無理に暗記せずとも、自然に記憶力をアップさせる方法とは?(写真:kyoshino/iStock)

「覚えておきたいことを覚えられない・すぐに忘れる・思い出せない」――。そんな方も、若いころはどんどん覚えられていたのではないでしょうか。自分自身が子どものころのことや、あなたのお子さんのことを思い出してみてください。子どもは乗り物の種類やゲームのキャラクター名など、びっくりするぐらいたくさんのことを一瞬で覚えてしまいます。今回は『見るだけで勝手に記憶力がよくなるドリル』の著者・池田義博氏が、脳を活性化し子どものような記憶力を引き出す方法をご紹介します。

海馬を刺激して強く記憶に残す方法がある

なぜ子どもはたくさんのことを覚えられるかというと、「興味があるから」です。興味があるものにはワクワクしながら接します。こうした感情は、脳に大きなインパクトを残します。感情が生まれるのは「扁桃体(へんとうたい)」という場所。これは記憶を司る「海馬(かいば)」の隣に位置します。つまり感情が生まれて扁桃体が反応すると、その刺激を受けた海馬が記憶の扉を開いてくれて、強く記憶に刻み込むというわけです。

しかし大人になると、覚えたいものはワクワクするものばかりではありません。でもご安心ください。ここでは子どもの覚え方と同じように、脳にインパクトを与えて自然に記憶力をアップさせる方法をご紹介します。

いうまでもなく、なんとなく眺めているだけではものごとは覚えられません。その状態では、脳がものごとを覚えようとする準備が整っていないからです。要するに記憶するには、脳がものごとを覚えようとする状態、いわば「記憶スイッチ」がオンの状態になる必要があるのです。

では大人の記憶スイッチをオンにするものが何かというと「ひらめき」です。詳しくいうと「最初は気づいていなかったことを、途中で発見した瞬間の感覚」です。マンガでよく見る、アイデアがひらめいて電球が頭の上で光る、あの状態です。この「わかった!」「見つけた!」というひらめきの感覚が脳に大きなインパクトを与え、情報を強く記憶に焼きつけます。

そうはいっても、いきなり何かを発見することは至難の業。何かを発見するにはつねに、ひらめきを得る意識が必要です。その意識をここでは「ひらめきセンサー」と呼びます。このひらめきセンサーを働かせてものごとを見ると「わかった!」「見つけた!」という感覚を得られるのです。ひらめきセンサーには次の5つがあります。

探知センサー:隠れているものを見つけようという意識。見つけ出した快感が脳の記憶を強化する
分類センサー:共通点を探し出す意識。覚える情報の量を圧縮して記憶できる量を増やす
照合センサー:自分が持っている知識と照らし合わせる意識。記憶の効率化を促し、無駄なく脳に記憶させる
イメージセンサー:覚えたい情報をイメージに変える意識。秘められた記憶力を存分に発揮させる
関連センサー:覚える情報を関連づける意識。情報が必要なときに、いつでも頭から取り出せようにする

この5つのセンサーは一度脳にインストールしてしまえば、仕事、勉強、その他日常の中で「効率よく覚えられる」「長く記憶に残せる」「簡単に思い出せる」という3つの効果を発揮し始めます。

記憶力に自信のない人に欠けている要素

ここでまずは、関連センサーの実力をチェックしてみましょう。

下の10個の単語を1分間で覚えて、何も見ずにできる限り思い出してください。


どうでしょうか、思い出せましたか? 8つ以上思い出せたら関連センサーが備わっているといえるでしょう。反対に、少ししか覚えられなかった人はこれら10個を別々に覚えようとしませんでしたか。それでは単語をひとつずつ思い出さなければなりません。

対してたくさん覚えられる人は10個の単語を何らかのやり方で結び付けて、思い出す労力を減らそうとする傾向があります。

続いて、関連センサーを鍛えるためのドリルを1問ご紹介します。


上段の数字を1回ずつ使って計算し、答えが下段の数字になるようにしてください。メモは使わず頭の中で計算しましょう。足し算、引き算、かけ算、わり算、すべてを使う必要はありません。例えば、ひき算のみの計算式でもOKです。また、数字はどの順番で使ってもかまいませんが、計算式の最初には、1つ前の計算の答えがくるようにします。「2+3=5」の計算後なら、「5×4」の計算はOKで、「4×5」の計算はNGです。

答えは?

解答例: 3×4=12 / 12-2=10 / 10÷5=2

答えは1つとは限りません。別のパターンも考えてみてください。

そもそも、誤解されていることが多いのですが、記憶力とは「覚える力」のことだけではありません。実は3つの要素があります。心理学用語をそのまま使うと「記銘」「保持」「想起」です。

「記銘」とは情報を頭のなかに取り込むこと、つまり覚えることです。「保持」は頭のなかに入れた情報を保つこと。最後の「想起」は、頭のなかから情報を取り出すこと、つまり思い出すことです。

本来、人がものごとを覚える能力には、ほとんど違いはありません。記憶力に自信がない人は「想起」、つまり思い出すのが苦手な傾向があるのです。先ほどのチェックでも少し触れましたが、その原因は覚え方にあります。思い出すのが苦手な人は10個の情報をバラバラに頭に取りこむので、思い出すときは1つずつしか情報を取り出せません。

でも10個の情報それぞれを関連づけてから頭に入れると、ひとつ思い出すだけで、残りの情報も引っ張りだせます。これだけで思い出せる量に圧倒的な差がつくことがおわかりいただけるのではないでしょうか。


しかし別々の情報を結び付けるのは、そう簡単ではありません。誰でもできますが、スムーズに行うには慣れが必要です。なぜなら、もともとが何の関係もない、バラバラの情報だから。それらを結び付けるには自分で関連性を見いださなければなりません。先ほどご紹介したのは、そうした関連性を見いだす意識を身に付けるドリルなのです。

誰しも、もともと記憶力を持っています。しかし脳の使い方をよく知らないために本来の力を引き出せていないことが多いもの。脳の使い方さえ変えれば、多くの人が本来の記憶力を発揮できるようになるでしょう。