悪”というメディアのコントロール

 これまで、所属事務所と揉めたタレントが、表舞台から姿を消されるということは横行してきた。詳しくは拙著『芸能人はなぜ干されるのか?』を参照頂きたいが、事務所の意を受けたメディアが“ネガティブキャンペーン”を展開し、時には被害者が「悪」とされることもあった。たとえば1978年に起きた「安西マリア失踪事件」などはその典型だ。

 歌手の安西マリアは73年にリリースしたデビュー曲「涙の太陽」が50万枚以上売れたことで知られる歌手だが、その後はヒットに恵まれなかった。そんな安西が、予定されていたレコーディングに姿を現さず、元マネージャーとともに失踪してしまったのが78年4月8日のことだった。所属事務所の竹野エージェンシーの竹野博士社長は記者会見を行い、警察に捜索願いを出す事態となった。

 ところが、事件は思わぬ展開を見せた。安西は失踪から2週間ほどして警察署に現れ、竹野社長を暴行と強要の容疑で告訴したのである。安西によれば、元暴力団幹部だった竹野社長は、安西が遅刻したことに腹を立て、元マネージャーの頭を殴打し、怪我を負わせた。さらに安西の母親を呼び出し、「てめえら、ふざけんじゃねえぞ。俺は前科24犯だ。人をぶっ殺すことなんか、なんとも思っちゃいねえんだ」と脅迫。これに恐れをなした安西は、給料を減額する契約書に署名させられた。安西が失踪したのは社長から「コンクリート詰めにして海に沈めなければならない」と言われ、恐ろしくなったためだったという。

 安西の告訴により、79年、東京地裁は竹野社長に懲役10ヶ月、執行猶予3年の有罪判決を下した。ところが、事件の被害者であるはずの安西は芸能界引退に追い込まれ、一方、加害者の竹野社長は80年に奥村チヨの所属事務所である「フェニックス・ミュージック」を設立し、芸能界に復帰したのである。

 事件の初動段階では、バーニングプロダクションの周防郁雄社長が次のようなコメントを出していた。

「たとえ本人があらわれて謝罪しても、多くの人に迷惑をかけた今回の行動は許されるべきではない。まわりの人はマリアに引退を勧告すべきだし、レコード会社もすぐ新曲を発売中止にするべきです。厳しすぎるかもしれませんが、そうすることが芸能界の将来にとってもプラスになると思います」(『週刊平凡』78年4月27日号)

 芸能事務所の言うことを聞かず、弓を引いたタレントは業界から追放すべし――ということだ。このコメントを出した周防社長が、後に業界の実力者となり、「芸能界のドン」という異名で知られるようになったのはご存じの通りだ。

 当時のメディアはこの動きに追従。安西を批判し、竹野社長を擁護するような論調の記事が増えていき、“安西にこそ問題があり、竹野社長は悪くない”という世論誘導が巧妙に行われていったのである。

芸能界の悪習を打ち砕いた“メディアの民主化”

 それは能年玲奈や安室奈美恵の独立騒動や小林幸子の事務所のお家騒動など、最近まで行われてきた。メディアがたびたび報じる「洗脳騒動」がそれだ。「タレントの独立や移籍は許されない。タレントも悪いが、タレントをそそのかしている人間がいるはずだから、まずそいつを叩け」という芸能界の論理のもと、メディアがタレント批判を繰り返し垂れ流し、独立や移籍の不当性を世間に広める。メディアが情報を独占していた時代は、実にこれが効いたのだった。

 その図式を変える転機となったのが、NGT48の騒動だ。この事件で山口は、自宅玄関先で男2人から暴行を受けたことを動画配信サービスで告白。運営側の対応をネット上で批判し続け、SNSで拡散された結果、グループの活動は休止に追い込まれた。もしも安西マリアの時代にネットインフラが充実していたら、先に紹介した事件も、また違った展開になったことだろう。

 雑誌やテレビなどの従来メディアは、芸能事務所の意向に逆らえば、タレントを引き揚げるという報復も覚悟しなければならない。が、SNSを使っている無数のユーザーにまでそれを強いることは不可能だ。山口の騒動では、彼女が導いた“メディアの民主化”が芸能界の論理を打ち砕いたといえるだろう。

 電通の調べによれば、2018年の地上波テレビ広告費は1兆7848億円だったのに対して、インターネット広告費は1兆7589億円と、かなり拮抗しており、ネットがテレビを追い抜くのは時間の問題といえる。テレビよりもネットがメディアの主流となってくる中で、芸能事務所が“誘導”できることは、どんどん限られてくるようになるだろう。

 もっとも先述のように、山口は女優、タレントとしての実力も未知数なだけに、今後の芸能活動が必ずしもうまく行くとは限らないだろう。一部報道によれば、山口に対する暴行事件の加害者が「事件前から山口とつながりがあった」と主張しているそうで、これが事実であれば、騒動の前提が覆ってしまう。他の事務所が山口との共演に二の足を踏んでいるという報道もある。昔、渡辺プロダクションから独立した森進一が「他のタレントに独立をそそのかした」という理由で複数の芸能事務所から共演を拒否され、窮地に立たされたのを思い出すが、山口の場合、今後どうなるかは分からない。

 山口の将来性をふくめ、何事も順風満帆にいくわけではない。芸能界も同様に前進しつつ、時に後退しながら、あるべきところに落ち着けばよいが……。

文/星野陽平(フリーライター)

週刊新潮WEB取材班編集

2019年9月27日 掲載