川崎の自力突破消滅。Jリーグ王者はなぜACLで勝てないのか
アジアチャンピオンズリーグ(ACL)グループリーグ第5節。H組で3位につける川崎フロンターレ(勝ち点4)は、ホームで2位の上海上港(勝ち点5)と対戦した。
勝てば2位浮上。自力突破が可能になるが、引き分けるとそれができなくなり、敗れると、最終節を待たずにグループリーグ落ちが決まる――という設定のなかで、この試合は始まった。
上海上港と引き分け、肩を落とす川崎フロンターレの選手たち
ところが川崎は開始6分、いきなり失点を許す。自軍の左サイド深い位置で、齋藤学がボールをキープできず、オスカルにボールを奪われる。奪われた場所は低く、失点につながる恐れは少ないと思われた。オスカルから、フッキの前方に送られた縦パスも、1メートル先を走る登里享平が簡単に処理できそうに見えた。だが、フッキの足は速かった。登里に走り勝ち、GKチョン・ソンリョンと1対1になると、ゴールにシュートを冷静に流し込んだ。
勝てば決勝トーナメント進出が決まる上海上港は、早々に先制ゴールを決めたことで守勢に回ることになった。3バックならぬ5バックで後ろを固め、受けて立った。これが川崎にとっては幸いした。
川崎はケガ人を多く抱えるという問題を抱えていた。中村憲剛、家長博昭、車屋紳太郎、奈良竜樹、知念慶など、従来のスタメン候補は出場できない状態にあった。だが、昨季のJリーグ覇者として、それを理由にグループリーグ落ちしては面子が立たない。その優勝に重みがなくなる。この試合は耐えなければならない試合だった。
上海上港の守備的な姿勢はそうした意味でも歓迎だった。川崎をリスペクトしすぎている気がした。
攻勢を続けた川崎は後半21分、守田英正のクロスを谷口彰悟がヘディングで叩き、2−1と逆転する。このまま終われば、それぞれの順位は入れ替わる。瞬間、グループリーグ突破の可能性はグッと増したかに見えた。
それは言い換えれば、立ち位置が追う側から追われる側に変わったことを意味した。上海上港は、相変わらず5バックで守備を固めながらも、反撃に出た。中国人選手で守り、4人の外国人選手で攻めるという図がますます鮮明になっていった。
4人対2人という外国人選手の数の違いが自ずと鮮明になった。チョン・ソンリョンはGKなので、フィールドプレーヤーに限れば、その差はさらに広がる。川崎は細かいつなぎで相手を上回ったが、上海上港と比較するとひ弱に映った。
72分に浴びた同点ゴールも、パワーに屈した感がある。大島のパスミスからだった。オスカルが左に展開。リターンパスを受けると、ファーサイドに大きなボールを蹴り込んだ。落下点に入ったのはフッキとエウケソン。川崎のディフェンダーはそこにいなかった。ヘディングしたのはフッキで、ゴールの枠内に叩き付ける豪快な一撃だった。
川崎の鬼木達監督はそこから3枚の交代カードを切った。長谷川竜也、馬渡和彰、守田英正に代え、脇坂泰斗、鈴木雄斗、山村和也を投入。3点目を奪わなければ、突破が他のチームに委ねられる、まさに窮地に立たされたチームにしては、ワクワク感の低い地味すぎる交代だった。
山村は高さがあるうえ、調子がよかった。脇坂も、推進力はないけれど、相手の嫌なところでボールを受けることができる選手。そして鈴木は右サイドをもう少し活性化させるため――とは、鬼木監督の弁だ。
しかし、そもそも論になるが、なぜそこに外国人選手という選択肢はないのだろうか。ACLの外国人枠はJリーグより1人少ない4人。にもかかわらず、先述のように、川崎のスタメンには2人(フィールドプレーヤー1人)しか名を連ねていなかった。レアンドロ・ダミアンにしても、知念の体調がよければ、サブに回っていたと思われる。
右サイドを活性化させるために鈴木を投入した件も、サブにはマギーニョの名前があった。なぜマギーニョではなく鈴木なのか。マギーニョはほとんど使われていないので、当然といえば当然だが、清水エスパルスに移籍したエウシーニョの後釜として獲得したはずの選手が、選択肢の2番目にも来ないのはどうしたものか。
鬼木監督は「ピンチは自分たちのパスミスから起きていた。その後の対応を含めて詰めていかなければならない。タフさ、強さについてもう一度確認しながら。うまいだけでなく強さも……」と反省を口にしたが、両チームの違いは一目瞭然。外国人選手の差だ。
なぜ川崎には外国人選手がいないのか。使える選手のみならず、絶対数も足りていない。
予算は十分あるはずだ。Jリーグを2シーズン連続で制しているので、その賞金だけでも並のチームの年間予算分ぐらいある。探し出す力がないのか。そもそも欲していないのか。
川崎は日本人選手だけで戦っている印象だ。上海上港のような強烈な外国人選手を揃えたチームと戦えば、フィジカルで劣る日本人の弱点が露わになりやすいサッカーだ。ひ弱さが露呈するのは当然だ。”うまさ”とひと口にいっても、その幅は狭い。ある種のうまさに限られる。色合いに幅がない。単色に近いのだ。川崎のカラーをもてはやす声は大きいが、ドメスティックであることも事実なのだ。
同日行なわれたH組のもう一試合、蔚山現代対シドニーFCは、1−0で蔚山が勝利した。その結果、蔚山の首位通過とシドニーFCの脱落、そして川崎の自力突破の目もなくなることになった。
川崎の次戦の相手はシドニーFC(アウェー)。上海上港は蔚山現代と戦うが、こちらは蔚山にとっては消化試合なので、ベストメンバーを送り込むことはないだろう。上海上港の勝利は見えたも同然だ。川崎の突破は最大でも20〜30%ぐらいしか見込めない、可能性の低いものになった。
エウシーニョの後釜に取った外国人選手が、交代選手にすらならないこの現実を見ると、苦戦の原因は、選手、監督ではなくフロントにありと言いたくなってしまうのだ。