初期宇宙の分子を初めて発見・重いがん患者に遺伝子操作治療・AIにもダイバーシティの問題: #egjp 週末版161
直近で拾いきれなかったニュースをダイジェスト形式でお届けします。今回は「宇宙初期に形成した分子を初めて発見」「重度がん患者に遺伝子操作治療の試験」「AIは多様性の欠如に瀕している」といった話題をまとめました。

宇宙のはじまりに生まれた分子

NASAが、ビッグバンから10万年ほどたった頃に初めて生成されたと考えられる化合物、水素化ヘリウムイオンを発見したと発表しました。見つけたのは地球から約3000光年離れた惑星状星雲NGC7027。水素化ヘリウムイオンは星間物質中に含まれると考えられ、宇宙の温度低下を促して星々の形成にも役割を果たしたと考えられています。

それほど初期の宇宙で重要な役割を果たしたにもかかわらず、水素化ヘリウムイオンはこれまでの宇宙の観測からは発見することができていませんでした。

今回の発見は、NASAの遠赤外線天文学成層圏天文台SOFIAを使って成し遂げられました。SOFIA(Stratospheric Observatory for Infrared Astronomy)は、ボーイング747を改造して巨大な赤外線望遠鏡を乗せ、高度1万3700mの高さから宇宙を観測することで大気中の水分の影響を99%取り除いての観測を可能とします。さらに、SOFIAをアメリカと共同で開発運用するドイツのGREAT受信機のアップデートも今回の発見の重要な要因でした。

科学者らは、1970年代からそこに水素化ヘリウムイオンが存在すると予想されていたNGC2027に向け、周波数を調整して観測を実行、初の発見に成功したとのことです。

土星の衛星タイタンの湖は想像と違っていた



NASAの研究者らは、2017年に運用を終えた土星探査機カッシーニがもたらしたデータの分析をまだ続けています。そして、4月22日に土星の衛星タイタンに最後の接近観測をしたときのデータから新たな事実が発見されました。

タイタンと言えば、ある意味地球のパラレルワールドのように大気があり、海や川、そして雨がふる気候がある星であることがわかっています。しかしその気候を生み出している液体は地球のような水ではなく、液体のメタンおよびエタンです。またタイタンは地球でいう約30年もの長い1年の間に季節のような変化があることがわかっています。

4月15日にNature Astronomyに発表された新しい発見は、タイタンにあるメタンの湖のいくつかが水深(メタン深?)100mほどもある非常に深いものであり、それが非常に高い台地に上にあることがわかったというもの。

研究者らはタイタン北半球の非常に広い海がメタンで満たされていることを知っていました。しかし、南半球にある大きな湖がメタンとエタンが混ざった状態で存在していることから、北半球のほかの小さな湖も南半球と同様メタンとエタンを満たしているのでは、と予想していました。

しかし、カッシーニの最後のタイタン観測のデータによって、北半球の多くの湖がどれもメタンを主成分としていることがわかり、驚くことになったとのこと。論文共著者のJonathan Lunine氏は「地球の水が北半球と南半球でまったく違う成分になっているようなもの」とこの驚きについて説明しました。

また、タイタンの地表には季節のような変化が見られたことも明らかになっています。タイタンは土星の衛星であるため約30年をかけて太陽を1周しますが、カッシーニが土星に到着した2004年から2017年のあいだにタイタンの表面にある液体に季節的な変化があったとのこと。いわば、この13年でタイタンは冬から春になったということです。

米国で重いがん患者を対象としたCRISPR遺伝子編集試験が開始


ペンシルベニア大学で、標準的な治療で効果がなかかった2人のがん患者(骨髄腫および肉腫)を対象に、CRISPR技術を用いた遺伝子編集治療の臨床試験が開始されました。この試験では患者の遺伝子を採取して、がん細胞を破壊するよう編集したのち元の場所に戻し、効果を確認します。

まだ、結果は確認されてはおらず、あと18人の患者に対して同様の遺伝子編集治療を施し、その経過を見た後に、プレゼンテーションもしくは査読されたレポートとして、明らかにされる予定です。

CRISPR技術による遺伝子編集には、予期せぬ害をもたらすかもしれないという懸念があるため、体内の細胞の直接編集などは行われていません。また当然ながら倫理的な問題もあります。中国ではHIV耐性を持たせるとの名目で遺伝子編集を施した乳児を作ったと発表した医師が、後に身柄を拘束される事件が発生しています。

AIは「多様性の欠如」に瀕している?

