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よく喋る。明快に喋る。リオ五輪自由形代表・塩浦慎理はその体格を生かしたパワフルな泳ぎと合わせ、発する言葉にも見るべきところがある。自身のSNSに続き、今年9月にはスポーツサイトのインタビューで「日本はドーピングに甘すぎる」と発言。アスリートの告発は大きな反響を呼んだ。なぜ、彼はモノ言う存在になったのか。批判を恐れないのか。そのほか、水泳競技の魅力、スイマー直伝の運動法、そして東京五輪への展望も。文字数にして約8000。強い熱を感じるその世界にGO。

撮影 岸本勉 中村博之(PICSPORT)/取材 田坂友暁(SpoDit)/構成 編集部

勝負をかけた五輪に落選。その後「死ぬときに残る後悔を考えた」

ーーまずはじめに水泳をはじめたきっかけからお聞きします。

最初は兄が水泳をやっていて、僕も親に連れられてスイミングスクールに行ったのがきっかけですね。選手コースに上がったのは、小学校1年生くらいですね。先に兄が選手コースに入っていたので、僕もそこに入りたいなって思っていました。そこから考えると、もう20年ですね。

ーー現在26歳です。なぜここまで長く競技を続けていられるのでしょうか。

実は、僕もここまで水泳を続けるとは思っていませんでした。今年で社会人スイマーになって4年目なんですけど、最近、あらためて水泳が好きなんだな、と思うことがよくあって、だからこそここまで続けられているんじゃないかと思います。

ーー水泳が好き、と感じるのはどういうときですか。

いろんな国際大会に出場させてもらっていますが、何回出場しても力不足だな、と感じるし、そう感じることによって、もっと速くなりたいな、と純粋に思うんです。子どものころ、ただ泳ぐのが好きで、速くなりたいって思っていた純粋な気持ちというか。高校、大学のときは、あまりそういう気持ちを持てなかったんですけどね。

ーー大学時代、といえば2012年のロンドン五輪の選考会前の出来事があります。左の指を骨折するというアクシデントに見舞われ、五輪代表権を逃してしまいました。今だから言える、その当時の気持ちとは?

そのときは、結局自分は五輪に行く運命にはないんだな、という感覚でしたね。僕が五輪を目指そうと思ったきっかけは、(中学校時代の)2004年アテネ五輪の頃でした。そこから計画を立てて、最終的な目標としたのが2012年のロンドン五輪の出場でした。もしこの年、五輪に出場できなかったら競技は引退しようと思っていました。ロンドン五輪の前年には日本記録も出していましたし、確実に日本代表には入れるだろう、と思ってやっていたんですけど、直前のケガもあって落選してしまって。

ーーしかし、それからも競技は続けています。なぜリスタートして、また4年後の五輪を目指そうと考えたんでしょうか。

まずひとつは、ロンドン五輪の選考会が終わってからも「次があるじゃないか」と周りの方々が言ってくれたり、その後もずっと僕を応援してくれる人がいたりしたことですね。

もうひとつは、僕自身が人生を終えるとき、死ぬときに、何かひとつ後悔が残るとしたら、五輪に行けなかったことなんじゃないか、と思ったんです。競技以外のことだったら、引退してからいつでもできます。でも、水泳で五輪を目指す、ということは、競技を続けている今しか可能性がありません。きっと後悔したままなんだろうな、と感じたまま生きていくなら、もう一回チャレンジしてみよう、ということで再スタートしました。

”大一番”でのプレッシャー対処法 「これこそ今しかできない」と考える

ーー引退も考えた敗退から4年後、2016年のリオデジャネイロ五輪の代表に見事選ばれました。夢だった五輪の舞台はいかがでしたか。

特別な舞台だなっていうのはすごく感じました。とにかく、今まで出場していた世界水泳選手権やほかの国際大会に比べると、圧倒的に応援してくれる人の数も多いし、注目度も関心度も高くて、これが五輪なんだな、と。全く今までの国際大会と違う印象でした。

でも、実際に五輪が行われるプールで泳いでみると、プールは逆にいつものプールで(笑)。結局、思うような結果は残せませんでしたが、もう一度五輪を目指して頑張ってきて良かったな、と思えるところでした。

ーー五輪の選考会や五輪本番はもちろん、そのほかの国際大会では、大きなプレッシャーも受けると思います。「ここ一番で、大勝負」という状況に正面からぶつかります。塩浦選手はどんなことを考えているんですか?

