席を確保するために、置いた私物を盗まれてしまうトラブルには注意が必要です(編集部撮影)

セルフサービス方式のカフェやファストフード店が増えた。気軽に立ち寄りテイクアウトもできる便利さと、店側にとってはフルサービス店に比べて人件費をコントロールできることも要因だろう。

しかし、そういったお店は基本的に混んでいることが多い。困るのが、注文して商品を受け取っても店内に飲食するための席がない場合だ。

先日、筆者のゼミ生から「ファストフード店で、席取り用にテーブルに置いていたハンドバッグが注文中に盗まれてしまい、たいへんな思いをした」という話を聞いた。財布、定期券、学生証、家の鍵など大事なものがすべて入っていたという。

注文前に席を取るのはマナー違反

かつて、日本人は「水と安全がタダだと思っている」と言われ、海外に出掛けたらそうではないという戒めにこの言葉が使われたが、もはや国内でも水と安全どちらもタダではない状況にある。

そもそも注文前に席を確保するためにバッグなどのモノを置くことはマナー違反という考えの読者もいるのではないだろうか。

たとえば、日帰り入浴施設などでは、洗い場やリラックススペースのソファなどの場所取り禁止をうたっている場合が多い。場所取りをしている間は誰も使えず、むしろ混雑の原因にもなるからだ。

しかし最近、セルフのカフェやファストフード店などでは禁止ではなく、むしろ注文の際に店員から「席は確保されていますか?」と聞かれ、席を確保してからオーダーするように勧める店も見られる。

こういったお店には全国的に展開するチェーン店が多い。ただ、本部が現場に「席取り」に対してマニュアルを設けているわけではないようだ。「店舗ごとにお客様の状況を見て判断し対応している」(大手コーヒーチェーン)といった回答も得られた。

お店としては注文しても席がないという苦情を受けても困るから、まず席を確保してから注文してほしいということだろう。暗黙知としてあったマナーとしての問題より、クレーム防止を優先しているものと思われる。

混雑時に1人だったらどうすればいいのか

問題は1人で利用した場合だ。複数人での利用であれば、誰かを席に残してオーダーに向かえばよいが、1人の場合は何か持ち物をテーブルや席に置いてオーダーせざるをえない。その間は持ち物から目を離すこととなり、冒頭の学生のように誰かに盗まれる可能性がある。混雑しているときはなおさらだ。

いまだに日本人は日本国内は安全と考えているのか、バッグやカバンを平気で置いておく人も見掛ける。その中に財布や定期券、家の鍵、スマホ、仕事の書類やUSBメモリーなどが入っていて盗まれたらたいへんなことになる。

盗まれてもいいもの、あるいは盗もうとする者にとって価値のないものだけを置いておくなどの自己防衛を図る必要がある。

それでは、お店側から「席を確保してから注文してください」と言われ、置いておいた荷物を盗まれたらお店側に法的責任を追及できるのであろうか。 結論から言うとそれは難しいと言わざるをえない。

店側が預かった荷物がなくなったり壊れたりした場合には、不可抗力(たとえば災害など)でないかぎり、損害賠償請求ができる(商法594条1項)が、席取り用に置いた荷物はこれにはあたらない。お店が預かった荷物ではないからだ。

店員が不注意でなくしたり壊したりした場合にも損害賠償請求ができる(商法594条2項)が、これもあたらないだろう。

要するに店内で席取り用に置いた荷物に関しては、盗難に遭ってもお店に責任は問えない可能性が高いということだ。その意味では自己責任であり、高価なモノを置きっぱなしにしないように十分注意をする必要がある。

どのような対策が考えられるか

お店側も、席取りにふさわしいモノを持たない消費者もいるのだから、席取り専用のプレートを用意する必要もありそうだ。


席取りのために札を用意しているお店もあります。写真はイメージ(写真:baitooooooong / PIXTA)

さらには、事前の「席取り」をやめて、スタッフが空席を確認したのちにオーダーを取るようにするなどの対策もすべきと思う。

いずれにしても、大事な荷物が盗まれたら消費者も店側も嫌な思いをするし、消費者自身の事後対応はたいへんだ。

英語にはストリートワイズ(streetwise)という言葉もある。その地域で生き抜く常識を理解しようという意味だ。

残念ながら日本も安全はタダではないことを再確認する必要がある。