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裁判になれば絶縁は必至、誰もトクしない結果になる。弁護士も心情の解決まではしてくれない。

■実家の土地家屋が、モメる火種になる

相続の現場で最近増えているのが、兄弟姉妹間のトラブルです。

片親が亡くなった時点(例えば父親が亡くなり母親が存命)では残された親への配慮から自制するのですが、その親も亡くなって兄弟姉妹だけで財産を分ける段になると思いもよらなかった争いが勃発し、話し合いもできないほどにこじれるケースが増えているのです。

「ウチには財産がある」と自覚している家は、親が遺言書を残したり兄弟姉妹間でそれとなく話し合われていたりと、ある程度の準備ができているものです。

問題は「ウチには相続するような財産なんてない」と高をくくっているケース。預貯金や株などの金融資産はあまりなく、相続財産が実家の土地と家屋くらいしかない場合です。経験則上、兄弟間より姉妹間でモメることが多く、実家に同居してきた相続人がいるとさらに複雑になります。

預貯金や株であれば金額を等分にすれば済みますが、不動産は分けにくい財産の典型です。

実家を売るのか、賃貸にするのか、誰かが住むのか!? かつては親と同居して面倒を見てきた相続人がいれば、他の人は譲って住み続けるのが普通でした。

とはいえ他の相続人も何もなしでは納得しにくいので、家を相続する人が代償金を払って、法定割合でなくとも納得してもらう知恵も余裕もありました。

■積年の恨みつらみが爆発してしまう

そもそも家を継ぐのは、家業や親戚づきあいやお墓の管理など、あれやこれやの面倒も引き受けることとセットでもあったので、他の相続人もある程度は譲歩したほうが得策だという判断もあったでしょう。

ところが最近は、誰も家業を継がなかったり、親が子の負担になるのを嫌って一人暮らしをしているケースが増えています。同居している子がいてもさして預貯金があるわけでもなく、兄弟姉妹が納得できるだけのお金が払えない。そうなると、

「資産を独り占めにするのか!?」
「私が親の面倒を見てきたんだ」
「相続の権利は全員にあるぞ!」
「自分は高卒で諦めたが皆は大学まで行かせてもらったじゃないか」

……等々、積年の恨みつらみが爆発してしまうのです。

考えてみれば兄弟姉妹が仲良く過ごしたのは、幼少の頃からせいぜい学生時代まで。それぞれ家を出て、盆暮れ正月と冠婚葬祭のときくらいしか顔を合わせない兄弟姉妹など、他人も同然なのです。しかも、赤の他人ではないだけに遠慮がなく、とことんまで傷つけ合ってしまうのです。

■裁判に持ち込めば「絶縁」は必至

話し合いで解決しなければ家庭裁判所に調停を申し立てることになりますが、家裁は配分の「結論」だけを決めるところで、争いの原因であるそれぞれの思いは聞いてくれません。どんな決定が下っても心情的には受け入れられず、兄弟姉妹は絶縁状態になってしまいます。

モメるのは嫌だからと弁護士に依頼する人もいますが、彼らは依頼した人の味方をするだけ。丸く収めてくれるわけではありません。誰かが弁護士をつけたら、皆が弁護士をつけざるをえなくなり、結局は絶縁です。

相続を皆が納得する形で収めるには、一にも二にも事前準備が大切です。理想は、生前に家族で財産がどれだけあるかをオープンにして、相続について話し合っておくことです。

■早めに動けばそれだけメリットがあり、皆がトクをする

親が遺言書を作り、その内容を皆で共有するのもいいでしょう。遺言書は決してこっそり作るものではありません。公正証書にしておけば偽造の心配もなく安心です。法定割合に近い配分がベターですが、なかなかぴったりとはいきません。そこで「付言事項」になぜこの配分かの理由を書いておくと、モメる要素がさらに1つ減らせます。

生前なら節税対策もできます。自宅を早めに売却すれば、その資金を以て余生を謳歌でき、有料老人ホームに入ったり、生前贈与をすることも可能です。不動産は自宅として住む人が売却するのが、最も節税になるポイントです(居住用財産を譲渡した場合3000万円までの特別控除)。

今後、預貯金や証券等の動きは、マイナンバーで正確に把握されますから、財産評価を下げて税を軽減するなどの対策は一切できなくなります。金融資産がある人は投資用マンションを購入し賃貸にしておけば分けやすくなり、時価の30%程度の評価額になるので相当な節税効果が見込めます。

いずれにせよ早めに動けばそれだけメリットがあり、皆がトクをします。夏休みに帰省していきなり相続の話を持ち出すのはためらわれるでしょうが、親の老後をサポートする気持ちで切り出してみましょう。

「母さん、老後をどうするか考えてる!? 足腰が弱ってきたらどうしよう。ケア付きの住宅に移るなら、この家は空き家になっちゃうのかな」

という具合に、親の老後を子どもとして助けたいことを言って話し合ってみてはどうでしょう? 親を主役としてそれぞれの考えを出し合っておけば、いざ相続となっても悲惨な結末にはならないはずです。

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曽根恵子(そね・けいこ)
1956年、京都府生まれ。京都府立大学女子短期大学部卒業。PHP研究所に勤務ののち87年独立。現在「夢相続」代表取締役。東京・八重洲で相談業務を行っている。

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(相続コーディネーター 曽根 恵子 構成・編集=渡辺一朗 写真=Shutterstock.com、iStock.com)