ロンドン五輪の出場権を逃してから、リオデジャネイロ五輪を目指してずっとやっていたわけなんですけど、実際に2015年のシーズンが終わって、いよいよ五輪のシーズンが始まるとき、やっぱりいつものシーズンと違った緊張感がありました。周りの選手たちの頑張りもひと味違うなって感じるところもたくさんありましたし、もちろん自分自身も今まで以上に頑張りました。

そういう特別な緊張感とモチベーションの高まりが相まって、すごくワクワクすると言うか。五輪が行われる特別な雰囲気がすごく楽しかったですね。これこそ今しかできない経験なんだ、っていうことを身をもって体験しました。

ーースプリンター(水泳の短距離選手)にとっては、スタートが命です。緊張感も最高潮に達する瞬間だと思いますが、スタート直前に考えることは?

僕はあまり何も考えていなくて(笑)。細かい技術とかは、練習でやってきた部分が現れると思うので、イメージしているレースの流れを再確認するくらいですね。レースが楽しみでワクワクしているときもあるんですけど、そういうときは気持ちが高まりすぎて力まないようにしよう、ということは考えることはあります。

あとは……五輪の選考会のときは、友達がたくさん観に来てくれたり、家族が応援に来てくれたりしていたんですけど、みんなレース前の僕から見える距離に座っていたんですよ。意外と顔がよく見えちゃって、それがまたなんだか結構おかしく思えてきて(笑)。そういうこともあって、五輪選考会ではほどよい緊張感でレースに臨めましたね。

国際大会で”強い相手”との出会いを楽しむ!

ーーでは、そうやって水泳を続けてきた塩浦選手がオススメの水泳観戦法をお聞きしたいです。

たとえば、僕は50m自由形を呼吸しないで最後まで泳ぎ切るので、できたら、観戦しているときに呼吸をしないで観てみてもらいたいですね(笑)。20秒ちょっとの時間なので。友達とかが僕のレースを観ていて、結構「観ていると息を止めちゃうね」と話しているので、選手と同じ苦しさを味わってみるのも面白いと思いますよ。

あと、僕は自由形なのでリレーにも出場する機会が多いんですけど、リレーは個人レースとはまた違った雰囲気を味わってほしいですね。チームが作り出す一体感とか、会場の盛り上がりなんかも楽しんでもらえたら。特にリレーは、選手たちもすごく気持ちが盛り上がる種目なので、そのあたりにもぜひ注目してもらいたいと思います。

ーーやはりリレーは気持ちの入り方が違うんですね。

個人種目もリレーも、僕は同じくらい好きですよ。違いを言えば、個人種目は自分が今までやってきたことのすべてをそのレースに出し切って勝負する、という感じ。リレーはその国を代表するメンバーが揃って出場するわけで、個人種目のときよりも『国同士の対決』という感じが色濃くなるんです。スタート前に選手たちが待機する招集所から、もう国同士の戦いが始まっている感じが好きですね。

ーーレース前から戦いが始まっているんですか。

そうですね。招集所で僕がいつも感じるのは、アメリカチームの余裕ですね。俺らは強い、という感じをすごい出すんですよ(笑)。あの空気感はかっこいいな、って思いますね。もちろん、僕たちも絶対に負けない、って雰囲気で対抗しますよ。招集所といえば、基本的にみんな身体が大きい選手ばかりなのに、会場によってはすごく場所自体が狭かったり、イスの間隔が狭かったりして、座っているとほかの国の選手と肩がぶつかったりするんですよね。

