寝る直前までブルーライトを浴びているのは良くないという(写真:プラナ / PIXTA)

世の中には、実に多種多様な「健康書」が氾濫している。しかし医者によって言っていることも大きく違い、何を信じたらいいのかわからない。「人生100年」時代、本当に信頼できて、誰でもお金を掛けずに毎日できる簡単な健康習慣とは、いったいどのようなものなのか。
4月26日、東洋経済オンラインのメルマガでもおなじみのムーギー・キム氏の渾身の著作『最強の健康法―世界レベルの名医の本音を全部まとめてみた』(SBクリエイティブ)が、『ベスト・パフォーマンス編』と『病気にならない最先端科学編』の2冊セットで刊行された。本書は日本を代表する50名に上る名医・健康専門家による直接解説を、東大医学部で教鞭をとる中川恵一氏、順天堂大で教鞭をとる堀江重郎氏が二重三重にその正確性をチェックしたうえで制作されている。
東洋経済オンラインでは同書を元に、多くの名医たちが実践しているおカネの掛からない確かな健康法を紹介していく。第3回は、快眠の極意を解説する。

睡眠は体を休めるために必要なもの。そして何より、人体に内蔵されている精密コンピュータ、『脳』のメンテナンスのために欠かせないものです。つまり睡眠は、次の覚醒のためにある、そう言っていいでしょう」

こう話すのは、筑波大学教授にして睡眠研究の第一人者であり、かつノーベル賞の有力候補者ともいわれている櫻井武氏である。覚醒時における私たちの活動は、いかに「よい睡眠」をとれるかにかかっているという。

そこで今回は、ビジネスパーソンのみならず、誰しもにとって不可欠な、「最強の睡眠」のとり方について、共に学んでいこう。


出展:『最強の健康法 ベスト・パフォーマンス編』

シナプスの整理、削除は睡眠中に行われる

そもそも我々の脳内では、睡眠中にどのようなことが起こっているのだろうか。


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覚醒中、人の脳は絶えず膨大な情報処理をしている。神経細胞は「シナプス」と呼ばれる接合部位で情報を伝達するが、覚醒時にはその効率が上昇したり、新たなシナプスが形成されて記憶を形成したりする。それらを整理したり、不要なものを削除したりするということが、実は睡眠中に行われているという。


出展:『最強の健康法 ベスト・パフォーマンス編』

「脳の神経と神経のつなぎ目にシナプスというものがあります。覚醒中によく使われていたシナプスほど強化され、脳内での情報の伝達効率が上がります。もっと長く使っていくと、そのシナプスの構造が変化し、増加もします。そうなると、同じ神経細胞同士の連結がどんどん強くなっていく性質があるのです」

櫻井氏は、脳を「コンピュータ」にたとえる。コンピュータの容量が有限であるように、脳一つの神経細胞が扱える情報量にも限界がある、というわけである。

コンピュータの重要な部分を書き換えるアップデートする際には、いったん電源をオフにする必要がありますよね。それと同様、脳のメンテナンスでもいったん覚醒状態をオフにする、つまり眠ることが必要なのです。情報処理をするのは覚醒中ですが、記憶が強化されるのは睡眠中なのです」


出展:『最強の健康法 ベスト・パフォーマンス編』

さらに、脳の神経細胞も「細胞」である以上、「代謝」をしているという。すると代謝産物として老廃物、いわばゴミが発生する。そのゴミの処理をするのも睡眠中だという。

単に疲労回復のためだけではなく、必要・不必要な情報の整理整頓など多様な役割を担っている睡眠。どうせ毎日眠るのならば、ぜひ効果的な睡眠を習慣化したいものである。

極意1:「時間」ではなく「質」にこだわろう

それではここから、最強の「睡眠」の3大極意を見ていこう。

まず気になるのが、理想の睡眠時間は何時間かということではなかろうか。それとも、必要な睡眠時間は人それぞれなのだろうか。

よく、睡眠は7時間とることが理想とはいわれますが、体質、つまり遺伝子によって、個々の顔や体型、性格が異なるように、必要な睡眠時間も異なります。程度には個人差があるものの、歳をとるにつれて睡眠時間が少なくなるというのは共通した傾向です。脳の発達段階にある子どもは、それだけ多く神経回路の組み換えをする必要があり、大人よりたくさん眠る必要がありますが、ある程度、成長し、脳が発達しきるにつれて、その必要はどんどん低下していき、睡眠も短くてよくなっていくのです」