ニューヨーク大学AI Now Insutituteは、人工知能における多様性の欠如が危険な「転換点」へとその研究分野全体を推し進めているとの研究内容を報告しています。これはどういうことかと言えば、AI技術開発の分野は圧倒的に白人男性の研究者が多いことから、そこで生み出される技術が歴史的な偏りや力の不均衡をAIの動作にまでもたらす危険にさらされているとのこと。

これまでにも、音声AIボットが差別主義的に教育されてしまったり、顔認識において白人男性の認識率が高くほかが低くなる傾向が生まれたりといった研究結果がありました。

AI Now Insutituteの報告によれば、これらのエラーの発生はAI内部の多様性が欠如しているからであり、判断できない問題に対して「推測の瞬間」を生み出しているとのこと。報告書執筆者のケイト・クロフォード氏は、業界はこの状況がいかに重要かを認識する必要があるといて、分類や検出精度、人種および性別の予測にAIシステムを活用する前に「緊急な再評価が必用だ」との見解を述べています。

報告書は、AIを教える教授の80%以上が男性であると述べ、また2015年の統計ではコンピューター科学、情報科学分野においても女性の割合が24%しかなかったとしています。またGoogleの従業員における黒人比率がたったの2.5%、Facebookとマイクロソフトでも4%でしかなく、移民の割合や性別比率に関するデータに至ってはほとんど存在すらしていないとしています。

人種や性別に関する比率、多様性を言うのであれば、この研究報告書がアジア系に関してまったくと言って良いほど触れていないのはいかがなものかと声を大にしたいところです。とはいえたしかに、コンピューターが人間の思考に近づくにつれて、開発者の、AIを鍛えたヒトの本心や思想的な部分が反映されてしまう傾向が出てくるのではないかという、うっすらとした懸念を感じていたEngadget読者もいることでしょう。

昨年にはアマゾンがAIを使った人材採用システムに男女差別の影響が現れ、使用中止になった例がありました。最近でもGoogleがAI倫理委員会を設置してからわずか1週間で解散したりと、AIにおける思想やバイアスのかかった考え方が影響する出来事が起こっています。人間の場合は、仮に心の底で思っていることがあっても、表向きは意識してそれを補正できるものの、意識を持たないAIにはそれができず、学習の際に扱ったデータの偏りが出力にも現れてしまうのかもしれません。

ランサムウェアがお天気チャンネルを放送不能に


4月18日、米国のThe Weather Channel の放送システムがソフトウェアへの攻撃によって乗っ取られたため、午前6時からの生放送が不可能となる事態が発生しました。The Weather Channelは急遽録画番組で放送を差し替え、バックアップ用のシステムを立ち上げて約1時間40分後に生放送に復帰できたものの、The Wall Street Journalは、この攻撃がランサムウェアによるものだったと報じました。

ランサムウェアとは、悪意ある何者かが、ターゲットとなるコンピューターシステムを暗号化しロックをかけてしまい、持ち主に対して身代金と引き換えにロック解除キーを渡すと迫る、悪質なハッキング手法。

ランサムウェアが話題になり始めた頃は、たとえば病院などシステムが使えなくなれば人命に関わるような施設を狙ったものが多く発生していました。日本でもホンダなどのメジャーな企業が標的となり、工場停止に追い込まれるといった事例が出ています。

その後は日本国内ではあまりランサムウェアの報道がされなくなったたものの、攻撃は下火になったのかといえばさにあらず、海外ではFedExのような大企業や、ジョージア州のように政府機関を狙った攻撃まで発生し、むしろ一般化しています。

The Weather Channelはランサムウェアの種類などは公表しませんでしたが、いつ何時、我々の勤め先や家庭のPCを乗っ取られるかは、誰もわかりません。企業でIT部門を担当する人であれば、このようなニュースを目にするたびに職場の守備が万全かをチェックする習慣を付けておくと良いでしょう。