「主審はいい位置で見ていた」だけでは片付けられないこともある
有料になり、副委員長からすべて納得のいく説明を得られることはないが、協会の審判委員会自ら問題点を公にする姿勢は買える。それだけに一般のメディアが情けなく見える。なぜ自身でもっと検証しようとしないのか。判定問題には普段から、目を背けようとする傾向がある。さすがに今回は、騒がざるを得なかったのだろうが、追及の手は緩かった。「誤審!」で終わらせては、サッカーへの造詣は膨らまない。
自分たちに不利に作用する誤審や見逃しに対しては批判しても、有利に働いた場合には沈黙する。認めようとしない。こうした傾向も顕著に存在する。たとえば日本代表。もし、浦和対湘南戦で、日本が浦和で、相手国が湘南だったら、「誤審!」と騒げるだろうか。ネット社会が発達したこのご時世で、日本にとってネガティブな話を正々堂々とできるだろうか。
2018年ロシアW杯初戦。サランスクで行われた対コロンビア戦で、開始6分、相手選手にペナルティエリア内でハンドの笛が吹かれた。審判委員会がそれまでの説明会で行ってきた話の流れに従えば、妥当な判定はPK&イエローだった。ところが、実際はPK&レッド。コロンビアはその後ロスタイムを含めるとほぼ丸々90分間、10人での戦いを余儀なくされ1−2で敗れた。この大ラッキーな勝利について、例の検証映像で上川氏は「主審はいい位置で見ていましたから」と、いい位置論を持ち出し、ジャッジを支持しようとした。傍らに座る原博実Jリーグ副チェアマンの方はもう少し正直で「僕は逆サイドのゴール裏から見ていたんですが、その瞬間、ラッキーと思いました」と心情を吐露したもののそれ止まり。こちらは残念な気持ちに誘われることになった。
主審はいい位置で見ていたのかもしれない。だが、背後で構える何人かのカメラマンは試合後、あの香川シュートはゴールを外れていたと口々に言っていた。「ラッキー」(原博実)と言えばラッキーなのだけれど、ロシアW杯を振り返ろうとした時、この「サランスクの幸運」について語ろうとする人はほとんどいない。ロシアW杯といえば「ロストフの悲劇」になる。ついでに言えば「フェアプレーポイント」の一件も語りたがられない。少なくとも選手を取り巻く世界は、フェアではない気がする。自分たちに都合が悪い話をどれだけできるか。これこそが問われているものだと僕は思う。
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スポーツライター杉山茂樹氏の本音コラム。