とはいえ、脳をしっかりメンテナンスするには、睡眠時間の長短にかかわらず、やはり質のよい、十分な睡眠が不可欠なのだ。平日は睡眠不足気味だから、休日にたっぷり眠って、平日の睡眠不足を補う。こんな習慣をもっている人もいるかもしれないが、それは適切な睡眠法ではないという。

「理想は、やはり毎晩、十分な睡眠を確保することです。睡眠が足りないことを『睡眠負債』と呼びますが、まず、その負債がゼロになるような質と量の睡眠をとることです。この『睡眠負債』を後でまとめて返そう、などというやり方はよくありません。週末の長時間睡眠によって就寝時刻や起床時刻が変わると、夜になると眠くなり、朝になると目が覚めるという自然な睡眠リズムが乱れてしまいます。すると、睡眠リズムをコントロールしている『体内時計』が乱れ、睡眠の質が下がり、疲れがとれないのです」

多忙な日々を送るビジネスパーソンは、平日の寝不足を休日にまとめて返済しようとしてしまいがちである。くれぐれも、規則正しい睡眠の確保を日頃から心がけたいものである。

極意2:日中にしっかり日光を浴びよう

櫻井氏は「人の体は、朝、日光を浴びることで、夜にちゃんと眠くなるように体内時計が整えられます」と話したうえでこう続ける。

私たちの体は、夜に強い光を浴びるようには作られていません。それなのに、夜も明かりをともし、寝る直前までスマホなどの強い光(ブルーライト)を浴びている。これは好ましくありません」


出展:『最強の健康法 ベスト・パフォーマンス編』

1日のどのタイミングで光を浴びるかが、睡眠の質を高めるキーポイントということである。朝に光を浴びれば、夜にはちゃんと眠くなる。ということは、私たちの体は、朝から時間がたつにつれて、眠くなっていくようにできているのだろうか。

「朝に覚醒し、夜に眠くなるのが正常な生体リズムですが、徐々に眠くなるわけではありません。日中で最も覚醒度が高いのは、実は寝る3時間くらい前なのです。昼食を食べた直後に眠くなる人は多いと思いますが、夕食の直後って、大して眠くならないと思いませんか?

寝る前の時間帯は、「睡眠禁止帯」と呼ばれているという。たとえば「明日早いから、早めに寝よう」と思って寝床に入ったのに、なかなか寝つけなかった、という経験はないだろうか。これも、無理やり寝ようとしている時間帯が「睡眠禁止帯」だからなのだ。

重要なのは自然な睡眠サイクルで眠れるよう、朝に自然な日光を浴び、夜寝る前に不自然なブルーライトを浴びないよう、気を付けることなのである。

極意3:気合を入れて寝てはいけない


なお、健康器具売り場に行くと、様々な「快眠グッズ」も多く見かける。それだけ現代人にとって「よく眠りたい」というのは大きな課題なのだろうが、櫻井氏から見ると、快眠グッズの効果のほどはどうなのだろうか。

この質問に対し、まず櫻井氏は「そもそも睡眠にこだわる人ほど、睡眠に問題を抱えやすい」と指摘する。睡眠にこだわり、「よし!今日こそ、よく寝てやろう」と意識すればするほど、眠れなくなってしまうのだ。そういう人が、快眠グッズに走るのだろう。

ただし、櫻井氏はそれを一概に否定してはいない。


快眠グッズは、効果があるという科学的根拠には乏しいものが多いと思いますが、効果は個々の感覚で判断すればいいと思います。『これを使うとよく眠れる気がする』というグッズがあるのなら、それはそれでけっこうなことですね。『眠れないのではないか』という不安にかられれば、やはり眠れなくなってしまいます。そういう意味では、おまじない的な効果、プラシーボ効果としての安心感をもたらすものとして、快眠グッズを利用するのもいいでしょう

科学的根拠はなくても、信じることで安眠できる。「信じる者は報われる」ではないが「信じる者はよく眠れる」のである。