出産を諦めて里親に、40代で女子高生を迎え入れた夫婦が見いだす新たな可能性
不妊治療の末、出産、子育てをあきらめる夫婦もいるが、Tさん(46)は新たな選択肢を見出した。それは「里親」になるということ。さまざまな葛藤を経て、新たな家族を迎え入れたTさん夫妻の実状を追う。
里親を提案するも夫は「無理でしょ」
「子どもは欲しいけど不妊治療にお金をかけたいとは思えなかった」
そう話すTさんは30歳のとき、1つ上の夫と結婚してすぐに自営業の店をオープンさせた。夢中で働くうちに5年がたち、「子どもはつくらないとできない」と自覚。排卵日とタイミングを合わせるなど努力はしたが、さほど真剣ではなかった。
思いがけず37歳で妊娠したが、喜びもつかの間、流産を経験する。子どものいない人生を歩むか、夫婦で話し合う日々が続いた。
Tさんには結婚前から関心を持っていることがあった。それは「里親」だ。
会社の先輩が「フォスターペアレンツ(里親)」として、海外の貧しい子どもたちの支援をしていたことから興味を持ち、全国に「乳児院」や「児童養護施設」があることを知る。
'10年、大阪で2児を放置して餓死させる事件が起きたことに心を痛め、地元の児童養護施設でボランティアを始めた。親と一緒に暮らせない子どもたちと関わるなか、「産めなくても、里親として育てるという選択肢がある」という期待が徐々に膨らんだ。
思いきって夫に相談したら、「無理でしょ」と即答。“実の子だって育てるのは大変なのに”と言われた。子どもができないまま、2年がたった。
「このままだと、ずっと2人きりだよ。里親に登録したい」
Tさんの熱意に押され、夫も了承。「ただし、実子の可能性にかけたいから、半年は待って」という条件つきで、里親に登録した。
里親には、大きく分けて2つの種類がある。児童相談所から委託を受け、18歳未満の子どもを自宅で預かり育てる「養育里親」と、6歳未満の子どもを実子として迎えて育てる「特別養子縁組」だ。
養育の場合、国や地方自治体から養育費や里親手当を受給できるが、親権はない。特別養子縁組は希望が多く、登録後も何年も待たされるのが現状だ。
新しい家族との生活にドキマギ
Tさんのもとに養育の話が舞い込んだのは、2年後。なんと女子高生だという。「非行少女だったら?」「私たちに育てられるのか」と、不安に思いつつ夫婦で児童相談所に向かったが、事情を聞くやいなや「応援したい」気持ちに変わる。翌日、「わが家で引き受けたい」と返事をした。
最初は生活のペースが合わず、夜中、おしゃべりに付き合って睡眠不足になった。身支度など教えなければならないこともいっぱい。感情の振幅の激しさにたびたび振り回された。
大人を信じられなくなっていた子どもの養育は、一筋縄ではいかない。それでも、朝、玄関先で見送ったときに何度も振り返ってニコニコしている少女を見ると、心がなごんだ。
「血は関係ないと思いました。日々の何げない出来事を積み重ねていくことで家族になるんだろうなぁって」
少女を無事、社会に送り出したTさん夫婦は現在、2人目に委託を受けた小学生の子育てに奮闘中。“子どものいる人生”を謳歌(おうか)している。