川崎戦で最後に得点機を演出したイニエスタも、激しいプレスに苦戦。チームを勝利に導けなかった。写真:徳原隆元

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[J1リーグ9節]神戸1-2川崎/4月28日/ノエビアスタジアム神戸
 
 ヴィッセル神戸は4月28日、川崎フロンターレに1−2で敗戦。リーグ4連敗を喫した。同月17日に電撃辞任したフアン・マヌエル・リージョ監督から吉田孝行監督へと代わったチームは、調子がなかなか上向かないでいる。
 
 そんな低迷する神戸にとって、中村憲剛、家長昭博ら主力を欠いた川崎に、巧みにゲームを運ばれたこの一戦は、ある意味良い教訓になったのではないか。
 
 両チームの戦いぶりは対照的だった。アンドレス・イニエスタとダビド・ビジャという絶対的なレギュラーが怪我から復帰した神戸は、立ち上がりこそテンポの良いパスワークで決定機を作り出したものの、徐々に激しいプレスでこの両雄を封じられ、攻め手を失っていった。
 
 一方で川崎は、長谷川竜也、田中碧、舞行龍ジェームズといった、若手やサブメンバーがエネルギッシュに働きまわる。主力の不在を感じさせず、チャンピオンチームに相応しい勝負強さを示したのである。
 試合後には神戸の山口蛍も「川崎は連覇をしているチームだけあって、アキさん(家長昭博)らがいないなかでも、試合の進め方がすごくうまかった」と悔しさを噛み殺した。
 
 舞行龍、谷口彰悟のビジャへのマークも見事だったが、特に中盤のイニエスタへの対応は効果的だった。「危険なところは分かっていた。なるべくCBには持たせて、イニエスタに持たれた時に厳しくいく、というのは、みんな意思統一していた」と小林悠が言うように、この司令塔がボールを持てば、田中碧を筆頭に複数人で囲い込み、ほとんどの時間で自由を奪ったのである。
 
 攻撃の始発点であるイニエスタを封じれば、神戸は機能不全に陥る。「どちらかと言えば、持たれるというよりは持たせている感覚だった。やられる感じはなかったし、自分たちが意図的に持たせている感じでゲームを進められた」という田中の言葉や、「正直失点するまでは怖くなかった。持たせているという感覚でやれていました」という小林のコメントは、まったく強がりではないだろう。
 
 神戸は前掛かりになっていた終盤にようやく1点を取り返したものの、イニエスタへの深刻な依存が浮き彫りになったと言える。
 
 イニエスタにマークが集中した時に、いかに攻撃を組み立てていくかが課題だろう。ただ、イニエスタを経由しない攻撃パターンを構築するのもいいが、あえてこの司令塔を中心に据え続けるべきではないだろうか。
 
 そのための、ひとつのヒントになったのは、68分から途中出場した三田啓貴だ。イニエスタと並列に並ぶインサイドハーフのポジションに入ると、持ち前の運動量と推進力を発揮。攻撃を活性化させるだけでなく、イニエスタについていたマークを引き付けるうえでも、存在感を示した。実際、82分に生まれた古橋亨吾のゴールは、まさに三田とイニエスタの連係から生まれている。
 イニエスタにプレースペースを与えるために、献身的な上下動で相手を翻弄できる三田はキーマンになり得る。セルジ・サンペールが加入する前のように、三田とイニエスタをインサイドハーフに置く形にするのは一手だろう。
 
 ふたりの1列後ろでアンカーを務めた山口は言う。「タマ(三田)はそういう前にいく力はあると思うので、それをうまく活かさないといけない。チームにとって何が最善なのかは、これから試合をやっていくなかで見つけていかないと。もっとうまくできるところはいっぱいあると思う。ここで下を向いていても仕方ないので、前だけ見て、次に向けてやっていくしかない」。
 
 迷走中のチームを救うのは、イニエスタ以外にいないだろう。このスペシャルなタレントの能力を最大限に引き出すためにも、サポート体制を万全にしたい。
 
取材・文●多田哲平(サッカーダイジェスト編集部)