そういうとき、僕はあえて強い選手の横に座って、わざと「なんか肩がぶつかるなぁ」なんてやることもあります(笑)。

トップスイマー直伝の泳法「もっと身体が浮くようになります」

ーーそうやって観ていると、「自分も泳いでみたいなぁ」という思いに駆られます。自由形(クロール)のスペシャリストである塩浦選手から、楽に、きれいに泳ぎたいという人に向けたアドバイスをお願いします。

ひとつは、身体の力をうまく抜けるかどうか。たまに一般の方が泳ぐプールに行ったり、マスターズ大会などに行ったりする機会があるんですが、泳ぎを見ていると、ちょっと力みすぎかな、という印象を受けることがよくあります。

もうひとつは、空気をたくさん吸って、肺にしっかり溜めておくこと。これが結構大事で、力を抜いて泳ぐことにもつながります。肺に空気を溜めておくことで浮力を得られますから、身体が浮いて力も抜きやすくなるんです。苦しかったり力んでいたりすると、あまり息を吸えず、しかもすぐに吐いてしまって息が肺に溜まっていない状態が続いて、どんどん沈んでいく。そこで、ちょっと冷静になって肺に息を溜めることを意識すれば、今まで以上に身体も浮いて、もう少し楽に泳げるようになると思います。

苦しいときこそしっかり吸って、しっかり止めて泳ぐ。息を吸って、ちゃんと肺に空気を溜める、というイメージを持つだけでも、身体が浮く感覚は変わると思いますよ。

ーーでは次に、速く泳ぎたい、という人にはどういうアドバイスを。

バタ足を細かく速く行うことですね。手のほうが意識しやすいと思うんですけど、それよりも足を速く動かすことを意識すると、それに合わせて手の動きも速くなって、泳ぎのテンポも速くなるんです。それがすごく大事だと思います。

ーーところで、ご自身が自由形という種目を選んだ理由は?

すごく単純なんですけど、いちばん速く泳げる種目で、いちばんかっこいいと思ったからです。さらに、いちばん速いといえば自由形の短距離。今でも、このかっこいいと思った種目で結果を残したい、とこだわりを持ってずっと自由形専門でやっています。

ーーもう一つ、運動法についてのお聞きしたいことが。サラリーマンのなかには、「運動したいんだけど、明日に疲れを引きずるのは困るなぁ」という人も多くいます。ずばり、おススメの疲労回復法とは?

逆説的になるかもしれないんですけど、身体を少し動かしたほうが疲れは取れるような気がしています。僕の場合、シーズンオフの期間、たとえば1週間とか何もしない期間ができると、かえって身体の状態が不健康というか、何もしていないのに身体が重いとか、夜にあまり寝られないというような状況が続くこともあります。そういうとき、ちょっと身体を動かすとすごくよく眠れるようになったり、身体が軽くなったりするんですよ。

だから、まずは朝起きたら少し身体を動かすと良いと思います。思い切って夜は早く寝て、早起きして少し歩くとか。そうやって少しでも運動すると、夜はすぐに眠れるようにもなるんですよ。

ーー軽い運動、という方法は最大活用できる、と。

そうです。まずは1、2週間、頑張ってちょっとした運動を頑張って習慣づけると、最初は辛い時期もあるかもしれませんが、意外と運動せずに身体を休めることばかりしていたときよりも、朝起きたときに身体がスッキリしていたり、疲れにくい身体になったりするんです。

疲労を取り除く、というよりは、ちょっと身体を動かしてみると状態がリセットされて、気持ちもリフレッシュできたり、疲れにくくなったりする。そのほうが、良いと思うんですよね。やりすぎたらもちろん疲れてしまうんですけど、ちょっと軽く、たとえば2、30分歩くだけでもいいだろうし、自転車をこぐだけでもいいだろうし。それくらいしてみると、思ったよりも身体の調子がいいな、って感じることが多くなると思いますよ。

ぜひ世の中のいろんな人たちに、もっと運動を広めていきたいですね(笑)。